推理不要なミステリー(前編)
推理小説には決まって前置きの平和な部分や自己紹介。そしてアリバイの確認。最後は証拠の調査などがあって、犯人を突き止める。しかし女神さまはその途中の工程を無くせば、すぐに犯人がわかってすっきりするのではと感じ、新たな星を作る。
「推理小説って、どう思うかしら」
「……と言いますと?」
またしても唐突な質問から始まる目の前の女神様。こういう質問は決まって星が生成されるのが目に見えている。
「推理物も物語を人間界から拝借して読んだのだけれど、後半は探偵が物事を組み上げて最期に犯人を捕まえるのがお約束なのよね」
人間の世界で少し生活をしていく上で、テレビで流されている推理ドラマを見ていたため、多少の文化的な知識はあるが……。
そう思い、考えを言ってみる。
「それが推理小説等の醍醐味と言う物では?」
「はっきり言って、最初の自己紹介だの、事件発生部分は蛇足だと思っているのよね」
「それを言ってしまうと、推理小説の意味が……」
「と言うわけで、推理が必要の無い世界を作ったから、ちょっと登場人物として出て頂戴」
「また……ですか」
またしても僕は、何かを演じなくては行けないらしい。
.推理不要なミステリー
「犯人が、まだここにいるかも知れない!」
目を開けると、目の前に茶色のジャケットを着た男が、少し声を荒げて発する。
周りを見てみると、どうやら洋館。しかも森の中にあり、ちょっと神の力を使って周囲を確認すると、街から結構離れた場所に転移したらしい。
「えっと、どういうことか、説明してください。タンテイさん」
ん? 今の名前を呼ぶとき、少しイントネーションが変だったような。
『あ、今回は登場人物がわかりやすいように、役職を名前にしてみたわ』
女神様の声が頭に届き、とりあえずこの世界はそういう物かと納得する。
「状況をまず整理しよう。この洋館の一〇一号室で密室殺人が起きた。その間、皆さんが何をしていたか、教えて欲しい」
なるほど。最初の殺害シーンが無くなっている。しかし、推理シーンは残っているのか?
「とりあえず君、名前と職業とその時間のアリバイを言ってくれ」
『あ、名前と職業は、とりあえずカンパネと神官。アリバイは自室でパンを食べてたって言いなさい』
「えっと、カンパネって言います。職業は神官で、自室でパンを食べていました」
「ふむ、それを見ていた人は?」
そう言われても……。
答えに困った僕は隣の女性が手を挙げて答える。
「私がパンを届けました。名前はメイドで、この屋敷のメイドをしています」
『これはとりあえず事実と思って頂戴。面倒だから』
なるほど。ここまでは女神様も設定した通りか。
タンテイがうなずき、次に隣の男性を見る。
「君は何をしていたのかい?」
「おうよ。俺はニワシで、庭師をしている」
「その証拠は無いかな?」
「そうだな……木を切ってた傍ら、タンテイさんが外でたばこを吸ってたのを見てたくらいで、俺が見られてたかは知らないな」
「ふむ、実際たばこを吸った記憶はある。大きな音もしていたし、事実だろう」
同時にタンテイのアリバイも発見。これはやはり推理が必要なんじゃないかな。
最期に、一番端に立っていた男性に質問が回る。
「君の名前とアリバイを教えて欲しい」
「名前はハンニンです。職業は大工で工事に来ました。その時間はこの洋館の主人を殺しました」
……え?
「アリバイはありそうですね。では次に」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください」
「どうしましたカンパネさん?」
「いやいや、今犯人居ましたよね?」
「え? まだ推理してませんが?」
「自白しましたよ!」
おかしい、タンテイはとても冷静なのも違和感しか無い。
「いや、確かに彼は犯人で殺害したと言いましたが、本当なのかを突き止めなければ意味が無い」
確かに、誰かを庇っての発言かもしれない。そういうドラマも存在するし、これは僕も少し反省するべき所。
「密室で二人きりになったときに、ナイフで刺しました」
「……」
え、今、言ったよね?
「そうですか。では、調査に入りましょう」
「ちょっと待ってください!」
いやいや、割とさらりとしっかりした情報を言ったよ?
「何ですか? さっきから大声出して」
「ハンニンさん、ナイフで刺したって!」
「ええ、だから本当に刺したのかを確認しましょう。もしかしたら、本当はナイフで刺さってないかも知れないじゃないですか」
な、なるほど。ナイフで刺さってなかったら、庇っているという嘘の証言だ。これは確かめなければいけない。
刺さっていました。
「もう犯人逮捕で良いんじゃ無いですか?」
「いえ、まだ決めつけは良くありません。どのように刺したのかも不明です」
これ、絶対次に刺した箇所とか言うでしょう。
「二人きりで、主人が昼寝をしたタイミングで刺しました。ナイフの指紋はこのタオルで拭き取って、返り血は焼却炉で焼きました。ここの返り血が内部分に対しては僕が立っていたため不自然に返り血が無いということですね。そしてナイフはメイドさんの指紋をつけようとキッチンに置いてます。メイドさんの指紋をつけることでメイドさんが怪しくなる作戦を企てました」
めっちゃ話すねこの犯人!
「えっと、これで良いですかね?」
「何がです?」
え?
「ハンニンさんはメイドさんに指紋をつけさせるためにナイフをキッチンに置いたのですね」
「はい」
「ではキッチンに行きましょう」
キッチンにたどり着き、ナイフを取り出す。
一見普通のナイフだが、よく見ると血の跡が少し残っている。
「偶然この指紋検知器を持っているので、これで確かめます」
スマートフォンの様な検知器だが、本当にそれで良いのだろうか?
「こ、これは?」
「何か映っているのかい?」
ニワシが質問をして、タンテイに聞く。
「メイドさんの……指紋!」
いや、だから言ってたじゃん。メイドさんの指紋をつけようとしてたって。
そう思っている中、メイドさんが震え始める。
「わ、私じゃ無い! だって、このナイフは普段料理で使うナイフで……」
「なるほど、でもナイフには指紋。でもその時間はアリバイがある。これは
難事件だ!」
『あー、カンパネ。良いかしら』
「はい」
『滑稽すぎて眠くなってきたわ!』
「こっちも呆れて声が出ませんよ!」
もうこんな世界、早く出たい。
というか、ハンニンが全部説明していて、なんで誰も不思議に思わないのだろう。
そう呆れている中、女神様が僕に話し出す。
『滑稽すぎるから、追加設定するね』
ここからが、この世界での、最悪……? な出来事の始まりだった。




