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女神様の星作り  作者: いと
人間の住まう世界編
17/28

厨二病の世界(後編)

女神さまの命令で、次の場所へ移動するカンパネ。そこにたどり着くと……



 コンビニに到着し、まず最初に始まった出来事は、予想通りというか、なんというか。


「備えし武具を解き放ち、その手を天に掲げたよ!(荷物は捨てて、両手をあげろ!)」


 コンビニ強盗に襲われていました。

「己の愚かさによって後悔する前にその罪を償うが良い!(ぎゃああああああああ!)」

 ん?

「汝、言葉を発する事なかれ! 逆らうならば我が宝具にて汝を亡き者とする!(黙れ! 拳銃で撃つぞ!)」

「宝具……だと! 貴様、人間を捨てて何を求める!(ぎゃあああああ!)」

 おや?

「その琥珀色の箱から我が求めし宝を渡せ。さすれば命は助けようぞ!」

「き、貴様の悪に染まりし心を浄化できるのであれば、この宝を譲渡する他なかろう!(ぬああああああ!)」

 いやいや、おかしいでしょ。

 店員さんは心の声よりも変な台詞の方が会話として成り立ってる気がするよ!

『凄いわね。まさかあのぎゃーとかわーとかにもあんな意味が込められているなんて。実は動物もワンとかニャーの中にも凄まじい情報量があるのかしら』

 女神様が変な推測をし始めて、こっちはこっちで大変な事になりかねない状態である。

 ちなみに僕は、神の力を使えばこの状況を奪回することも可能だけれど、女神様は「人間に従って、人質になりなさい」とのこと。

 素直に両手を挙げて、壁際に寄り添っている。

 客も僕だけでは無く、数人隣に並んでいて、僕の隣の女性は震えて居る。

「暗黒に染まりし人間と遭遇するなんて、運命さだめには逆らえないのかしら(強盗に襲われるなんて、ついてないわ)」

 どうやら僕を見て話しかけている。え、話さないとだめなの?

「……そう、ですね」

「まさか異国より来られし使者でしたか。言葉は異なれど、一緒に無事を神に祈りましょう(外国人でしたか。今はとにかく祈りましょう)」

 え、僕の言葉、通じなかった?

『厨二言語じゃないと通じないわよ』

 何ですかその言語名は!

『わ、我異国より来たれし使者なり……拙き言葉で申し訳なく存ずる」

「まあ! 我理解されたし(まあ、わかりました)」

 女性が少し微笑み、お互い慰め合う。

 というか、僕はこの恥ずかしい言葉を発したことに対して慰めて欲しいというか、どこにこの恥ずかしさをぶつければ良いのだろう。

 そう思っていた矢先、ようやく警察のパトカーが数台コンビニの前に止まり始めた。

「暗黒に染まりし悪の化身よ! その宝具を下ろし、我によって封印されよ!(強盗! 銃を下ろしてこっちに来て自首しろ!)」

「否! 我は我の目的を果たすまでは消してここを離れる事なかれ!(断る! 金を貰うまでは離れない!)」

 犯人も混乱しているのか、逃げるという考えまで至っていない。

 というか、正直この会話を聞いて心の声を聞くの、めちゃめちゃ疲れてくる。

 女神様はすこぶるご機嫌なのだが、僕はその逆で、帰ったら休みが欲しいほどだった。

「仕方あるまい、召喚魔法を使う!」

 その発言に驚く僕。え、召喚魔法?

 と、驚いた数秒後に心を読み忘れていたため、遅れて確認する。

(次の手段だ。連れてきた親を連れてこい!)

 ……驚きを返して欲しい。

 しかし、連れてくるという単語を召喚魔法という言葉にすると、高位な魔法が庶民的になってしまう。

 相変わらず女神様からはメモを取っている音を僕に送ってくる。おそらく音声を斬っていないのだろう。

「我より生まれし幼子よ! 今一度その人生を転機させ、悪魔の無い姿で世に貢献せよ!(息子! 考え直して! 今ならまだ間に合うよ!)」

「信じぬ! 我の夢には宝が必要。後戻りはせぬ!(嫌だ! 金を奪って夢を叶えるんだ!)」

「その宝では足らぬ! それにはかなき夢に他の宝など不要だ!(そんな金では無理だよ!)」

 親と子供の話し合いもむなしく、次第にお互いが黙り出す。

 警察が話し合うなか、とうとう「仕方が無い」と行って、パトカーから一人人間が登場する。

 その男は僕よりも身長は高く、腕も太く、右手には長いアサルトライフルを持っていた。

「そ、その漆黒の武具は!(その武器は!)」

 まず先に親が驚く。

「……我、心なき化身なり。彼の物を亡き者にしたとて、何も思わぬ」

「待たれよ! 話が幼子にその武具を向けるのならば、我の命も絶たれよ!(待って! 息子を撃たないで!)」

「……時の無駄は好かぬ。彼の物を消し、我の仕事は終わる」

 ん? 今、全員の心を読んでいるはずなんだけど、あの大男だけは聞こえない。

『予想外だわ!』

 突如女神様が大声を出す。

「どうしました?」

『あの大男、厨二病だわ!』


 ……え?


 特徴的な言語が標準語なのに、その上厨二病ってあるの?

「我の邪魔をするならば、貴様もろとも屠り去ってやる」

「悪魔の親を後退させよ!」

 警察が親を取り押さえて大男から離す。

「幼子よ! 考えを改めよ! まだ時は許される!(息子! 考え直して! まだ間に合うから!)」

 あれ、だんだん理解できるようになってきた気がしたのは気のせいだろうか。

「悪よ……滅びよ!」


 パアン!


 銃声が鳴り響き、静まりかえる。

「……何故、邪魔をした」

 大男が隣の警察を睨む。

「……貴様の漆黒の武具では、悪魔を消し炭に変えかねぬ。それに、我の武具により悪魔は無力化した。(君のアサルトライフルでは蜂の巣にしかねないからね。それに俺の拳銃の音で強盗は気絶したよ)」

 強盗を見ると、確かに倒れ込んでいた。縦断は全く関係の無い場所に当たり、けが人はゼロ。

 ある意味一番平和的に解決に向かっていた。

「……次我と会った時は最期だと思うが良い」

承知はいはい

 そう言って、大男はパトカーに乗る。犯人は逮捕されて親は泣き崩れ、人質は解放された。

 人的被害は無く、ただあったとすれば。


 僕の心が折れかかっている。


.☆


「もう二度とあんな世界は作らないでください!」

「えー、楽しかったじゃん」

 カミノセカイに帰還後、僕はすぐに女神様に文句を言っていた。というか今回くらいは文句を言っても良いと思う。

「厨二病というのは人間の思春期等に訪れる一種の成長期よ。それが標準となると人間の成長が止まらないと思ったんだけれど」

「絶対そこまで考えていませんよね!」

「バレたか」

 舌を出して、可愛く振る舞っても無駄です。

「とはいえ、今回の実験でわかったのは、例え世界にルールを与えても、元々ルールに則った人間は、色々と不都合が起こるということね」

「と言いますと?」

「私もあの大男の心が読めなかったわ。素なのかは不明だけれど、少なくともあの男は人間の可能性の一種だけれど脅威の一つでもあるわね」

「女神様は、人間の可能性を見てみたいのでは無いですか?」

 僕の素朴な疑問に女神様は笑顔で答える。


「可能性は見たいわよ。でも、邪魔になるなら消すだけよ?」


 女神様の感情もまた、破綻しているのであった。

いとです。

今回は中二病な世界ということで、頭の中に浮かぶ言葉を全力で振り絞った次第です。なかなか言葉というのは難しく、同じ日本語でも別世界の言葉に思えますね。

明日は少し長めの短編を一本。別作品で投稿します。よろしければお付き合いいただければと思います。

では。

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