女神様オンライン
突然ソシャゲを始めた女神様。そして自分もソシャゲを自由気ままに作って人間の行動を見てみたいと思い、配信開始。カンパネが見た人間の行動が……
「唐突だけど、インフレってどう思うかしら?」
唐突ですが、そんな質問に完璧な答えを出すことができたら、それは神です。いや、僕は神ですけど。
「今度は何を思いついたのですか?」
「人間の世界にはインフレという言葉があるわ」
唐突に眼鏡を付け始める女神様。そうしている分にはとても美人で人間なら誰しも惚れる容姿なのだが、中身がとても残念である。
「急激な物価の上昇や通貨の上昇によって起きるインフレ。でもこれはあくまで経済という現実的な話しね」
唐突にワンピースのポケットから、四角い物体を出す。えっとアレは確か。
「……スマートフォンというやつですか?」
「そうよ。最近私は、ソーシャルゲームというものにハマってしまったのよ」
「は、はあ」
女神様がソシャゲに……えっと、昨日までの残酷な女神様は一体何処に行ったのだろうか。
「気分というのは時に残酷ね。昨日の私は昨日の私。今日の私は今日の私よ」
何かを語りながらスマートフォンを操作する。
「このゲームにはガチャという物があるわ。レアなキャラクターは出にくく、そして強い。戦闘もあるわね。強い攻撃は恐ろしい数字をたたき出すわ」
よく見ると、女神様はかなりやりこんでいるらしい。人間の作ったゲームに女神様がプレイする。人間の手のひらの上に踊らされているのは女神様なのでは?
「さて、ここからが本題よ。先ほどのインフレの話しだけど」
「あ、最初の話しは無駄では無いのですね」
「ええ。これを見なさい」
そして見せられたのは一つのゲーム画面。
そして、そのゲームの作者は、驚く暇も与えてくれなかった。
目の前の女神様だった。
.女神様オンライン
ベースの星に到着。
今回の目標は、女神様が作った「女神様オンライン」の感想を人間から聞き出すことだった。
「というか、感想くらいだったら別にレビュー欄で良いのでは?」
『それでは意味が無いのよ。人の生の声ほど重要な物は無いわね』
それっぽい事を言いつつも少し説得力に欠ける女神様の意見をとりあえず放置し、周りを見てみる。
どうやら公園の近くに転移したらしいが、ベンチでは早速『女神様オンライン』をプレイしている人たちがいる。
「えっと、ちなみにどんなゲームなのですか?」
『そうね。とことんインフレを考えたゲームよ』
「……いまいちピンと来ませんが」
『あ、そこの少年、今からガチャを引くみたいよ! 見てみなさい!』
言われるがまま、神の力を使って少年の近くに行き画面を見る。
「やった! レア度一億五千六百だ!」
「意味が分かりません!」
『ええ! レア度一億五千六百よ! そのままじゃない!』
僕が人間の世界で得た知識の中で、こういったソーシャルゲームのキャラクターのレア度は五段階とかである。そんな中、目の前の少年は一億……を引いた。もう意味がわからない。
続けて隣の少年がガチャを引く。
「よーし、五百連ガチャを引くぞ!」
ばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!
まるでキャラクターがベルトコンベアーに乗って流れているかのごとく写し出される。
「くそー! 一億代が五体かー」
え、今の一瞬の流れ作業でわかったの?
『凄まじいわね。あの一瞬映し出された画面で一億代の数を正確にわかるなんて。やはり人間には隠された力が眠っているわ!』
「そんな事に感動しないでください! というか一億って、キャラクターは何体いるんですか!」
『五百億ほど作ったわ。ちゃんと色違いとかの手抜きをせずに、全て違うキャラクターよ』
「なんでそこに全力を出したんですか!」
『レア度も最大はとりあえず三億ね』
「とりあえずガチャの処理については人間のサーバーの管理者に同情します」
これほどのキャラクターである。容量も凄まじいだろう。
『さて、本番はここからよ! そこの少年のプレイを見てみなさい!』
そして少年達はお互い勝負をする体制に入る。
「行くぞ隆史!」
「来い! 健太!」
ゲーム画面を覗いてみると、豆粒みたいな軍団が東西に別れている。えっと、これがキャラクターだろうか。
『それ一体一体がキャラクターよ。その中にさっきのレア度一億とかが居るわ』
「ただのわらわらしたゲームじゃないですか! レア度関係無いですよね!」
『いや、そこはちゃんと作り込んだわよ。拡大するとキャラクターの髪の毛一本まで見えるほど作り込んでいるわ』
「だから、そのこだわりはどこから出ているんですか!」
確かにわらわらした戦闘を時々少年は拡大して様子を見ている。キャラクターが宙を舞い、華麗な技を決めている。
そして、攻撃を受けたキャラクターにはダメージが表示される。
八億二千万ダメージ!
「いやいや、ヒットポイントいくつあるんですか!」
『そこもインフレさせてみたわ。最近ではよくあることよ』
「そう言ってもそんなオーバーダメージを与えても、相手が……え」
先ほど八億ダメージを受けたキャラクターが苦しみながら立ち上がる。
『もちろん、ヒットポイントもそれなりに調整しているわ』
「いやだから、全てを少なくすれば良いじゃ無いですか!」
内部処理が大変そうだなーと思いつつ突っ込む。この辺りは人間の世界で少し勉強したから出てくる感想だ。
「全部数字が多いと、ユーザーも離れると思いますよ」
『そう思って、たまに一桁の数字も使っているわ。ほら、見てみなさい?』
意外にもきちんと女神様は考えているのかと一瞬思ってしまったが、それも一瞬で覆される。
「よーし、ここでスキルだ! 全部対影分身!」
「何! 四億の軍勢が八億だと!」
いやいやいやいや、倍ですよね!
『ほら、ちゃんと一桁の数字よ」
『倍は一桁と言いません。二という数字を使った詐欺です!」
僕の突っ込みも、追いつかない。そうこうしているうちにスキルを使われた少年が最後の手段と言って、スマートフォンをタップする。
「禁断呪文だ! 全員裏切り!」
「何! や、やめろおおおお!」
先ほど影分身たるスキルを使った少年が叫ぶ。
「あ、熱い! 熱い! 強制終了だ。もしくは対戦を強制的に」
そして、悲劇は起こってしまった。
スマートフォンが、破裂してしまった。
.☆
悲しい事件を見てしまった。
最初は少年達が楽しくスマートフォンでゲームをしていたように見えたが、後半にさしかかり、スマートフォンが破裂してしまった。
「ああ、あああ」
「……その、ごめん」
「うるさい! なんで、なんで僕のスマートフォンを!」
「……勝ちたかった……」
「あああああああ」
少年は泣き叫び、破裂したスマートフォンを投げ捨てて走り出す。
残された少年も、少し落ち込んで帰って行く。
「一体、何があったのですか?」
『私も予想して無かった……というより、予想以上の結果だったわね。まさか、勝負では負けたけど試合には勝った……それをあの少年が選ぶなんてね』
「意味がわかりません。試合は謝っていた少年が勝った様に見えたのですが、勝負に負けたというのは?」
『最後のスキルは、自分の味方を全員敵にするというスキルよ。こんなスキル、誰も使わないと思ってネタとして作ったのだけど、さすが人間だわ。こういう使い方をするなんて』
「ネタとしてのスキル……ですか?」
『ええ、人間なら何か面白い事をすると思って設定したスキルよ。そしてそのスキルを使って、自分の味方は敵になり、敵だったキャラクターは味方になる。数億のキャラクターが一斉に味方になれば処理も必要になる。スマートフォンはそれに耐えられなかったのね』
つまり、少年は友人のスマートフォンを、壊したのか。それはまるで、女神様のような、残虐な行為だと思ってしまった。
「これが女神様の望んだスマートフォンのゲームですか?」
『うーん、少し違うわね。もともとはただ数字が膨大で、キャラクターも膨大。先が見えない物に対して人間はどう挑むかを見てみたかっただけなんだけど、これはこれで収穫よ』
仮にゴールを設定していて、そこにたどり着けば予想内。
ゴールがほど遠い場合、人間はそこにたどり着く前にやめてしまい、女神様にしてみればそれは面白くない結果。
つまり、今回の少年の行動はある意味で一番理想的な終わり方だったかも知れない。
『人間のゲームは面白いけど、技術に限度あり……と。まあこれは時代の流れで変わるし、気長に待つしか無いわね』
「ちなみにガチャは一回何円なのですか?」
『え、五百回で十円よ』
優しい世界なのか、厳しい世界なのか、女神様の考えもまた、僕には分からない状態だった。
今回は一話完結型です。次回ものんびり書いていきます。




