サイレントワールド(後編)
サラリーマンのくしゃみで世界が滅ぶも、再度複製。でも結局は声を出せないもどかしい状態の中、女神様とカンパネはあることに気が付く。
とりあえず最初のやりとりはいつもと変わらないので僕の記憶からはあっという間に消え去り、四度目の上陸。
今回はさすがに女神様も無理と判断したのか、少し判定を甘くしたらしい。
例えば、足音くらいの音はセーフだけど、ガラスが割れたりするとアウトらしい。
くしゃみで世界が滅ぶなんて、むしろこの設定にしてから数十秒間無音だったということに奇跡を感じる。
とりあえず周囲を確認すると、先ほど足音を立てずに歩いていた人間は、少し音を立てて歩いている。
走る人もいるが、それほど大きな音を立てては無い。
(女神様、聞こえますか?)
心の中で女神様に問いかけると、答えが返ってきた。
『ええ、ようやく私も普通に話せるようになったわ』
(僕にもその神力が欲しいです)
消音の神力を使ったとして、結局のこと喉までは声が出て、そこから先の音が消える。つまり、音は出ていることになるので世界が消滅する……という可能性の話しだ。
うかつに実験をして女神様に怒られるのも嫌なので、ここは素直に黙って行動する。
『音の無い……いえ、音が出せない世界ではどのような知恵を使うか楽しみね』
話すことができないとなると、身振り手振りで伝えるのだろうか。
『あ、あれを見なさい。赤い看板の下の女性二人』
少し離れた先に、二人の女性が何やら……動いている?
(両手を使って何かをしているそうですが、一体なんでしょう)
心を読んでみる。
「ウチの旦那、とうとう新しい細胞を発見したの。どうやら宇宙でも空気が吸える技術に応用できるらしく、今名前を決めようとしているのよ」
「まあ素晴らしいわね。ちなみに候補は何かしら?」
「宇宙でも呼吸ができるから、宇宙呼吸ニウムかしら」
「ダサくないかしら?」
『すご!』
女神様が唐突に驚く。
(急に声を出さないでください。どうしたのですか?)
『造語をあの身振り手振りで伝えたのよ! 心を読まない限りは絶対に不可能な技術よ!』
いやまあ確かにそう言われるとそうだけど。
それにしても気になるのはこの女性の会話である。実際凄い会話の技術ではあるが、会話の内容も気になる。
(女神様、この人間達はどうして宇宙に行きたがるのでしょう)
『憧れじゃないかしら? 宇宙に関して研究している人間の感情を読み取ったけど、なにやらロマンを探しているみたいよ』
(ですが、それはベースの星の宇宙研究者ですよね?)
『なかなか面白い考えねカンパネ。危うく『私の』脅威を生みかねなかったわ』
私のと行った。確かにそう言った。
『カンパネの指摘が無かったら、私は見過ごす所だったわ。この星から出て、私に刃向かう人間を知らずに作る所だったわよ』
(と、言うと?)
『宇宙でも呼吸ができる。つまり、この星の外に出ることができる。百年や二百年では達成できなくても、千年二千年後にはカミノセカイに人間が来るかもしれないということよ』
(それはそれで人間の可能性を見るのに良いのではないでしょうか?)
『私はね』
今、自分が楽しみたいだけで、私に向かってくる人間には興味が無いのよ
とても冷たい声。
そして、それは恐ろしく、身動きが取れないほど冷め切っていた感情だった。
『カンパネ。そろそろ戻るわよ』
(え、あ、はい。でもどうやって?)
『あー、じゃあこれで良いわね』
そう言って、女性の近くにあった看板が
大きな音を立てて倒れた。
.☆
とても後味の悪い最後だったというべきだろう。
人間がこの生きづらい世界で必死に研究をしたのに、女神様のちょっとしたいたずらで世界が滅んでしまう。
何億の人間が先ほどの出来事で消えたと思うとぞっとするが、それを考える暇をくれない存在が目の前に立っている。
「さて、次はこんなのを考えたわ!」
まだまだ、僕の苦労は続く。
今回は少し短めかつ、あまり明るくない話になってしまいました。次回はハイテンションな女神様です。




