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Eはここにある  作者: 剣崎月
第三章

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187/208

【186】総司令官誘拐阻止戦・4

 司令本部の警備は厳重だが、その警備を敷いているのが人間である以上、綻びは必ずある。


 いつものように司令本部の夜間巡回業務を行っていた、トゥオミ一等兵とフルメリンタ一等兵。なにも分からぬまま殺された二人の一等兵――彼らはレックバリ少尉の悪癖を知らなかった。


 レアンドルが侵入するために使った経路は「レックバリ少尉が娼婦を招く際に使われる出入り口」――マチュヒナとフロゲッセルの二人は、司令本部に侵入する方法を探っていた。

 その綻びとなったのがレックバリ少尉。

 彼が夜勤になった際に、司令本部で娼婦を抱いているのは、早い段階で掴んでいた。キースが司令部に寝泊まりする前からの癖で――キースが寝泊まりするようになったのを機に、止めていればまた違う道もあったのだが、彼はバレはしないと思い最悪な事態を招いた。


 レックバリ少尉が連れ込む娼婦は、どこかに属しているような娼婦ではなかった。そういった娼婦は、司令本部近くで客を引くような真似はしないので――下手に司令本部に入り込み、それが明らかになった際に大事になるので、それは組織側としても避けたい。

 どこにも属していない娼婦ならば……ということで、二人は決行日にはどちらかが娼婦になりすまし、仲間を招き入れるよう整えていた。


 レアンドルを使ったこの襲撃事件が、クローヴィスの休暇明けになったのは、レックバリ少尉の休暇が絡んだため――この襲撃は、レックバリ少尉以外の士官が、夜間に娼婦を招くようなことはなかったので、娼婦を司令本部に連れ込むレックバリ少尉がいなければ始まらなかったのだ。


 彼女たちに見張られていたレックバリ少尉は、休暇が明けてからこの悪癖が出た。そしてアールグレーン商会の二女リネットが、今日この場にいたのは、偶然だった――娼婦としてエリーゼもいたのだが、レックバリ少尉はリネットに声を掛け司令本部へと連れ込んだ。

 少し離れたところから見ていたエリーゼは、それがリネットなのは分かった。

 なぜ彼女がこの辺りをうろついていたのか? については分からなかったが、アールグレーン家であまりいい扱いを受けていないことは知っていたので、それで家出したのだろうと。


 キース狙いだとエリーゼに知られていたら――どの道、リネット・アールグレーンはこの日に死ぬことが決まっていたのかも知れない。


 レアンドルに侵入経路を説明をする際に、二人は娼婦を連れ込み、深夜に帰すので、その時に使う出入り口だけは、夜半に無施錠になる……と聞かされた。

 その時は「そんなルートは使いたくない」と言ったレアンドルだが、司令本部に来る途中でヒースコートと対戦し、想像以上に強く敗北したので、彼女たちの意見を聞き入れて、エリーゼに示された侵入口から入りこみ、計画通りに動くことにした。


 一等兵二名を殺害したレアンドルは、そのまま総警備室へと向かいコールハース少佐を殺害する計画を伝えられていたのだが、彼女たちの指示には従わず貴族総司令官の仮眠室へと向かった。


 そこで行為に耽っている二人に遭遇し、レックバリ少尉は一撃で無力化し、リネットは念入りに殴り殺された。

 もっとも鍛えている軍人男性ですら、一撃で半身不随にできるような拳をふるうレアンドルに殴られた、ごく普通の女性でしかないリネットは、最初の一撃で瀕死の状態で、腹部の形が変わるほど殴られる前――一撃を食らったところで、完全に呼吸が停止していた。

 全身に激痛が走ったあと、動けなくなったレックバリ少尉は、先ほどまで抱いていた裸体が殴られるたびに不自然に跳ねることや、辺りに飛び散る血を、


「あ……が、……が……ぁ」


 うめき声を上げながら見ているしかできなかった。何が起こったのかも、すぐには理解できなかった。

 ほんの僅かな時だったが、レックバリ少尉には長く感じられ――レアンドルが部屋を出ていってから、この事態が収束して見つかるまでの間は永遠に感じられた。


 その後、自分の行動が原因でレアンドルを司令本部に侵入させたことを知り後悔することになるが、そんな先のことを知らないレックバリ少尉は、いまはいきなり現れた何者かにより傷つけられ叫ぶが、それは叫んでいるつもり(・・・)で、ほぼ声は出ていなかった。

 声が出ていたとしても、それを誰かが聞いたとしても、この辺りの巡回担当者たちは「またレックバリ少尉がお楽しみなんだろう」と近づくことはなかっただろうが。


 レックバリ少尉に重傷を負わせ、リネットを殺害したレアンドルは、細心の注意を払い総警備室を目指した。


 コールハース少佐は司令本部を守ることで、いまは総司令官キースを守ることも任務に入っている。

 そのコールハース少佐を守るものは誰もいないので、レアンドルはすぐに目的を果たすことができた。

 レックバリ少尉よりもしっかりとした一撃を食らわせ殺害し、それらしい偽装をし、もっとも重要な「電話線」を切って立ち去り――この場がよく見える部屋へと潜り込んだ。

 そこで息を殺して待っていると、


――あの金髪の大男は、たしか川縁にいた


 自動車に乗って拳銃を構えてやってきた、金髪の大男こと女性のクローヴィスの姿が、否応なしに目に飛び込んできた。

 クローヴィスの指示に従いやってきた一団が、総警備室に入るのを眺め――すぐに口を押さえて三名ほどの兵士が廊下へと出てきた。


――階級が高い者は出てこないな


 持ってきた多数の明かりに照らされ、廊下で倒れ込んでいる彼らの制服を見つめ、覚えてきた制服と脳内で照らし合わせながら、レアンドルはそんなことを考えていた。


「電話がつながらない!」

「隊を組んで交換室に走れ」

「交換室へ向かう途中に! 南棟の警備責任者の詰め所があったな!」

「責任者は誰だ!」

「ジークフリート・トロイ中尉だ!」


 開け放たれていたドアから、大声が聞こえてくるが、ロスカネフ語なので何を言っているのか? レアンドルにはわからない。


「では、ジークフリート・トロイ中尉を呼んでくる!」


 やってきた一団は二手に分かれ、クローヴィスが走り出した。総警備室に残った一人は、レアンドルが川縁で殺し損ねたサーシャだったが、レアンドルはサーシャを殺害したいわけではない。

 そしてこのような状況の時は、制服からもっとも地位が高い人物を選び、それを追うよう指示されていたレアンドルは、親衛隊隊長の制服を着用しているクローヴィスに狙いを定めた。


 クローヴィス側も「制服で判断してくるだろう」と見越して、クローヴィスが囮部隊を率いることにした。

 サーシャは止めたかったが、この場にいること自体が危険極まりないので、クローヴィスの計画通りに動いたほうが良いと、ほぼ消去法のような形で同意する。


 レアンドルは動き出したクローヴィスのほうを、壁にへばりつき、窓越しに眺めて追った。


 レアンドルが見ていると、廊下を走るクローヴィスたちは途中で巡回の兵士と遭遇し――到着した部屋から、先ほど総警備室に残ったピンクブロンドの男と同じ制服を着た男性・トロイ中尉が部下を連れて現れて、先ほどの道を引き返していった。


 レアンドルの予定とは違う動きだが、すぐに殺害のために出ることはせず、少しの間、待っていると、


キース司令官のもと(作戦開始)へ向かう!」


 クローヴィスが大声を上げた。

 ”キース”の部分だけ聞き取れたレアンドルは、その場でクローヴィスたちの次の動きを待った。

 もちろんクローヴィスたちは、キースのところへは向かわず、自分たちが囮になり、レアンドルをできるだけキースから引き離し、脱出する時間を稼ぐのが目的。その間、レアンドルにそのことを気付かれないようにし、さらに脱出ルートに近づけないようにしなくてはならない。


 こうして夜半の明かりが乏しく暗い司令本部の廊下で、司令官のキースを賭け、両者が走り回ることになった。



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