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Eはここにある  作者: 剣崎月
第三章

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115/208

【114】臣下、頷く

 リリエンタールを見送った一行は、落ち着いて話をしよう……と、リトミシュル辺境伯爵はリリエンタールが乗ってきた蒸気機関車に乗り込み、


【出せ】


 まるで自分の所持品のように指示を出し――


【面倒だから、あとは任せますよ】


 シャルル(・・・・)廃太子は蒸気機関車の通行などを全て一任し――リトミシュル辺境伯爵、シャルル(・・・・)廃太子、アイヒベルク伯爵の三名は喫煙車両のソファーに腰を降ろす。


【それにしても、シャルルが着いてこなけりゃならないほどとは】


 開口一番にリトミシュル辺境伯爵は、そう言った――これから、アディフィン王国は隣国フォルズベーグの対処のために、色々と忙しくなる。

 その忙しさは、各国から人がやってくることを指し――人の出入りが激しくなれば、敵が混じる可能性が跳ね上がる。

 とくにこれから起こるのは戦争――「殺されたら戦争になる重要人物」の中でも、飛び抜けて危険なシャルルがやってくるのに、相応しくない世情の国だった。


 同じくフォルズベーグ王国隣国だが、国力がさほどないロスカネフ王国は、国家がこれといった手を打たなくても目立ちはしないし、誰も不審に思わない――リリエンタールがいるので、通常よりは目立つだろうが、リリエンタールが不可侵なのは、各国首脳部も分かっている。


【わたし以外の者が近づいたら、殺されるってみんな言うから】


 配達人から報告を受けたヘラクレスが、情報の速さを優先せず、シャルルを間に入れたのは、自分や配達人が殺されるかもしれない……と考えたため。

 その点シャルルは、絶対に殺害されることはない。


【そうだろうな。サーシャ、もしくはレイモンドでもいたら、代わりが務まっただろうが、サーシャはアントンの妃についていったし、レイモンドはロスカネフ王国国内の守りには、絶対必要な男だからな】

【そういう訳で、暇なわたしが着いてくることになったんです】

【暇じゃなくても、サーシャやレイモンドが居たとしても、シャルルが随行することになっただろう】

【そうかも知れませんね。ところで、今回の事故について、あなたが知っていることを教えてください】


 規模の大きな脱線事故だったこともあり、アディフィン王国軍が出て、脱線車両の撤去、線路の確認などを行った。


【戦争絡みだが】


 その際、落石を確認し――「事故調査委員会」のようなものが存在しない時代だが、事故に巻き込まれたのがクローヴィスだったこともあり、リトミシュル辺境伯爵は、通常であれば復帰作業だけで終わらせるところを、事故の詳細を調べることにし、リリエンタールの部下でもあるハイドリッヒに、アディフィン軍の指揮を執るよう命じた。

 

【以前なら聞きませんけれど、妃殿下が関わった事件ですから、聞きますよ】

【なるほど。随分と変わったな、シャルル】

【あの人ほどじゃあ、ありませんけど】

【同じくらい、変わったとおもうぞ。そう思わないか? リーンハルト】

【…………はい】


 どちらとも取れる「はい」だな……と二人は思ったが、アイヒベルク伯爵はそういう(やつ)だと知っているので――


【爆破?】

【ダイナマイトが使われた痕跡が確認できた。ただ脱線事故の原因となった落石を、誘発するつもりではなかったようだ】

【そうなの。間違った、てこと?】

【間違いというより、例のグリズリーに襲われて、倒そうと思ってダイナマイトを使ったんじゃないか】

【ふーん……でも倒せなかったってこと?】

【そうだろうな。バイエラントはこのグリズリーに、結構悩まされていたらしい】

【連絡来て……ませんよね? リーンハルト】


 二人の話を黙って聞いているアイヒベルク伯爵は、声を掛けられ――


【ありません】


 報告は受けていなかった。


【熊が出たなんて報告、一々上げられても困るからな】


 たしかにテーグリヒスベック女子爵も困ってはいたが、それは領主代行が自らの裁量で排除するものであり、わざわざ領主に伝える類いの出来事ではない。

 テーグリヒスベック女子爵にクローヴィスの詳細を伝えにやってきたアイヒベルク伯爵に伝えなかったのは当然のこと。

 被害は大きかったがテーグリヒスベック女子爵は、この一件を部下に任せ、クローヴィスに付き従い留学する――その程度の出来事でしかない。

 バイエラント大公国の治安維持を担っているアディフィン軍も、仕事は対人間。害獣は猟師が排除するもの。


 なによりこの一件は、共産連邦側がダイナマイトを使わなければ、起こらなかった――グリズリーによる被害は深刻だったが、クローヴィスは被害を被らないはずだった。


【共産連邦の兵士たちが、黙って食われてりゃあ、こんな騒ぎにはならなかった】

【黙って食われ……って、無理でしょうね。……で、共産連邦なのは、間違いないんですか?】

【回収した破片から、断定した】

【そうですか。あいつら嫌いだからどうでもいいけど……ダイナマイトを運んでいたってことは、戦争絡みなんですよね】

【ブリュンヒルデはグリズリーの排除に、ダイナマイトを使う許可は出していなかった。なによりバイエラントに、ダイナマイトは常備されていないからな】


 バイエラント大公国では、最低限の銃器は揃えているが、国防をアディフィン王国に一任していることもあり――火器に関して、包み隠さず開示している。


【バイエラントの国防って、アディフィンが担当してましたよね?】

【そうだな】

【あんた、殺されたりしないの?】


 今までであれば、クローヴィスが関わらなければ、共産連邦が不法入国したあげく、人身事故を起こそうが、リリエンタールは何も言わないが――今回のこの出来事は、リリエンタールにとって大事。

 普通の人間のように「責任を問う」と言い出したら――


【それはない。我々はバイエラント大公国が、共産連邦やその他の国に攻められないよう守っているだけだからな。他国侵略作戦行動中に失敗して被害を出した……に関し、責は負わない。よってアントンに死刑にされたりはしない】


 リトミシュル辺境伯爵は、シャルルの心配を一蹴した。


【そういうものなんですか……】


 いつものように(・・・・・・・)、適当なことを言っているのでは? と、シャルルはアイヒベルク伯爵のほうを見ると、彼はゆっくりと頷いた。


【ふーん。処刑されないなら、いいけど】

【処刑されそうになったら、助けてくれるんだろう? シャルル】

【一応口添えはしますよ。あんたにも、助けてもらった恩はありますしね】

【遊んだだけだが】

【目を潰すような、遊びは辞めなさい。その遊びで助けてもらった、わたしが言うのもなんですが】

【分かった、注意する。それで、今回の脱線事故により、フォルズベーグ王国は、これから一週間もしないうちに、共産連邦の手下に攻め込まれる】


 再びシャルルはアイヒベルク伯爵へと視線を向け――彼は、今回もしっかりと頷いた。


【長くなるから、食事をしながら話そう。今日の夕食のメニューはなんだ?】

【妃殿下が一緒ならともかく、気が急いているあの人に出す食事なんて、焼いた肉で充分なんで、それ以外は用意していません】


 唯でさえ食事に興味のないリリエンタール。

 その彼が他に気を取られている――食べさせ甲斐がないとは分かっているが、かといって屑肉を食べさせるわけにもいかないので、


【ステーキか】


 最高級の肉でステーキを焼かせていた――ロスカネフ王国を発ってから、アディフィン王国に到着するまで、ずっと同じメニュー。


【それがもっとも効率的なので】

【そうだろうと思って、用意しておいた車両の食料庫にも牛肉の塊を積んでおいた。誰が焼いても気にしないだろうから、料理人は積んでいない】

【そうなりますよね】


 そんな話をしながら 喫煙車両から食堂車両へと移動し、これからの軍事的展開について、シャルルは話を聞いた。


【わたしが出来ることは、相変わらずなにもないですね】

【そうだな。精々誘拐されないよう、気を付けろ】

【気を付けても誘拐されてしまうんです。あんたの所の特殊部隊が来たら、わたしが幾ら気を付けても、すぐに攫われてしまうことくらい、分かるでしょう】

【そうだな。そういえば、ふらふら街中を歩いて、ルカ坊や(レオニード)に誘拐されそうになったんだってな】

【ええ。否定はしませんよ。ところで、あの人が乗った列車ですけれど、着替えなんかも積んでるんですよね?】

【任せろ】


 リトミシュル辺境伯爵が用意した蒸気機関車だが、着替えに食糧、あとは家令グレッグも積み込んでいた。


【グレッグも一緒なら、大丈夫ですね】


 相変わらず手抜かりがないなあ……と思いながら、シャルルはフロマージュを口へと運ぶ。


 シャルルたちが乗った蒸気機関車は首都に入り、彼らはそのまま俗称・治外法権城――リリエンタール所有の城へ。


【門扉に変な布がぶら下がってるんだけど、あれ、なに?】


 門扉の周囲には異国の兵士たちがたむろしているが、シャルルはそれよりも門扉にぶら下がっている布が気になった。


【アウグストが来たんだろうな】


 何人たりとも、立ち入りが許可されていないリリエンタールの城――


【不法侵入の罪を、部下に背負わせるわけにはいかないからな】


 リトミシュル辺境伯爵が言った通り、城にはフォルクヴァルツ選帝侯がいた。彼が伴った兵士たち――正確には「神聖帝国首相が外務大臣(アウグスト)に付けた警護」

 呼んでもいなければ、来るとも連絡をうけていない、神聖帝国の外務大臣が、少数ながら武力とともに、いきなり訪れたわけだが、彼らについてアディフィン大統領は容認した。

 騒ぎが起こらないよう、アディフィン大統領は神聖帝国の特命全権大使を通じて、護衛に宿舎を提供する。

 神聖帝国の特命全権大使は感謝しつつ「上司に(外務大臣)陳情しても、聞いてもらえず」とアディフィン大統領に頭を下げた――いつものことであり、神聖帝国の首相も度々アディフィン王国特命全権大使から「軍務大臣がその……」と頭を下げられる。


 上層部における「いつものお互い様」――


 護衛たちは、護衛の任を果たすべく、リリエンタールの城の周囲をうろついている……うろつくしかすることがなかった。

 異国で武器を持ってうろつく……だがそれに関しても、アディフィン大統領は容認した。

 それ以外のことについては触れてはいない。リリエンタールの城への入城などは、アディフィン大統領の手に負えるものではない。

 

【それはいいんですけど、あの布なんですか?】


 シャルルは護衛の扱い(それ)には慣れているので、とくに触れず、門扉にぶら下がっている、残骸のような布のほうが気になった。


【ハンググライダーの残骸】

【なにそれ……】


 フォルクヴァルツ選帝侯からシャルルは説明を受けたが、


【天才の話って、全く理解できないよな】


 揚力についてほぼ知られていない世界で、その斜め上をいく話をされたシャルルは、額に手を当てて眉間に皺を寄せ呟く。


――ハインリヒ(シュレーディンガー)から、新術式を聞かされる時を彷彿とさせます


 側にいたアイヒベルク伯爵は、ここでもそっと頷いた。


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