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数日後、久し振りにポポロがここに訪れた。
ちょっと疲れた様に見えた彼だけれども、表情は誇らしげなんだ。
「やっと、です」
「ポポロ、ありがとう。苦労をかけたな」
ポポロの報告に、デュークさんが、喜んでいる。
そうなのだ、ドリエールさんと婚姻が無効になったのだ。
離婚ではなく、無効だ。
結婚してなかったことになったんだよ。
凄いね、どうやったらそうなるんだろうか…。
とにかく、ガナッシュ側も、それを承認してくれたんだって。
「これで、ようやく、陛下とカナコ様の婚礼の準備に入れます」
「頼んだぞ。見せ付けるためにも、派手にしてくれ」
「わかっております」
「え?派手?」
派手って…。
普通の結婚式だって、派手でしょ?
それを踏まえた上での派手って、どうなる訳?
「普通だって、派手でしょ?普通でいいんじゃない?」
私のこの発言に、デュークさんもポポロも渋い表情になるんだよ。
なんでだよ?
「カナコ様、王の婚礼です。次はいつになるかわからないのですから、派手に行います」
「そうだ、諦めろ。これは祭りなんだから」
「祭りなの?」
「当然ですよ。ルミナス挙げての盛大な祭りです」
わぁ…。
そんな事になるのかよ…。
「日程は1週間ほど、取りましょう」
「そうだな、ガナッシュとアルホートにも知らせろ。使者がくるだろうからな?」
ルミナスは周りを海に囲まれている。
近い国はこの2国だけだ。
ごく稀に遭難した船がここに辿り着くこともあるけれども、あえてこちらから他の国を探す事はしていない。
魔物の事で手が一杯だし、遠くの国が友好的だとも限らないからね。
あ、アルホートといえば…。
「デュークさん?あのリリさんのお兄さんは、どうなったんですか?」
「あいつか?隠居してるぞ」
ポポロが教えてくれた。
「アルホートは、あの事件後にお生まれになった方が跡継ぎになられて、今は落ち着いてます」
「そうなんだ…」
顔を思い出した。
なんか、好きになれないタイプだったな。
「カナコ?」
「うん?」
「忘れろ」
「そうする」
それが、一番だ。
係わり合いになりたくない。
ポポロは事務的に話を進める。
「今、採取場にてダイヤの採取を行わせてます。かなり大きいものが採取できておりますよ」
「楽しみだな。きっとカナコに似合うだろう」
「それは、もう、お似合いになりますよ。石の採掘は、式には間に合わせます」
「式がそれに合わせるんだろう?」
「まぁ、そうなりますかね」
また見えない話だ。
「なんの話?」
「ダイヤだ。婚礼の際に、おまえの装飾品に必要だからな」
なにぃ!採取から入るんですか!
しかも、ダイヤモンド!
そんなゴージャスなもの、私になんか、勿体無いですよ?
「そ、そんな、あるものでいいよ…」
「カナコ、何度説明すれば、わかってくれる?」
「けど…」
デュークさんは、また始まったって顔だ。
ジョゼが笑う。
「陛下の仰る通りです。ハイヒットの娘ともあろう方が、その程度のことを贅沢だと思うなど、やはり、カナコ様ですね、陛下」
「まったく、カナコだよ、おまえは」
たく、なんだよ。
「ルミナス全土に見せ付けてやるんだ。ダイヤだけでは足りないぞ?」
「え?」
間抜けた私を尻目にして、ポポロがデュークさんの話を補足した。
「もちろんです。真珠、純金、カナコ様の瞳のようなアメジスト。その他の宝石も採掘中です。布地は最上級のものを、アリの店に運ばせました」
目がくらむぞ…。
「デュークさん、眩暈がする…」
「おいおい。まだ半年先の話だぞ?」
「え?準備に半年もかけるの?」
「普通は1年かけるがな、ポポロが優秀だから、早くなった」
ポポロは自慢げに微笑むんだ。
謙虚そうな顔をして、意外に謙虚ではないんだな?
さすが、ルミナスの左大臣。
なかなか食えないお人です。
決まったことは、私たちの式は、多分、半年後。
準備は今から急いで始めて、間に合うかどうからしい。
その位に盛大なお祭り騒ぎになるんだ、と。
ポポロがデュークさんに打診する。
「そうです。ハイヒット家から、カナコ様の嫁入り支度の打診が来ております。如何致しますか?」
ああ、瞳がキラキラしたお母様の顔が浮かんだ。
お母様、マリ姉ちゃんが急だったから、私の準備に力入れますか?
ってか、だよ、マリ姉ちゃんの仕度だって凄いものだったよ?
そんな私の心の声など無視して、デュークさんが威厳たっぷりに言うんだ。
「ヴィクトリア殿の好きなように」
「畏まりました」
おいおい、本当にそれでいいのか?
「ねえ、今のままで、ちゃんと生活出来てるよ?城に戻ったって、なんでも、あるんでしょ?これ以上は必要ないんじゃないの?」
ジョゼが静かに言った。
「カナコ様。皆様はカナコ様の幸せを願って準備なさるんです。受け入れるのも王妃になられる方の務めです」
「は、はい」
ああ、そんな務めがあるのか…。
「まったく、カナコにも程がある」
「陛下、その通りです」
もう、わからない会話はするな。
しかし、ここは私が「うん」と言って甘えるしかないみたいだ。
それに、お母様が準備を楽しみにしてる。
一世一代の贅沢だ。
私も一緒に楽しもう。
だって、祭りなんでしょう?
盛り上がりに欠けるなんて、嫌だもんね。
私はキラキラとした気持ちで、デュークさんに甘えた。
「じゃ、お母様と一緒に準備しても、いい?」
「もちろんだ」
「素敵なドレス、作っても?靴も装飾品も?」
「当然だ。俺のカナコは一番綺麗なんだから、美しいものを身に纏えばいいんだ。わかったな?」
「うん、じゃ、そうする」
ようやく、みんなが安心した顔をした。
それじゃ、デュークさんの男気を見せてもらおう。
後で、泣いても知らないからね!




