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寝てた。
声が聞こえる。
「起きろ?」
え?
あ?
そうだった!
私は慌てて、飛び起きた。
そうだった、私はデュークさんに会ったんだ。
会えたんだよ!
「デュークさん!」
力いっぱいにしがみ付いた。
消えちゃいそうで、怖かったんだ。
「デュークさんだよね?本物だよね?」
「本物?俺に偽者がいたら、大変なことになるんだぞ?」
「やっぱり、デュークさんだ…」
会いたかった、会いたかったんだ!
私はデュークさんに抱きついて、犬みたいにハシャぐ。
「本物だ…」
「カナコ、やっぱり、おまえは犬だな?尻尾が見えるぞ?」
犬?そんな昔のことを持ち出して…。
そうならば、彼の胸に顔を埋めて、ついでに犬みたいにデュークさんの匂いを嗅ぐ。
「デュークさんの匂いがする…」
懐かしいんだ。
デュークさんは抱きしめている私の髪を撫でてくれる。
「緑の髪も似合っているな?」
思わず、顔を上げた。
赤紅の瞳と目が合う。
「ほんと?」
「ああ、紫紺の瞳も美しい」
「嬉しい」
「リリとは違う。でも、おまえはカナコだ」
「うん、カナコだよ。デュークさん、カナコなんだよ?」
デュークさんは、そんな私の顎を手で持って、顔を上げさせた。
「カナコ?」
デュークさんの赤紅の瞳が私を見つめる。
「なに?」
なんて、優しい顔してるの?
私にだけ、見せてくれるんだよね?
「お帰り」
「うん、ただいま」
しばらく、見詰め合った後、唇が重なる。
やっと、戻って来たんだ。
やっと、触れたんだ。
デュークさんのキスは深くて溶けてしまいそうなキスだ。
変わらない。
「体は、大丈夫か?」
「ゆっくり眠れたから、大丈夫…」
デュークさんが求めているんだ、私を。
「約束だ。今、抱いてもいいか?」
赤紅の瞳がそう言うなら、拒めるはずがない。
「うん、抱いて…、けど、」
「わかってる、優しくするよ」
「うん…」
「カナコ?」
「なに?」
「俺が、好きか?」
「馬鹿、愛してるよ?」
「おまえより、俺の方が愛してる…」
頬に手が触れた。
もう一度、キス。
唇が離れる。
私は自分から服を脱いだ。
「綺麗だな」
耳元でデュークさんの声がした。
直ぐ側に、いてくれる。
「聞いていい?」
「何をだ?」
エリフィーヌは生まれてから、ずっと一緒だった。
私自身だ。
「私、リリさんより、綺麗?」
デュークさんは笑った。
「もちろんだ、今のおまえが、一番綺麗だ」
私は裸のままで、デュークさんを見つめた。
ずっと会いたかった、赤紅の瞳を見つめた。
「俺は、俺に会うために、生まれ変わってきたおまえを、どれだけ愛してやれる?おまえを愛していると、どれだけ伝えられる?俺のために生まれてきてくれたカナコに、俺は、俺は、どれだけ応えられるのか…」
「私に触れて?デュークさんにしか、触れさせないから…」
デュークさんは、私の肌に触れた。
私の感覚は覚えている。彼の指を、唇を、全てを。
忘れる訳がない。
私の肌は触れられるのを望んでいた。
「俺だけのカナコだ。俺以外に触れさせない…」
体中が熱い。
私はデュークさんのもたらす熱に解けてしまいそうだ。
思い出させるように、彼の舌が触れる。
ああ。もう、駄目だ。
声すら出せない。
あまりの刺激に私は彼にしがみつく。
「あ、」
彼の声が聞きたい。
けど、愛されていたい。
そんな矛盾した想いが交錯する。
果てが訪れる。
「ああ!」
ぐったりとした私を抱きしめて、ようやく名前を呼んでくれた。
「カナコ、」
「あ、デューク、さ、ん、、」
「ああ、愛してるよ」
「、う、ん、、、あ、、」
そして、ゆっくりと彼が私の中に…。
初めての痛みとその向こうに感じる快感とが入り乱れる。
「あ、」
「い、痛いのか?」
「初めて、だから、、けど、大丈夫…、愛してるの、だって…」
そう、私は受け入れたいんだ、最愛のデュークさんを。
このために、生まれ変わったんだから…。
熱が全てを遠ざけ、感覚を鋭くさせる。
「カナコ!」
その叫びと共に、デュークさんが私の上に落ちてくる。
なんて、愛おしいんだろう。
私の中に、デュークさんがいる。
嬉しくて仕方なかった。
「おまえだけだ、俺には…カナコだけだ…」
「愛してるよ、」
嬉しさで零れ落ちる涙をデュークさんが唇で拭いてくれた。
エリフィーヌ・ハイヒットは、この日、デュークさんと結ばれた。
「カナコ、もう離れたくない。これからは、いつも一緒だ。いいな?」
「うん、覚悟してた。だから、」
「だから?」
「だから、会いたくいなかった」
キスをくれた。
「おまえは、可愛いな?」
そんな笑顔は卑怯だ。離れられなくなるよ?
「愛してくれる?」
「何度でも」
「うん、ありがとう」
デュークさんは私の痛みを魔法で治してくれる。
その日、私達は2人切りで過ごした。
思い出したように、簡単な食事をして、そして、求め合った。
誰も来ない、邪魔しない。
この日だけは、2人のものだ。
デュークさんが、思い出したように言う。
「カナコ、今はエリフィーヌと言う名なのか?」
そこか?
「私が付けたんじゃないからね?」
「まぁ、そうだろうが…」
「突っ込まないで」
「わかった」
笑う、笑ってしまう。
そして、デュークさんの手が私の手を握る。
まっすぐに私を見てる。
「綺麗だ」
「ホント?」
「リリなんかより、綺麗だ」
「お世辞?」
「いいや、違う」
その私の手をユックリとデュークさんの唇がなぞる。
それだけで、感じる、よ?
「もう、他の男に見せたくない」
「馬鹿…」
「まだ足りない、おまえが欲しい」
「いいよ、」
「カナコも足りないか?」
「うん、全然たりない。もっと愛して」
「わかった」
駄目だ、私はデュークさんに溺れてしまった。
もう、抜け出せない。
私達は取り戻す様に、互いを求めた。
何度愛されたかすら、わからない。
赤紅の瞳の彼が、ただ、私を見つめるだけで、それだけで、応えたくなる。
私は自分の欲望に素直に従った。
私は何度でも、愛されたかった。
体が知りたがったんだ。
戻ってきたことを。
デュークさんが私を愛してくれていることを。
何度でも、だ。




