65 あなざーさいど 7
ジョゼの視線から。
その知らせは、アンリ・ハイヒットからもたらされた。
エリフィーヌ・ハイヒットこと、カナコ様が拉致された。
忽然と消えたのだ。
「まさか!どうして?誰が?」
受話器を待った手が震える。
ザックが緊急事態に備えなくてはいけないので、我が家には電話が当然あった。
今回、それが役に立った。
「それが、わからないのです。今、妹を乗せた馬車の御者に聞いているのですが…」
いったい、誰が?なんのために?
「そ、それで、何か詳細は?」
「まったく消息が掴めないのです。それで、父が決心しまして、祖父と共に、陛下の元に行くと言ってます」
「何時ですか?」
「直ぐにでも」
ああ、なんてことだ。
今までカナコ様が、会いたくないと言うので、陛下には何も言わずにきたのだ。
それが、こんな形で報告することになろうとは…。
「できるだけ、遅らせていただけませんか?」
「何故でしょう?」
「私の口から、今までのことを陛下に謝りたいのです」
アンリは少し考えて、こう言う。
「ジョゼさんの気持ちは分かります。しかし、私達は今すぐにでもフィーを取り戻したい。妹に危機が迫っているのです。1秒でも早くに陛下にお願いに上がりたいのですよ?」
「それでもです。今まで黙っていたことを、謝らせて下さい。お願いします」
私は19歳の彼に願う。
彼はため息をついた。
「分かりました、では祖父の屋敷で待機してます。あちらの方が城に近いですから」
「ありがとうござます」
せめてものお礼だ。
今の城の状況を伝えよう。
「スタッカード公爵がおいでるならば、大丈夫だとは思いますが、今の城は陛下の敵が取り仕切っているようなものです。今回の事も、直接陛下にお会いになってから、明かされた方がいいです」
「ええ、それは、私たちも分かっています。なので、祖父が私を陛下に紹介したいという体を装います」
「それは、良かった。では、後で」
「ええ、それでは」
私は身支度を整えて、急いでいるのだけれども、急いでないように城へいく。
呼び出したザックと共に、陛下の元に夫婦で伺う。
ザックには、道々、手短に説明する。
驚いている夫と共に、陛下の執務室に入った。
「久しぶりだな?ザック、ジョゼ。今日はどうした?」
陛下は急なことにも、対応して下さった。
ザックは話が漏れないように幕の確認をしている。
「ザック、どうした?」
「話が漏れないように、陛下の幕に少し強化を加えました」
陛下の目が変わった。
「何があった?」
私たちは覚悟を決めた。
「陛下、私達夫婦は、陛下にお叱りを受けに参りました」
「なんだ?」
「実は、カナコ様の事です」
「見つかったのか?」
「はい」
「どこに、いるのだ?」
「今は、わかりません」
「何を言っているんだ!意味がわからん!」
陛下が苛立ちを見せる。
申し訳なさ過ぎて、言葉が少し震える。
「実は、もう何年も前から、私達はカナコ様を見つけておりました。が、カナコ様が、陛下には会わないと頑なに仰って。なので、お気持ちが軟化するのを待っていたのです」
「あいつらしい…」
陛下は懐かしそうに仰る。
本当に、お2人とも、頑固者ですから…。
報告を続ける。
「カナコ様は、生まれ変わっておいででした」
「生まれ変わってた?誰にだ?」
「エリフィーヌ・ハイヒット様と言われて、スタッカード公爵の孫になられます」
「あの公爵の?」
「はい、さようでございます」
「そうか、生まれ変わってたのか…」
ザックも話し出す。
「私が最初に会った時には、すでに魔法を使われていました。まだ、10歳のころの事です」
「10歳?今、カナコは何歳なのだ?」
「14歳です」
陛下は無言になられた。
私は、この2人には約束が存在していたことを思い出す。
「ジョゼ、」
「なんでしょうか?」
「俺はカナコに会ったら、約束を遂行してしまう。問題はあるだろうか?」
「その点は、大丈夫かと」
「そうか…」
会ってしまえば、止められるはずもない。
お2人とも、頑固な上に、我が侭なところがあったから…。
「で、何故、どこにいるのか分からないのだ?」
「実は昨日、何者かに、拉致されたとのことです」
「拉致?カナコが拉致されたのか!」
王の気が変わった。
これは、戦いに行く前の気だ。
「誰が、カナコを?」
「まったく、今の時点ではわからないのです」
「カナコを奪って、何がしたいのだ?」
「それも、わかりません」
凄い気だ。私は前に立っているのが、やっとだ。
震えが止まらない。
「それで、何か方法があるのか?」
「と、とりあえずはルミナス国内を探すしかないと」
「わかった、トーマスを呼んでくれ、あと、…」
「陛下、兄は呼ばない方がいいかと…」
「そうだったな、リックはドリエールの味方だからな」
ザックが電話をしている。
私は、アンリの事を伝えることにした。
「陛下?」
「なんだ?」
「実はハイヒットの当主とスタッカード公爵が陛下にお目通りをと申しております」
「俺に?なぜだ?」
「エリフィーヌ様を救出して欲しいとのことです」
陛下は暫し考え込まれた。
「分かった、今すぐ会おう。ジョゼ、連れて来てくれ」
「畏まりました」
私は直ぐにスタッカードの屋敷に電話を掻けた。
「陛下がお会いになるそうです」
「分かりました、直ぐに参ります」
アンリ殿達は、直ぐに城に来られた。
そして、陛下はカナコ様の今の家族に会ったのだ。
カナコ様の父君に陛下は誓って仰った。
「必ず探す。必ず見つける。そのためならば、俺はどこにでも行く。安心してくれ」
「お願いいたします!」
時間が経てば経つほど、見つけるのは難しくなる。
一体、どの様な状況にいるのかも、分からないのだ。
お寂しいだろうに、お辛いだろうに…。
ああ、こうなるんであれば、無理矢理にでも側にいるんだった!




