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覚悟を決める時がきた。
だって、変な話なんだもん。
頭おかしいって思われても、仕方ない話だ。
生まれ変わりなんて、体験してなけりゃ私だって信じない。
夜。
食事の後に、家族が全員、居間に集まった。
飲み物と軽いお菓子が置いてある。
もちろん、食べ放題飲み放題だよ。
なんか嬉しい。
「じゃ、今夜はアンリが話を進めてくれるな?」
「はい、父上」
で、アンリ兄様が切り出した。
「じゃ、フィー。私がさっき聞いたことをみんなに言って良いかい?」
「うん、お願いします」
兄様はみんなを見た。
なんか緊張してきた。
家族前にして、緊張してきたわ。
「今日の事です。フィーが生まれる前の記憶を持っていると、私とマリーに打ち明けてくれました」
「そうなの?フィー?」
サー姉ちゃんが不思議な顔をして私を見た。
なんでなんだろう?
「サー姉様。フィーはみんなの前で答えたいと言ったんだ。そうだね?フィー?」
ちょっと座り直して、背筋を伸ばした。
あえて、上条加奈子の口調で話を切り出した。
その方が真実味が増すと思ったから。
「はい。凄く複雑な話になるけど、本当の事を、みんなに知ってもらいたいんです」
「わかったよ、誰も話を遮らないから、フィーの思うように話してごらん?」
アンリ兄様、優しいね。
勇気もらったよ。
「うん、でも、その前にこれだけは、言いたいんです。私はハイヒットの家に生まれて良かった。この家の子供でいられることを誇りに思ってる。そして、これからも、そう思いたいんです。いいでしょか?」
お父様が微笑んでくれた。
「ああ、もちろんだ。おまえはこの家の子だよ?フィー」
お父様、ありがとう。
みんなも頷いてくれてありがとう。
「ありがとう…、じゃ、最初から話すね」
私は話した。
上条加奈子としての人生を。
雷に打たれて、光の中に入ったこと。
その後のリリさんの体の中に入った人生を。
最初の頃の、リリさんの代わりにならなきゃいけなかったこと。
魔物征伐から帰ってきたデュークさんの疲れた様子。
初めて見た魔物とその時の魔法のこと。
アルホートの皇太子の事件。
デュークさんが愛してるって言ってくれたこと。
アリの店で服を作ろうとしたこと。
魔法学院でのこと。
そして、最期のこと。
デュークさんの様子も喋った。
全部喋った。
あの光と神もどきのことも。
あんないい加減な神様がいるなんて、信じてもらえるか不安だったけど、私が体験したことだから、実際に起こったことだもんね。
しかし、神様に新人がいるなんって、ふざけてるよ。
そして、生まれ変わって、この家の子供になった時から前の記憶を持ったままだったことも、1人で1時間ほど喋ってた。
とにかく、不思議な子供でごめんなさい。
「これが、私の身に起こったことなんだ。自分でも不思議だと思うから、信じてもらえなくても、仕方ないよ」
マリ姉ちゃんが、なんでか、怒っていう。
「じゃ、なに?フィーは30歳までしか生きられないの?」
あ、そうか忘れてた。
「そう、だね。忘れてたけど、たぶん、そうなる」
「そんな…」
マリ姉ちゃん、どっちにしろ、いつかは死ぬんだよ?
「でも、頑張って生きるから」
「そうだな…」
ジャック兄ちゃん、そこは明るく言おうよ?
「けどね、私が一番先に死ぬかどうか分からないでしょ?」
「そうよね、」
サー姉ちゃん、そうだよ。
そして、最近になって、カナコを知ってる3人の人に会ったことも言った。
「カナコさんを知ってる人たち?」
「そう、最初はザックで、次がアリ、で、ジョゼ」
みんなが驚いている。
サー姉ちゃんが声を上げる。
「学院長もなの?」
「うん、若かったよ。ザック」
「そ、そう…」
私はもっと若くなったんだけどね。
「フィー?」
「なに?お母様?」
「フィーが以前カナコさんだったことを、その3人の方々は信じてくださったの?」
「うーん。信じてくれたと言うよりも、見つけてくれたんだよ」
「見つけてくれたの?」
「そう、見つかっちゃったんだ」
「なんか、鬼ごっこみたいだな?」
「ジャック、変なこと言わないでよ」
ジャック兄ちゃんはサー姉ちゃんに叱られている。
「ねぇ、フィーは、陛下のお側に行きたくないの?」
お母様、それを聞きますか?
「…、行かない」
行けるか…。
だって、デュークさんは、もう結婚してるんだ。
子供もいるんだ。
今さら、会ってどうなるっていうんだよ…。
「けれどだ、昔のフィーを知ってる人達が現れた。いや、これからも現れるだろう。そうなれば、いつかは陛下の耳にも入るよ?」
「お父様、それでも、ココにいたいの。みんなの側がいいの」
「陛下が、お前を求められてもか?」
デュークさんに求められたら?
違う、デュークさんは願ったり望んだりしない。
デュークさんは求めたりもしない。
デュークさんは、ただ、言うだけだ。
ああ、それも違う。
デュークさんが、そこに現れるだけで、私に触れるだけで…。
私は、…。
間違いなく、応えてしまう…。
「…」
私はお父様に抱きついた。
「お父様、フィーのお願いをきいて?」
可愛い自分を最大限に活用する。
どうだ?必殺の可愛い娘スマイル!
「…、わかったよ、フィー」
「あなた?」
「いいじゃないか、フィーが家にいたいと言うんだ。いさせてやれば、な?」
「もう…」
答え、言わなくてもいいでしょ?
「フィーはこれから、どうしたいの?」
「アンリ兄様、今まで通りがいいの。毎日マリ姉ちゃんと学園に行って、勉強して、時々、遊びに行って。みんなの妹でいたいの」
「それは、何があっても変わらないよ?」
「そう?」
「もちろんだ。フィーは自慢の妹だ」
マリ姉ちゃんは、ちょっと不満げ。
そんなところが、マリ姉ちゃんらしい。
「アンリ兄様、私は?」
「もちろん、マリーもだよ。時々、2人と一緒に外を歩くだろ?街中の男が羨ましいそうに私を見るんだよ。あんな美人達を連れているのは誰だってね。いい気分だ」
「アンリ…」
サー姉ちゃんは、呆れてた。
本当だよ、アンリ兄様、いつから軟派になったんだ?
あれか、大学に行ってからか?
「じゃ、とりあえずは、何も変わらないままね?」
お母様が、話を閉めた。
それに賛成です。
それから、みんなで、取りとめもない話をした。
このまま、末娘でいられたらいいなぁ。




