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13歳の春だ。
春は好きだ。
だって、デュークさんが思い入れてた季節だから。
今年も制服の仮縫いにやってきた。
なんか、タイミングが悪くて、私、独りでお店に向う。
気分は憂鬱です。
マリ姉ちゃんは後から来る。
早く来い!
アリの店は去年より豪華さが増した気がする。
そして、店主アリが直々に挨拶に来た。
「エリフィーヌ様?」
「はい?」
「ますます、お綺麗になられましたね?」
よせよ、なんだよ、照れるぜ。
「アリ、お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞ではありませんよ」
続かない。
姉ちゃん、早く!
「エリフィーヌ様は、いつだったか、真剣に絵を見ておいでました」
「初めて伺った時だわ、印象に残ってるもの」
「実は、あの絵の服があるんですよ」
「え?」
「ご注文された方が亡くなったので、制作しなくて良かったんです。が、どうしてか、作ってしまいました」
マジ?
「そう、そうなの…」
「着て見られませんか?」
「え?」
「きっとお似合いです」
「けど、」
「お時間はありますでしょうか?」
「ええ、少し、なら…」
「では、ぜひに!」
上手だな…。けど、着ちゃおうかな。
「じゃ、いいかしら?」
のせられてしまった。
私はアリが服を持ってくるのを待った。
「こちらです」
服が差し出される。
ああ、凄い!
あの時に相談してたことが、ちゃんと服になってるんだ。
凄いなぁ!
「じゃ、着替えましょう」
私はアリの為すがままに任せた。
「どうですか?」
着せられた私は鏡を見る。
チェニックとスパッツだよ、確かに。
けど、こんなにゴージャスでいいのかな?
こんな上等な生地で、こんなにフリフリで、ドレスだね、これは。
部屋着が欲しかっただけなんどけどなぁ。
「エリフィーヌ様はまだ成人なさっておりませんので、ちょっと大きいかもしれませんね?」
そう言って、ピンで詰めてくれる。
改めて、鏡で全身を確認する。
凄い、チェニックとスパッツなのに、間違いなく、ドレスだ。
「如何でしょうか?」
うん、好きだよ!嬉しいよ!
「凄いね!チェニックとスパッツがこうなるんだから、あ、…」
「今、なんと?」
あ、。
シラバックレヨウ。
「あ、えーっと、可愛いなぁ、と」
セーフか?セーフにしろ?
と、いきなり、ドアが開いた。
思わず振り向く。
「お似合いですよ、カナコ様」
ジョゼがいた。
私は視線を逸らす事すら出来ないでいる。
「今まで何処においでたのですか?随分と探しました」
「…」
「それに、です。以前よりも、お綺麗になられて、ジョゼは驚きました」
「…」
「どうしました?」
「だって、…」
「はい、」
「ジョゼ、卑怯だ」
「卑怯?」
「急に現れるんだもん」
「カナコ様が出てきて下さいませんから、しょうがありません」
涙で、見えない。
「ザックに口止めなさったのでしょう?」
「うん」
「喋らすのに、苦労しました」
ザック、ゴメン。
てか、やっぱり喋ったな?
「どうか、お逃げにならずに、陛下にお会い下さい」
「それは、まだ、出来ない」
「相変わらず、強情で」
「強情でいい」
「カナコ様…」
思わず、ジョゼに抱きついた。
あ、ピンが付いたままだ。
ごめんよ…。
「ジョゼ!また、サラサラにして?」
「いいですよ」
サラーン!
「いい気持ちだ。ジョゼだ!」
「本当にカナコ様です」
ジョゼが泣いている。
「お会いしとうございました、」
「ジョゼ…?」
「戻ってきたなら、何故、真っ先にジョゼの所に来て下さらなかったのですか?」
「ごめん」
「カナコ様、ジョゼは頼りになりませんか?」
「そうじゃない…」
「カナコ様の為ならば、何でも致します。まだ陛下にお会いできないと言うのであれば、陛下には何も言わずにおりますよ?今の、エリフィーヌ様の人生を送りたいのあれば、それをお手伝い致します。だから、どうか、カナコ様にお仕えすることをお許し下さい」
「ジョゼ…」
ありがたい。
なんて、嬉しいんだ。
けど、私は、こんなにもジョゼにしてもらうだけの資格があるんだろうか?
「ありがとう、ジョゼ。けど、ね。エリフィーヌには侍女はいなくても大丈夫だから」
「何を仰います?ジョゼがカナコ様を見つけたからには、お側にいるのは当然のこと」
「けど、私はハイヒットの人間だもの。家の侍女はいても、お姉ちゃんにもお兄ちゃんにも専属の侍女はいないんだ。だから、私だけいたら変。わかって?」
「しかし…」
「お願い」
「カナコ様のお願いならば…。けれども、私が勝手にお仕えするのならば、宜しいですね?」
「えっと、それは、家には来ないでってこと?」
「まぁ、そうなります」
「それなら、いいのかなぁ?どう思う?」
「いいのです」
「そう?…」
なんか、丸め込まれた気がする。
「それと、絶対にデュークさんにはいわないで。もしいったら、二度と口きかない」
ジョゼは笑った。
「畏まりました」
頼んだよ?
「あ、あと、」
「なんでしょうか?」
「ザックを〆といて」
「はい、承りました」
私は服を着替えて、マリ姉ちゃんが来るのを待って、一緒に家に帰った。
ジョゼは魔法学院の学院長の奥さんって紹介した。
なんか、なし崩し的に、デュークサイドに取り込まれている気がする。
もう、今までのようにはいかないのかな?
けど、どうやったらいいのかが、分からない。
どう考えたって、愛人は嫌だ。
違う…。
いや、デュークさんに会ってしまったら、理性なんて吹っ飛ぶ。
だから、嫌なんだ。
大体、私がカナコで、カナコとして暮らした2ヶ月を、家族にどう説明すればいいのか。
その後、エリフィーヌに生まれたことを、どう説明すればいいんだろうか?
それに、さ。
ザックとジョゼは簡単に信用しすぎだよ。
もし私が偽者だったら、どうするつもりなんだろうか?
まぁ、偽者ではないんだけど。
会いたいのか、会いたくないのか。
結局のところ、怖いんだ。
会って、一瞬でも、嫌がられるのが、怖いんだ。
何で来たんだって、そんな顔されたら、立ち直れない。
今の生活を邪魔するな、って言われたら、生まれ変わった意味が無くなる。
デュークさんに冷たい目で見られたら、それだけで、私は耐えられない。
情けない人間なんだよ。
臆病で意気地なしで、ウダウダしてるんだよ。
しかし、ザック、ジョゼ、ときたら、次は、リックだよなぁ。
あのリックに太刀打ちなんて出来ないよなぁ。
絶対に避けようっと。そん時は逃げることにしよう。




