表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/192

56

私はザックとの会話を忘れていた。

いや、忘れると決めていた。




けれども、ザックは忘れていなかった。




そして…、急にザックに呼び出された。

わざわざ、案内の人間を学園によこしてだ。

その人に案内されて、私は学園の制服のままで学院に入り、学院長室を尋ねた。


ここも懐かしい場所だ。

昔の私が最後に外出した場所だから。


ザックはあの時と同じ笑みだ。

年は取ったけどね。

私は、カナコに戻って、カナコの口調で話しかけた。


「なに?どうして、私を呼び出したの?」

「たまにならいいって、いったのはカナコだ」

「そうけど…」


ジャックは林檎ジュースをくれた。

美味しい。

学院特製なのかな? 


急にジャック兄ちゃんの話を振る。


「ジャック・ハイヒット、彼は凄いな?」 

「ジャック兄ちゃんが?」


どうやら、ザックの手元にある資料はジャック兄ちゃんが書いたものらしい。


「組み合わせた魔法の無駄な部分を削いで魔量を少なくする。こんな論文を仕上げた奴は初めてみた」

「どう?凄いでしょ?私のお兄ちゃん?」


私は自分のことのように、自慢げに言う。


「ああ、凄い。けれど、あのアイディアは、カナコが出したんだって?」

「ザック、まさか、ジャック兄ちゃんに、カナコっていってないでしょうね?」

「いってない、いってない!」


本当だな?思わず睨んだ。

ザックは慌てて首を左右に振る。

仕方がない、信じてやろう。


「なら、いいんだけど。で、用事って?」


照れた様子で頭をかくのが、ザックの癖。

それも、懐かしいね。


「なぁ、カナコ、この前、アリの店でボロ出しそうになっただろう?」


あ…。

しまった、バレたのか?


「やっぱりな、そうなんだ?」

「けど、この前っていったて、かなり前よ?どうして今頃になって?」

「今頃ってわけじゃないんだけど、ジョゼがエリフィーヌ・ハイヒットを怪しんでるんだよ」

「え?ジョゼが?」

「それに、カナコ、一度、陛下に会ったな?」


会ったよ。

子供の時だよ。

いいじゃん、無理やりに会わされたんだから。

私のせいじゃないもん。


「だって、私のお爺様が無理やりに会わせたのよ。私が会いに行った訳じゃないもの…」

「それでも、会ったくせに。一度会ったんだ。もう一度会ってもいいじゃないか?」

「あれは6歳のときなのよ?もう、昔の話だから関係ないわ」

「泣いてしまって、陛下から、離れなかったんだって?」


なんで、そこまで知ってる??


「…」

「会いたいくせに。なんで、無理するかなぁ」

「だって、デュークさんには、奥さんいるし、子供もいる」

「側室はいないぞ?」

「側室、いないんだ…」


相変わらず、律儀な人だ。

今の奥さんに義理立てするんだ。

ほら、その人を大切にしてるんじゃん。

今を、大切にしているんだよ、デュークさんは…。


「でだ、その6歳のときに、陛下に魔法を掛けただろう?」

「え?バレた?」

「カナコの魔法だと、陛下は信じている」

「うそ…」

「けど、6歳の君だとはバレていない」

「そうか…良かった…」


いいのかな?いい事にしよう。そうする。


「それから、方々をジョゼが探したんだ。なかなか見つからなかった。ところがだ、さっきも言ったように、最近、君を疑いだした」

「ザック、喋ったの?」

「喋ってないよ!カナコとの約束は守っている。信じてくれないか?」

「わかった、信じるけど…」

「どうやら、アリの店での行動が、かなり怪しかったらしいよ」


なんてことだ。

そんな私に追い討ちを掛けようとする、ザック。


「どうだろう、もう、会ってもいいんじゃないか?」

「誰に?」

「陛下に。会いたいくせに?」

「ザックは相変わらず、意地悪だ」

「カナコは相変わらず、意地っ張りだ」


ザックが笑う。


「その意地っ張りで、何回泣いた?何回後悔した?また後悔するの?また間に合わなくなるよ?」

「それは…」

「そうでなくても、その内にジョゼが君に接触するだろう。カナコはシラを切り通せるかい?」

「え、、と…」

「私にすら、白状したカナコが、ジョゼには瞬間で落ちると思うけどね」


ああ、ザックには叶わない。

言わせる気か?

言いたくないんだけど…。

だってさ、言ったら、止まらなくなるじゃないか。

ああ、口が、言いたいって…。


「デュークさんに会いたいよ。会いたくてたまらない」

「なら…」

「けどね、今の私はエリフィーヌなんだ。ハイヒットの家族もいる。みんなを捨ててしまう様なことはできない」

「捨てるって、別に捨てることはないだろう?」

「私は自分に自信がないの。一目デュークさんに会ったら、離れられる自信がないの」 


そうだよ。

もう絶対に離れない、そう思うし、そうする。


「ハイヒットの家族と、会えなくなるのが嫌なの」


それも大きな理由だ。

けど…。

まだ他にも理由はあるんだ。

ただ、それがなんなのか、まだ、言葉にして言えるまでになっていない。

私は少し考え込んでいた。


「どうしたんだい、カナコ?」

「もう少し、時間が欲しいの。もう少し、ハイヒットの末娘でいたいの。ザック、お願い。時間を頂戴」


ザックのため息が聞こえた。


「どうせ、私の説得なんか聞く気、ないんだろう?」

「ごめん」

「わかったよ。私からは言わない」

「ありがとう」


話はそれで、終わり。

私達は昔の私達を消した。


「じゃ、お帰り。君の兄上は、図書館にいるよ?」

「うん、じゃ、学院長先生。兄に先生の言葉を伝えます。きっと喜びます。では、失礼します」


私は図書室に向った。

しかし、ジャック兄ちゃん、あんたは、最高にイカした兄ちゃんだ!

妹として、誇りに思うよ!




数週間後のこと。


ジャック兄ちゃんの論文は一躍有名になった。

卒業を待たずに、ザックの秘書として働くことを許された。





ザックは、見る目がある。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ