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サー姉ちゃんは沢山の大人を連れて来た。
この学園の学長と私の担当教師、それになぜか、お爺様とお父様とマリ姉ちゃんが来た。
「フィー!大丈夫だったか?」
「お爺様!」
「怖かっただろ?」
「うん、怖かった!」
「もう大丈夫だ、わしがおるぞ」
久し振りに会った、お爺様だ。
実力者だったよね、頼みました。
お父様も心配顔だ。
ごめんなさい。
「フィー、怪我はないか?」
「うん、お父様!ごめんなさい」
お父様にも、抱きついた。
頭を撫でてくれた。
やっと、安心できた。少しは不安だったんだ。
学園長は真っ青な顔をしてる。
お爺様に向って、何度も何度も頭を下げてる。
「申し訳ございませんでした」
その姿を見るお爺様の目つきは、怖かった。
「いったい何が起こったのじゃ?」
「皆様に事実を話してごらん、サーシャ?」
「はい」
サー姉ちゃんは淡々と粉飾した内容を語っていった。
事実としては合っているから大丈夫。
憤慨する、お爺様とお父様。
「学園長、何故、地下の人間とわしの孫が接触するようなことになったのだ?」
「公爵、申し訳ありません。今、この者に…」
担当教師の先生は私を睨んでいる。
なんで?私、被害者なんだけど?
「ユイビック君、君はちゃんと指導したのか?」
「ちゃんと、地下の人間とは1対1で会わないようにと、言いました。なのに、ハイヒットさんが守らないから」
ユイビック先生は嘘を言う。
この先生は、私にそんなこと、いわなかった。
「君は、私の娘が悪いと?」
「そうです、」
嘘はよくない!
「先生、そんなこと、いわなかった。そうよね?」
「言いました!あなた、私を陥れる気ね?なんて子でしょ!」
10歳の生徒がこの状況で先生を陥れる必然性が、わかりません。
ってか、生徒の身内の前で、言うなよ?
自分が不利になるって、気づかないのか?
ほら、お父様がヒクヒクするほど、怒ってる。
「私の娘が、あなたを陥れて何のメリットがあるんでしょう?」
「…そ、それは…」
その時、サー姉ちゃんが喋った。
「お父様、私に任せて?」
「サーシャ?」
「学院長、魔法を使っても良いでしょうか?」
「ああ、いいよ。君の実力を公爵にお見せしなさい」
「はい」
お姉ちゃんはさっき使った自白の魔法をユイビック先生に掛けた。
「この魔法はね、真実を喋りたくて堪らなくなるの。好きなだけ喋っていいわ」
「ふん!」
見くびって、黙っていた先生だけど、口がムズムズしてるのが分かる。
ここ、ってタイミングで、サー姉ちゃんが質問する。
「なんで、嘘をつくわけ?」
「当たり前でしょ?地下の人間と1対1で会っちゃいけないなんて、差別よ?同じルミナスの民だから平等であるべきだわ」
「そのために、私の妹が誘拐されて、売られて、殺されてもいいの?」
「そうよ、報いよ。私達は謝らなければいけないのよ、地下の人達に」
「あなたは、ワザと妹に教えなかったのね?」
「そんな差別を教えることなんて出来ない。地下の人々の苦しみを知りなさい!!」
それから、永遠に続くかと思うくらいに、喋りつづけた。
頭が痛くなりそうな、先生の持論って奴を。
だったら、自分が地下に行って償ってくればいいのに?
途中で、お爺様が部下に耳打ちをした。
何かと思ったら、軍隊がやってきて、先生を連れていった。
国を不安にさせて皆を煽った罪だって。
相変わらず、実力者だよ。
その軍隊は、しびれたままの4人も連れて行った。
どうなるんだろう。
まぁ、心配する必要はないよね。
私、誘拐されて、他人に売られる所だっだんだから。
もう、この件には関わらないでおこう。
終ったと思ったら、足がガクガクしてきた。
「フィー、大丈夫?」
マリ姉ちゃんだった。
マリ姉ちゃんがズッと手を握ってくれてた。
「うん、大丈夫…」
「本当に、フィーは馬鹿なんだから!」
「ごめんなさい…」
馬鹿って言われて、安心できた。
「学園長、君はどうするつもりなんじゃ?」
「いえ、その、」
「公爵の仰る通りです。これまでも学園には多額の寄付を行ってきたつもりですが、それでは足りないとでも言うのですかな?」
「そ、そんな、ハイヒット様にはいつも…」
お爺様とお父様は学園長に詰め寄っている。
これ以上は子供には聞かせられないんだろう。
3人はそのまま、校舎に向って歩いていった。
残ったのは、4人。
私、サー姉ちゃん、マリ姉ちゃん、ザック。
しばらく無言で立ちすくんでいた。
なんか、破壊力が凄い出来事だったな。
って、か、なんでザックが残ってるの?
大人でしょ?
大人と一緒に去りなさいよ?
「なんか、凄かったね?」
私に話しかけるなよ?
「そうですね、私、よくわからないです」
「学院長、妹がご迷惑をお掛けしました」
「いや、君達のせいじゃないから」
そうだよね?
あ、マリ姉ちゃんが私を睨んでる。
ごめんなさい、地下の子だっていいませんでした。
私のせいです…。
「しかし、サーシャ、あの魔法はいいね」
「本当ですか?」
「実に的確で、問題が素早く解決した。君は魔法のセンスがあるよ」
あ、サー姉ちゃん、顔が赤いぞ?
褒められることに慣れてないのか?
「フィー、姉様、顔が赤いわ」
小声でマリ姉ちゃんがつぶやく。
「気づいた?」
「意外に、姉様って可愛い…」
「うん」
てか、意外は失礼だろう?
しかし、サー姉ちゃんは凄い。
淡々と追い詰めるあの迫力。
お姉ちゃん、刑事に向いてるよ?
「とにかく、サーシャ、素晴らしかったよ」
サー姉ちゃんは、まだ、照れている。
「ありがとうございます」
ザックはチラッと私を見た。
話すことなんか、何もないぞ?
そんな私の気持ちを察したか、苦笑いになるんだ。
「君達、姉妹は仲がいいんだね?」
「そうですね、弟たちも含めて、仲はいいですね」
マリ姉ちゃんも私も、頷いてる。
「じゃ、私はこれで」
「「「ありがとうございました」」」
こうして、ザックと別れた。
もう、会わないつもりだからね。
ほんと、だよ?




