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最近、マリ姉ちゃんが遊んでくれない。
つまんない。
私は、完全に引きこもりタイプだから、兄弟以外と遊ぶことがない。
そんな暇があったら、したいことがあるからだけど。
この間もそうだった。
「マリ姉ちゃん、あそぼ?」
「いや、いそがしいから、だめ」
「でも、」
「こんど、わかった?いい?」
「うん…」
そう言って消える。
お母様曰く、この間の観劇でお友達が出来たらしい。
その子の家に行くので忙しいんだって。
家は城の城下街から少し離れたところにある。
城は2階の部屋から良く見える。
あそこにいたんだね、私。
街から遠いから、遊びに行くのも大変なんだ。
私達には専用の馬車があるから、マリ姉ちゃんは少し遠くでも出かけていくんだ。
ふーん、寂しい。
1人で居間でボーとしてたら、言語クラスから帰ってきたジャック兄ちゃんが話しかけてきた。
「どうした、フィー?」
「あ、ジャック兄ちゃん…」
「元気ないぞ?」
心配してくれて、ありがとう。
普段は無愛想なんだけど、こんな時は気を使ってくれるんだ。
「だって、マリ姉ちゃんが遊んでくれないんだもん」
「あいつは、新しい友達と遊ぶのが楽しいからな」
そうなんだよ。
ジャック兄ちゃん、遊んでくれる?
いや、それはないか…。
「1人、つまんない」
「本でも読んだらどうだ?」
「本?」
「お父様の部屋の前の廊下に沢山本があるだろう?」
あ、忘れてた。
そうだった、あそこにはいろんな本があったんだ。
「好きな本を読めばいいよ?」
「うん!そうする!」
私はジャック兄ちゃんにお礼を行って、お父様の部屋の前の廊下に行った。
あるぞあるぞ。
とにかく、魔法に関するものが多い。
お父様も魔法が使えるしな。
割と実践向けの本が多いのが嬉しい。
どれどれ、『魔法と料理の融合』、これはまだ早いな。
『直ぐ使える緊急時の治療魔法』これ、読もうっと。
『ここまで使える生活魔法』いいぞ。
この2冊にしよっと。
その時だ。
「可哀想よ?」
あれ、声が?
お父様の部屋のドアが少し開いてる。
立ち聞きではないよ?勝手に聞こえてくるんだよ?
お父様とお母様だ。
「しかし、どうせ子供の淡い憧れだろう?」
「そうとも言えないわよ、あの子、変わったところがあるから」
「けど、ヴィクトリア。いずれは知ってしまうよ?」
「そうね、けど、」
「陛下のお子だ。男の子であればこのルミナスの世継ぎだかなら、人の噂にも上る」
「あの子もリリフィーヌ様くらいの年齢だったなら、ね」
「そりゃ、あの子の美貌ならば、お目に留まることもあるかもしれない。けど、まだ、5歳だ」
「4歳の時に、陛下の結婚に泣いたのよ?」
「もう忘れてるさ」
「何言ってるの?あのペンダントを肌身離さず持っているって、落ち込んだのは誰?」
「…」
それだけ聞けば、もういいや。
てか、あ、お父様、それで落ち込んでたのか。
そりゃ、複雑だよね。
ゴメン…。
そうか、ついにデュークさん、父になるんだ。
だよなぁ、健全な夫婦生活を送れば子供は出来るもんなぁ。
いい年だし、世継ぎがいないと、問題ありだしね。
あ、涙が。
取り繕ったて、悲しいことには変わらない。
いかん、部屋に戻ろう。
自分の部屋で、ベットに臥せって泣いた。
声を上げないように、誰にも気づかれないように。
仕方ない、のかな。
デュークさん、幸せなんだろうな。
私のお年頃って、もう後10年だよね?
そんな頃に出て行って、カナコだって言ったって、ね。
きっと、少しは懐かしんでくれるだろうけど、でも、今の生活を守るよね。
私でも、そうすると思うよ。
まして、リリさんとは外見も違うんだから。
それに、生まれ変わってるなんて、知らないよね。
まさか、だよね。
ねぇ、デュークさん。会わない方がいいのかな?
『俺はカナコと毎日を分け合いたい。楽しいことも悲しいことも。全てだ』
『素敵だね?私もそうしたい』
『そうしろ?いいな、これから、毎日だぞ?』
『うん、じゃ、喧嘩する暇ないね?』
『ああ、無いな?』
声を思い出した。
けど、喧嘩する時間も、毎日を分け合う時間も、無かったね。
いろんなことしたかったなぁ。
いろんな所に行きたかった。
2人なら、きっと楽しかったよね?
けど、しかたないんだ。
同じルミナスにいても、毎日城が見えても、状況が違う。
運命なのかな?
けど、デュークさんの子供なんて、見たくない。
絶対に、見たくない。
泣き顔を魔法で消した。
このペンダント、外そう。
5年経った。
この生活を大事にしよう。
それで、いい。
5歳のエリフィーヌ・ハイヒットの人生をちゃんと生きよう。
それから…。
デュークさんの子供が生まれた頃。
私は6歳になっていた。
子供は女の子だった。
名前なんて知りたくない。
家族はみんな黙っていてくれた。
もう、ネックレスはしてない。
それでもだ。
私が陛下を好きだって、知ってるから、黙っていてくれる。
けどね、内緒だけど、ね。
夜寝る前に、蓋を開けて、デュークさんの顔見るくらいに抑えてるの。
6歳になると、お母様は私も連れて外出するようになった。
着飾るって、素敵。
あ、アリ、元気かなぁ。
ヨッシー先生も。
今日も私の洋服を仕立てに来た。
お母様チョイスは、私の長い髪に大きなブルーのリボン。
薄いピンクのヒラヒラなドレス…。
あ、リリさんの好みに近いぞ。
ちなみにデュークさんも好み。そうだったよね?
「ねぇ、お母様、フィーに似合ってる?」
「もちろんよ?フィーは美人だから、何を着ても綺麗よ?」
「嬉しい!」
本当にそうか?
残念ながら、リリさんの方が美人だったぞ?
あの人は裸でも美人だった。
お買い物を終えて、私はお母様と街を歩いてる。
そう、サクラダファミリアの側の街を。
ちょっと立ち止まって、宮殿を仰ぎ見る。
フラバだ。
『信じられない…。じゃなんで宮殿は高いの?』
『俺が住んでると示すためだ』
『ふーん』
『そうすれば、民は安心できる』
『そっか…』
私は安心できない。
会いたくなっちゃうなぁ。
「フィー?どうしたの?」
「なんでもない、いこう。お母様」
「そうね」
勘のいいお母様は、気づいただろう。
けど、優しいお母様は、私の肩に手を置いただけで何も言わないでくれる。
家族ってありがたい。
もう手放すって決めたのにな。
リリさんの事も、カナコの事も。
なんで消せないのかな。
刻まれたせいかな。
いつか、会えるんだろうかなぁ?




