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寝室に篭城中。


ノックされた。 

ドア越しに、ジョゼが話しかけてきた。


「入っても宜しいですか?」

「うん」


ジョゼは不貞寝してる私の横にきた。


「カナコ様?大丈夫ですか?」


大丈夫じゃない。


「ジョゼ、自分で自分にスリープの魔法は掛けられるの?」

「スリープですか?」

「うん、眠る魔法のこと。スリープ、自分に掛けられる?」

「それは、無理ですね」


この世界の魔法は面倒くさい。

やれないことが多すぎる。


「そっか…」

「今日はスケジュールをお休みしましょう」

「いいの?」


ジョゼが手を握ってくれた。  


「夕べは眠れなかったのでしょう?ジョゼが、その、スリープを掛けて差し上げます。ゆっくりお眠り下さい」

「うん、そうする」 

「では、失礼いたします」

「うん、お休み」 


ジョゼが魔法を掛けてくれた。

私はやっと、眠ることができた。






「あー!」


起きた。

今、何時だろ?


とりあえず、サッパリした。

ついでに、魔法を掛けた。


もう、済んだことを悩んでも仕方ないよね。

忘れよう。

忘れられたらね。


電話でジョゼを呼んだ。


居間で自分で入れた紅茶を飲んでた。

しばらくして、ジョゼとリックが来た。


「カナコ様、眠れましたか?」

「ええ、ありがとう」


リックはデュークさんがいるときには現れないから、久しぶりさ。

マジマジと見つめられた。

おいおい、照れるぜ?


「ご無事でよかったです」

「え?あ、まぁ」


そうだった。

私のせいで魔物征伐になって、すみません。


「なんか、迷惑かけて…」

「ご心配には及びません」


そんなに心配しなくても、大丈夫だよ、リック?

私は大丈夫だよ。

あの分らず屋がいないから、さ。


「リック、そんな顔しなくても、私、大丈夫だから、ね?」


リックは少し驚く。

自分がどんな顔をしてるかなんて、知らないよね?

見えないもんね。


「あ、すみません、私が心配されてしまった」


苦笑いになる。

少し、元気そうになった。

よかった。


「けれども、アルホートの皇太子が来る前で良かったです」


あ、忘れてた。

私とジョゼは顔を見合わせる。


「それって、いつかしら?」

「4日後ですよ?」


完全に忘却の彼方へ行ってた。

てか、来るなよ。

今、色々と忙しいんだ。


「忘れてた…、ジョゼ、ダンスどうする?」


ジョゼの顔が曇った。

思わずリックを見た彼女の顔が、怖かった。


「リック、ワルツさえ踊れればどうにかなるわよね?どうにかするわよね?」


ジョゼ、鬼気迫ってます…。

気のせいか、リックの足が後ろに後退してる気がする。


「あ、ああ。何とかする…」


お願い、そんな顔で私を見ないで…。


「カナコ様、今日から特訓です。魔法は後回しです!」


そうです、踊れない私が悪いんです。

すみません。


「だよね…」

「さぁ、参りましょう!リック、ここを出ますよ?」

「あ、わかった…」


ジョゼの勢いにつられて、リックも部屋を出た。

私たちは二手に分かれた。

ジョゼに引っ張られて、ダンス教室にまっしぐらだ。



あ、腹減った…。

なんて、言えないか。



ダンス教室ではヨッシー先生が、相変わらずのオーバーリアクションで迎えてくれる。


「カナコ!今日は休むんじゃなかったの?」

「いえ、先生、時間がないそうです!」


ヨッシー先生は最高のオーバーリアクションで答えてくれる。


「そうよ、やっと気づいたの?あなた、踊れてないのよ?」


それは知ってますよ。

危機感がなかっただけです。


「ヨッシー、もう、ワルツだけでいいから、仕上げてちょうだい!本番は4日後よ?」

「オー!カナァコ!覚悟は出来てる?」

「先生!先生だけが頼りです!お願いします!」

「やりましょう!さぁ!第一楽章からよ!」

「はい!」


私とヨッシー先生は回り続けた。

目が回るぜクルクルクルだぁーーーーー!


「先生!目が、目が!」

「目が回ったくらいが、なんです!踊り続けるのよ!」


背筋を伸ばしてシャキーンとしてる先生、さすがです。


「顔は優雅、優雅よ!」

「は、はい…」



再びの激しいレッスンに、体がついていかない。

私は毎晩、疲れ果てて寝ていた。


デュークさんがいた事さえ、朝早くに出かけた事さえ、知らなかった。

隣で寝てたのか?

どうなんだろう?


けど、背中の痛みや、靴擦れや、足のマメ、が、朝起きると直っている。

これって、デュークさん?

…、いやいや、そんなに優しい筈がない。


ジョゼの魔法にオプションが付いているんだよ、きっと。




3日目。



私とヨッシー先生は、ワルツを1曲踊りきった。


「カナァコ!よくやったわ!これならば、陛下の前に出しても恥ずかしくなくてよ!」

「先生ぃ!ありがとうぅござましたぁ!」

「泣いちゃ駄目!泣いちゃ駄目!」

「先生ぃ!」

「カナァコ…、頑張ったわ、偉いわよ!」


ようやく、ワルツだけ、マトモに踊れるようになった。


「よかった…」


ジョゼが素になって安堵していたのが、聞こえた。


「これで、陛下と踊っても大丈夫…」


え?なんか気になるぞ?


「今、なんか言いました?」

「何かしら?」

「陛下の前とか…」

「そうよ?当日は招待客の前で陛下と2人でダンスを披露するのよ?」


マジ?

デュークさんと踊るのか?


「え?デュークさんと踊るの?」

「誰と踊ると思ってたのですか?」


あ、誰かだなんて、考えてなかった…。


「当たり前でしょ?カナァコ、あなたは一応は王妃なんですから」

「ジョゼ…」


きっと、私は今、間抜けた顔をしている。


「カナコ様、今頃になって、気づきました?」

「うん、今頃気づいたよ、ってか、知ってるよね?私、デュークさんと喧嘩してるよ?」

「どうにかなります、陛下はワルツはお得意ですから」

「え?」


私の間抜けた顔を引き摺って、ジョゼはダンス教室をお暇する。


「さぁ、お暇しなくては、ヨッシー、ありがとう!落ち着いたら、また来るからね?」

「ジョゼ、カナァコ、いつでも待ってるわ!」

「せ、先生、ありがとうございました!」


私達は嵐のように去った。






え?デュークさんと踊るの?

マジ???




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