24
寝室に篭城中。
ノックされた。
ドア越しに、ジョゼが話しかけてきた。
「入っても宜しいですか?」
「うん」
ジョゼは不貞寝してる私の横にきた。
「カナコ様?大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない。
「ジョゼ、自分で自分にスリープの魔法は掛けられるの?」
「スリープですか?」
「うん、眠る魔法のこと。スリープ、自分に掛けられる?」
「それは、無理ですね」
この世界の魔法は面倒くさい。
やれないことが多すぎる。
「そっか…」
「今日はスケジュールをお休みしましょう」
「いいの?」
ジョゼが手を握ってくれた。
「夕べは眠れなかったのでしょう?ジョゼが、その、スリープを掛けて差し上げます。ゆっくりお眠り下さい」
「うん、そうする」
「では、失礼いたします」
「うん、お休み」
ジョゼが魔法を掛けてくれた。
私はやっと、眠ることができた。
「あー!」
起きた。
今、何時だろ?
とりあえず、サッパリした。
ついでに、魔法を掛けた。
もう、済んだことを悩んでも仕方ないよね。
忘れよう。
忘れられたらね。
電話でジョゼを呼んだ。
居間で自分で入れた紅茶を飲んでた。
しばらくして、ジョゼとリックが来た。
「カナコ様、眠れましたか?」
「ええ、ありがとう」
リックはデュークさんがいるときには現れないから、久しぶりさ。
マジマジと見つめられた。
おいおい、照れるぜ?
「ご無事でよかったです」
「え?あ、まぁ」
そうだった。
私のせいで魔物征伐になって、すみません。
「なんか、迷惑かけて…」
「ご心配には及びません」
そんなに心配しなくても、大丈夫だよ、リック?
私は大丈夫だよ。
あの分らず屋がいないから、さ。
「リック、そんな顔しなくても、私、大丈夫だから、ね?」
リックは少し驚く。
自分がどんな顔をしてるかなんて、知らないよね?
見えないもんね。
「あ、すみません、私が心配されてしまった」
苦笑いになる。
少し、元気そうになった。
よかった。
「けれども、アルホートの皇太子が来る前で良かったです」
あ、忘れてた。
私とジョゼは顔を見合わせる。
「それって、いつかしら?」
「4日後ですよ?」
完全に忘却の彼方へ行ってた。
てか、来るなよ。
今、色々と忙しいんだ。
「忘れてた…、ジョゼ、ダンスどうする?」
ジョゼの顔が曇った。
思わずリックを見た彼女の顔が、怖かった。
「リック、ワルツさえ踊れればどうにかなるわよね?どうにかするわよね?」
ジョゼ、鬼気迫ってます…。
気のせいか、リックの足が後ろに後退してる気がする。
「あ、ああ。何とかする…」
お願い、そんな顔で私を見ないで…。
「カナコ様、今日から特訓です。魔法は後回しです!」
そうです、踊れない私が悪いんです。
すみません。
「だよね…」
「さぁ、参りましょう!リック、ここを出ますよ?」
「あ、わかった…」
ジョゼの勢いにつられて、リックも部屋を出た。
私たちは二手に分かれた。
ジョゼに引っ張られて、ダンス教室にまっしぐらだ。
あ、腹減った…。
なんて、言えないか。
ダンス教室ではヨッシー先生が、相変わらずのオーバーリアクションで迎えてくれる。
「カナコ!今日は休むんじゃなかったの?」
「いえ、先生、時間がないそうです!」
ヨッシー先生は最高のオーバーリアクションで答えてくれる。
「そうよ、やっと気づいたの?あなた、踊れてないのよ?」
それは知ってますよ。
危機感がなかっただけです。
「ヨッシー、もう、ワルツだけでいいから、仕上げてちょうだい!本番は4日後よ?」
「オー!カナァコ!覚悟は出来てる?」
「先生!先生だけが頼りです!お願いします!」
「やりましょう!さぁ!第一楽章からよ!」
「はい!」
私とヨッシー先生は回り続けた。
目が回るぜクルクルクルだぁーーーーー!
「先生!目が、目が!」
「目が回ったくらいが、なんです!踊り続けるのよ!」
背筋を伸ばしてシャキーンとしてる先生、さすがです。
「顔は優雅、優雅よ!」
「は、はい…」
再びの激しいレッスンに、体がついていかない。
私は毎晩、疲れ果てて寝ていた。
デュークさんがいた事さえ、朝早くに出かけた事さえ、知らなかった。
隣で寝てたのか?
どうなんだろう?
けど、背中の痛みや、靴擦れや、足のマメ、が、朝起きると直っている。
これって、デュークさん?
…、いやいや、そんなに優しい筈がない。
ジョゼの魔法にオプションが付いているんだよ、きっと。
3日目。
私とヨッシー先生は、ワルツを1曲踊りきった。
「カナァコ!よくやったわ!これならば、陛下の前に出しても恥ずかしくなくてよ!」
「先生ぃ!ありがとうぅござましたぁ!」
「泣いちゃ駄目!泣いちゃ駄目!」
「先生ぃ!」
「カナァコ…、頑張ったわ、偉いわよ!」
ようやく、ワルツだけ、マトモに踊れるようになった。
「よかった…」
ジョゼが素になって安堵していたのが、聞こえた。
「これで、陛下と踊っても大丈夫…」
え?なんか気になるぞ?
「今、なんか言いました?」
「何かしら?」
「陛下の前とか…」
「そうよ?当日は招待客の前で陛下と2人でダンスを披露するのよ?」
マジ?
デュークさんと踊るのか?
「え?デュークさんと踊るの?」
「誰と踊ると思ってたのですか?」
あ、誰かだなんて、考えてなかった…。
「当たり前でしょ?カナァコ、あなたは一応は王妃なんですから」
「ジョゼ…」
きっと、私は今、間抜けた顔をしている。
「カナコ様、今頃になって、気づきました?」
「うん、今頃気づいたよ、ってか、知ってるよね?私、デュークさんと喧嘩してるよ?」
「どうにかなります、陛下はワルツはお得意ですから」
「え?」
私の間抜けた顔を引き摺って、ジョゼはダンス教室をお暇する。
「さぁ、お暇しなくては、ヨッシー、ありがとう!落ち着いたら、また来るからね?」
「ジョゼ、カナァコ、いつでも待ってるわ!」
「せ、先生、ありがとうございました!」
私達は嵐のように去った。
え?デュークさんと踊るの?
マジ???




