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190 あなざーさいど35

アンリ。






妹が旅立った。






最期はあの丘の上の居間で、ご家族に見守られて、私達兄弟も側にいての、旅立ちだった。

子供達のことを気に掛け、最期まで陛下の名を呼んで。

けれども、それは、安らかで静かな最期だった。


「お母様!」

「いっちゃ、やだ!」

「はは上!はは上!」


その声に、私達も涙してしまう。

セーラ様は14歳、アリス様は13歳、ルイ様は10歳だ。

まだ、早すぎる。


陛下は泣かれなかった。

お子様達の泣き声がする中、陛下はずっと3人のお子様を抱きしめたまま、妹を見つめていた。

とても優しい瞳で。

いつも妹を見つめていた、あの瞳のままで。


『最近ね、デュークさんたら子供みたいなの。良く泣いちゃうから…』


そう妹が教えてくれた。


きっと、何度も泣かれたのだろう。

最愛の妻が段々と弱っていくんだ、泣いたっていい。

エリフィーヌの腕の中で、幾晩も、何度も、泣いたんだ。

けれども、それは女々しい事などではない。

穏やかな別れを迎えるためには必要な時間だったに違いないんだから。



エリフィーヌとして生まれて、30年しか生きられないと宣告されて。

それでも、妹は必死で生きた。

陛下に愛されるためだけに生きてきた。


あんな生き方が出来るのは、エリフィーヌ・カナコ・ルミナスしかいない。







エリフィーヌ王妃の葬儀は、当然、国葬となった。




ルミナス全体が王妃の早過ぎる死を悼んだ。

妹は本当に国民に愛されていた。

真っ先に魔物に向って行く王妃なんて、あいつしかいない。

誰にでも気軽に声を掛け、笑って、驚いて、そして、惚気る。

そんな王妃だったんだ。




私の自慢の妹なんだよ。






葬儀が終わり、明日にはサー姉様がガナッシュに戻るという日に。

私達兄弟はハイヒットの居間に集まった。



「本当に、30歳で逝ってしまうなんて…」


私達兄弟しかいない部屋で、サー姉様がつぶやく。


「フィーはずっと向き合っていたのね。そんな素振りも見せないで」

「なにも、言われた通りに逝くことないのに…」


マリーが怒りながら言うんだ。

そのくせ、兄弟で1番泣いたくせに。


「馬鹿よ、本当に馬鹿」


そうも思ってないくせに。


ジャックは窓の外を眺めている。

弟はカナコの子供達の教育を任された。


「フィーって、どんな事も軽々とやってのけたな…」

「そうね、やりたいって思ったら、次々にやっていったわね」

「私は振り回されたんだけどね」


サー姉様が笑う。


「アンリはそれが仕事じゃないの」

「まぁ、そうだけど…」

「けど、アンリ兄様、結構楽しそうだったわよ?」

「そうか?」

「ええ、あのトリミダの事件の時だって、小まめにフィーの所に通って、フォローしてたじゃない?」

「あれは、それが逆効果だったんだから」


マリーが笑った。


「あの時は、フィーは本当に怒ってたわね」

「どのくらい?私、航海に出てて知らないのよ」

「もうね、絶対に陛下に触れさせなったみたいよ」

「あら、やるわね」


姉様も笑ってる。


「けど、結局、フィーも我慢出来なくなって、元に戻ったんだけどね。ブツブツ言ってたわ」

「なんて?」

「子供の言い訳みたいなことしか言わないって」

「まぁ、陛下を?さすが、フィーね」


私もジャックも笑った。


「とにかく、当たられた人間は大変だったんだからな。ポポロさんなんか、1ヶ月も会ってもらえなかったんだから」

「それで、老けたんじゃない?」

「まったくだよ。それに比べて、ジャックは気楽でいいなぁ」


ジャックが反論する。


「兄様、私はこれからが大変なんですよ。もう、まったく」

「そうだった、フィーの子供達を任されたもんな」

「ええ、姪達は良いとしても、問題はルイですよ」

「お世継ぎだからなぁ」

「この私が教えられる範囲を超えてると、思うでしょ?」

「ジャック?」


サー姉様がジャックの側に行って、手を握った。

ジャックが女性に触れられて大丈夫なのは、兄弟と母、姪達だけだ。

そんな事でよく学院で仕事が出来ると思うが、そこは仕事だからなんとかしてるみたいだ。


「貴方なら、大丈夫。私は知ってるわ。いつも真夜中まで本と睨めっこして、あんなに貪欲に勉強していたもの。魔量の大きさなんて、問題じゃないのよ。それに、ルイに帝王学を教えるのは陛下の仕事だしね。貴方はルイを普通に扱える数少ない人間なのよ。自信持ちなさい、いいわね?」

「姉様…」


サー姉様はやっぱり自慢の姉様だった。

私は、ジャックの目に涙が浮かんだのを見逃さなかったよ。


「けど、」


マリーが呟いた。


「親より先に死ぬのは、親不孝なのね、やっぱり…」


私達は黙り込んでしまった。

そうなんだ。

父上と母上は、ショックのあまり、寝込んでしまった。


「そうだな」

「分かっていても、辛いものなのね」

「ああ」

「姉様?」

「なに、マリー?」

「頻繁にルミナスに顔を出してね?お父様とお母様を見舞ってあげて?」

「そうね、1番心配掛けたのは私だから…」

「そうじゃなくって。もう、そんな事、言わないで!」


マリーが怒った。


「残った私達がフィーの分もお父様とお母様を大切にしないと、駄目でしょ?そうでしょ?」

「そうね、そうだったわ。マリー、ごめんなさいね」

「謝らなくて、いい」

「マリー…」


良く考えてみたら、マリーは1番私達兄弟のことを考えているのかもしれない。

それはハイヒットの家を継いだ者の責任感なんだろう。


「私達も頻繁に伺うよ、そうだろう、ジャック?」

「そうですね、顔を出します」

「そうしてね?きっとお元気になられるから…」

「ええ、マリー。約束するわ」


そうだ。

生きている私達は、やれるだけの事をしよう。

フィーの様に、一生懸命生きよう。






エリフィーヌ・カナコ・ルミナスの兄弟として恥ずかしくない様に。








9月27日で完結となります。

終っちゃいます。

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