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デュークさんが泣いていたんだ。

涙を拭う事もしないで、声も上げないで、だ。

その涙が私を落ち着かせる。


「泣いてる、の?」


私はそっとデュークさんの涙に触れた。

デュークさんはその手を握ると、指にキスをくれた。

それから優しい口調で言うんだよ。


「なぁ、カナコ、俺達はずっと一緒だろ?」


怯えた瞳が私を見つめた。


「約束したよな?」

「…、うん、約束した」

「もう、離れないでくれ。行かないでくれ…。もう、あんな思いはしたくないんだ」

「デュークさん…」


私の頬にデュークさんの手が触れた。

私は目を閉じてしまう。

触れた唇が温かい。

大きな手が私の髪をかき上げる。

キスが段々と深くなっていく。


ああ、どうしようもない。

情けないくらいに、愛しているんだ。


キスがやんだ。

こんなに近くでデュークさんの瞳を見るのは久し振りだ。


「どうして、こんなこと、するの?」

「おまえを失いたくないからだ」

「けど、裏切ったのは、デュークさんじゃない?」

「…、すまない」

「私は、やっぱりルミナスの人間じゃないのかな…」

「え?」


デュークさんから離れた。


「ルミナスの王には側室が認められている。今まではデュークさんが紳士だったから、持たないでいてくれた。けど、王妃は、私は、こんな事で乱れちゃいけない。そうでしょ?」

「俺は側室など、持つつもりはない」

「けど…、彼女を執務室へ、呼んでる、じゃないの…」

「すまない、けど、あれは本心からじゃないんだ」

「…、だって、あの女が、側室になるって、言ってたのよ?」

「側室なんか要らないんだ」


私の手を、大きな手が包み込むんだ。


「あの女とは、ルミナスでは何もしてない。執務室では何もだ」

「本当なの?」

「本当だ。俺はカナコ以外の女は要らない。だから聞いてくれ」

「私に話してくれる?本当の事をよ?」

「ああ、話すよ。だから、聞いて欲しい」


真っ直ぐな瞳。

私が愛してる赤紅の瞳だ。


「トリミダに視察に行った時だ。ポポロと共に晩餐に招かれて向った先にあの女がいた。食事の時に隣に座ってた。そして、気づいたら、俺は寝ていたんだ。そして、彼女は裸で俺の上にいた」

「上って、!」

「すまない」

「それって、罠?」

「きっと何かの薬を盛られたのは間違いない」


私も真っ直ぐに見る。


「その時だけよね?信じていいのね?」


違ってもいい。

嘘ついてくれてもいい。

間違いは1回だけって言ってほしいの。

なんか矛盾してるけど、そう思った。


「ああ、そうだ。その日の内に引き上げたからな」


そうだった、そうだよね。

夜に帰って来たのなんて初めてだった。


「本当なのね?」

「もちろんだ。もう、カナコに嘘をつく必要なんてないんだから」

「わかったわ。けど、ポポロは知ってるの?」

「知ってる…、あいつも嵌められたから」

「え!」


マジかよ!


「だから、俺達は時期を伺っていたんだ。罠を張り、あいつ等が掛かるのをすっと待ったんだ。大体、この俺が、俺を嵌めた奴等を許す筈ないだろう?」

「うん…」


そう思う。

デュークさんが怒ったら怖い事は、周りの人間は染みる位に知ってる。


「泳がせたんだ。昔ならいきなり切り捨てても大丈夫だったが、今のルミナスは変わったからな。王とて、簡単に人を殺せない」

「うん」

「だから、カナコも騙した」

「…」

「けど、俺はカナコの侍女にはしていない。俺もポポロも気づかないうちに入り込んでいたんだ」

「本当ね?」

「俺のカナコに誓って、本当だ」

「変な誓い…」


急に抱きしめられた。

心臓の音がする。

鼓動が早い…。


「こんなにも、おまえの反応が怖いのに?カナコがいなくなることが、怖いのに?」

「不安なの?」

「不安だ。カナコに嫌われても仕方ないことを、してしまった」

「デュークさん…、」


私は両手でデュークさんの体を離した。


「カナコ?」


我が侭を言う。


「けどね、今日は1人にして欲しいの」

「嫌だ」

「嫌でも、よ。大丈夫、今日だけ。お願いだから」


私は根にもつタイプなんだろうって思う。

あのキスを拒まれたことを、忘れられないんだから。


「明日は一緒にいたいから」

「…、わかった。だが、何処にも行かないと約束してくれるか?」

「うん、約束する」

「なら、いい」


デュークさんは立ち上がった。

部屋を出ようとした、デュークさんが振り返った。


「あいつらは、牢の中だ」

「捕らえたの?」

「当たり前だ。ルミナスの王妃を侮辱したんだ。許すものか。大体な、カナコ?」

「なに?」

「俺よりも城の人間達の方が怒っている」

「え?」

「隊長が誰よりも早く飛び出して、奴を縛り上げた。その後、別室に連れ出したんだ」

「どうなったの?」

「隊長達や、後からやってきた人間に散々な目に遭わされてたな…」


傍観したのか?


「見てたの?」

「見てたさ。我慢してたんだ。俺が殴れば殺していた」

「…」

「あの女も牢だ、おまえを毒殺しようとした証拠を掴んだ」

「毒殺?私を?」

「ああ、だから、奴の父を今回の舞踏会に招待したんだよ」

「そうなの…」

「安心してくれ」

「そうね、わかったわ」


ドアは静かに閉じられた。

1人のベットは広い。

けど、今はこの広いベットで寝たかったんだ。






これで、一連の騒動は終った。


この件以降、私はライゲル夫人と仲良くなった。

お互いの認識は、もっと早くに知り合うべきだった、である。






ところが、だ。

いや、当然かもしれない。


私はデュークさんを拒んでいるんだ。

側にいるのは大丈夫。

いや、いて欲しいんだ。

見えないと不安。


けどね、触られると、ビクってなる。

そうすると、デュークさんは手を止める。

どうしていいのか、わからないよ。


そうしたくてしてる訳じゃない。

そうなってしまうんだ。


よほど、ショックだったんだと思う。

だって、ポポロの顔、見たくないんだもの。







けど、今回は我が侭言っていいよね?







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