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秋の匂いがし出した頃、ザックが亡くなった。
最期はジョゼと2人っきりで過ごしたそうだ。
知らせを聞いた私達一家は葬儀に参列した。
子供達も泣いていた。
それから1週間後だ。
「カナコ様、ご参列頂きまして、ありがとうございました」
ジョゼが城を訪れている。
すっかり気落ちしているんだよ。
仕方ないよね、仲の良い2人だったもの。
子供がいない分、本当に仲が良かった。
「ジョゼ、大丈夫?ザックがいない暮らしに慣れたかしら?」
「慣れませんね。情けないです」
ジョゼが自分のためにため息をつく所なんて、初めて見た。
「そう…、そうよね、ジョゼとザックは仲が良かったもの」
それでも、静かに微笑んでくれる。
「寂しいわよね?」
「ええ。それでも、最後に2人きりで色々な所を訪れましたので、想い出は沢山あります。だから、きっと、大丈夫です」
「そうだったわね。ザックと2人で良くここで子供達にいろんな話をしてくれたわ。あの子達ったら、ジョゼとザックの話を聞いた夜はね、3人で同じベットで、ずーと話をしてたのよ。大きくなったら絶対に行こうねって言い合ってたの」
「そうなんですか?」
「そうなの。だから、毎回飛付いてきたでしょ?」
「そうでした。倒れるんじゃないかって位に勢い良く…」
「大好きなの、ジョゼとサックがね」
「勿体無い…」
ああ、泣かないでよ。
年のせいだろうか、ジョゼは涙もろくなった。
もう55になるんだものね。
すっかりお婆ちゃんになっているんだ。
あの高かった背は、段々と小さくなって来ている。
それでも、私よりは高いんだけど。
私はジョゼが落ち着くのを待った。
もう秋だな。
「これから、どうするの?」
ザックが大往生してから、1週間が過ぎた。
まだ、心が落ち着いていなだろうけど、私はあえて聞いたんだ。
「陛下にご相談しようと思ってはいるのですが、リトルホルダーの家と土地を陛下へお返ししようかと考えております」
「それって、廃爵するってこと?」
「はい。リックが亡くなり、ザックが一応は後を継いだのですが、私達には子供がおりませんでしたので、この家を残す必要もありませんから」
と、簡単に言うんだけど、大変なことだ。
ルミナスでは貴族になりたい人間はゴロゴロいる。
ザックの遠い親戚連中が、なんとか取り入ろうと色々と五月蝿いのは聞こえて来てた。
そうだよ、ジョゼとザック程に、王族に近い貴族なってそうはいない。
継いだだけで、実力者になれるって勘違いする人間は大勢いるよね。
「大変よ?」
「大丈夫です。ザックとそう決めましたから、そうします」
そうか、ジョゼは決めたんだ。
なら、私がやる事は一つだ。
「分かったわ。私に出来ることがあれば、遠慮しないでね?」
「ありがとうございます」
「取り敢えずは、私からデュークさんに伝えるから、後日に話をしましょう?」
「はい」
ジョゼを支えるんだ。
私が支えなくてどうする。
あの五月蝿い連中を黙らせて、ジョゼとザックの思うようにしてあげたい。
ジョゼの為ならば、この王妃の立場を存分に使うよ。
「ところで、家を返した後、どうするつもりなの?」
「アリが、一緒に暮らそうって言ってくれてますので、そうしようかと」
アリは店の上に住まいを持っている。
そこで、娘さんと2人暮らしなんだ。
そうそう、娘達が着たがっているチェニックとスパッツもどきは、アリの娘さんの発案なんだって。
彼女、ジェシカはアリの才能を受け継いだんだ。
若い才能を認めるのは、やはり若者だ。
あのデザインを、彼女は噛み砕いて自分のモノにして、発表した。
いまや、ジェシカが店を支えているかもしれない。
なので、アリはジョゼの面倒を心置きなく見ることができるんだ。
「それはいいわ!城とも近くなるしね?」
「そうですね…」
「きっと、娘達はアリの店へ寄った時に、ジョゼの所に押し掛けるわよ?覚悟してね?」
「姫様達が、ですか?それは待ち遠しいです」
ちょっと元気が出てきたみたいだ。
「そうよ、あの子達はジョゼの孫みたいなものなんだから、相手してあげてね?」
「はい」
涙ぐんでるんだよ。
もう、ジョゼったら…。
私もなんだけどね。
私達は随分と長い間、お喋りをした。
やっぱり、私にはジョゼが必要なんだ。
「ポポロ、お願いね?」
「はぁ…」
ポポロが返事を渋る。
「お返事が無いけど?どうかしたのかしら?」
「カナコ様、リトルホルダー家ってのはですね、魔物以前からの名家なんです。その親戚だけでもかなりの数になるんです」
「だから?」
「カナコ様、その家を陛下へお返しするなんて、前代未聞なんですよ?」
「ポポロ。いつだってポポロは私の力になってくれたわ。戸惑う私に、いつだってルミナスの左大臣なんですから、って言って、引き受けてくれたじゃない?何故、今回は嫌なの?あの親戚共が暴れるから?暴れるなら暴れさせておけばいいじゃない。ジョゼの願いを叶えてあげて?」
考え込むポポロ。
ジョゼの願いを叶えようと動き出した途端、あいつ等が文句を言ってきたんだ。
私には関係ない事だから、黙ってみてろ。
って内容を綺麗な言葉で粉飾して書状を寄越した。
意外に有名処がいたりしたもんだから、今、ルミナスの貴族の話題を独り占め中。
「陛下にお願いしたら、ポポロに任せれば問題ないって仰ったわ」
「陛下がそう仰るのならば、やりますが…、これは揉めますよ?」
「穏便に処理してね、遺恨は残さないようにね」
はぁ、とため息をついて、ちょっと困った顔で去って行った。
少し安心。
だって、あんな顔をして去って行った時は、ちゃんと仕事してくれるもの。
やっぱり、ポポロが優秀だから、デュークさんがノンビリできるんだよ。
ポポロ、ありがとうね!




