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「いたーーーーい!!」
痛いんだよ!
くそ!
あ、いけない、なんて言葉遣いだよ、まったく。
けど、それどころではなんだ。
「もう直ぐですよ。あと少し!」
「あ、もうーーーーーー!」
陣痛中なんだ。
ハイディ先生が、頑張れって感じで言ってくれる。
「頭が見えてきましたよ、妃殿下、もう少し、頑張って下さい、いいですか?」
まだかよ?まだかよ…。
もう2日も陣痛で眠れてない。
こんなに長いのは初めてだ。
「まだ?まだ?」
「もう少しです!」
「そうです、もう少しです」
エイミィも汗を拭いてくれてる。
「カナコ様!さぁ、呼吸です!」
「あ、うーーーん!」
「さ、今です!頑張って!」
「うううーーーーーーーーーんんーーーーー!」
ハイディ先生の声が一段と大きくなった。
「もう直ぐです!はい、気張って!!」
「ううーーーんーーーんーーーー!」
思いっきり気張ったよ、血管が切れても仕方ないくらいの勢いさ。
一瞬、音が止まった気がした。
その直ぐ後に、聞こえるんだ。
「おぎゃーーーーー!ぎゃーーーん!ぎゃー!おぎゃーー!!」
元気な声だ。
無事に生まれたんだ。
ハイディ先生が叫んだ。
「皇子です!男のお子様ですよ、カナコ様!」
やっと、男の子だ。
ようやく出会えたんだよ。
「あ、良かった…」
「おめでとうございます!」
「うん、エイミィ、生まれたよ…」
「良うございました…」
エイミィも泣いてくれてる。
私も泣いてた。
へその緒が切られて直ぐに湯浴みがされたらしい。
私は、真っ白なおくるみに包まれた子を見たんだ。
大きな声で泣いて、目も開いてないのに、デュークさんに似てるんだよ。
なんて可愛いんだろうか。
こんなにもデュークさんに似た子なんて、初めてだ。
きっと、凛々しい王様になるんだろうな。
「おぎゃー!おぎゃあーー!」
大きな声で泣いて、元気だ。
余りに可愛くて、私はずっと見つめていた。
いけない、デュークさんが待っているんだった。
「陛下を、呼んで?」
「畏まりました!」
ハイディ先生が直々に控え室へ向う。
「カナコ様、お乳を」
エイミィに促されて、私は産まれてきた子に母乳を与えた。
凄い勢いで飲んでくれる。
「良い子ね?今、お父様がいらっしゃるからね?」
わかったのか、大人しく飲み続けているんだ。
初乳は赤ん坊にとって必要な栄養が凝縮されているって、看護婦だった日本のお母さんが言ってた。
だから、絶対に飲ませないといけなんだって。
お母さん、元気かな…。
きっと会えるよね。
そん時は孫の話をしようっと。
ところでだ。
生まれたての子供との初対面。
この瞬間は夢のような気分になる。
だって、さっきまでお腹の中にこの子が居たんだよ?
凄く不思議なんだ。
エイミィが私の汗を拭いてくれる。
さっと魔法で小奇麗にした。
ドアが開いた。
「カナコ?」
白衣を着たデュークさんが側に来てくれる。
嬉しそうな瞳だ。
「息子だな?」
「そうよ、私たちの息子」
「息子だ。カナコ、」
キスしてくれる。
優しいんだね。
「良かったな」
「うん」
そして、もう慣れた手つきで、息子を抱いた。
父だと分かったのか、安心したのか。
息子は満足気にゲップをして、笑うんだよ。
「可愛いなぁ」
「本当ね、娘と違う可愛さだわ」
「その通りだ」
ジッと子供を見て、デュークさんが言う。
「名は決まっている」
「教えて?」
「ルイ・デューク・ルミナス」
「ルイ?」
「ああ、俺の祖父の名だ。だから、ルイ2世だ」
「素敵だわ」
そう思った。
綺麗な名前だもの、ぴったりだ。
デュークさんは、ルイをハイディ先生に渡すと、私の手を握り目線を合わせてキスしてくれる。
「ゆっくり休め?ルイのことはハイディ達に任せれば良い」
「ええ。ねぇ、娘達は寂しがってない?」
「大丈夫だ。カナコの子達だ。我慢できてる」
いいお姉様になりそうで、安心だ。
「そう、じゃ、明日、連れて来て?」
「そうする。だから今日は寝るんだ」
「うん」
産後のスリープは禁止されている。
人間が1人、お腹から出てくるんだ。
体の中が大幅に変化する。
何が起こるかわからないくらいに不安定だから、意識は私が支配しないといけないんだって。
けど、ゆっくり眠れた。
だって、2日間も陣痛と戦ったんだから。
次の日。
「おかあさま?」
「いたい?」
見舞いに来てくれた娘達は、大人しかった。
少し成長したのかな?
「大丈夫よ。もう少ししたら起きて散歩するの。一緒に歩いてくれる?」
「はーい!」
「うん!」
娘達は私のベットの上に乗って、あれやこれやと話をしてくれる。
1人では広すぎるベットだ。
娘達が乗ると丁度いい。
やっぱり寂しかったのかな?
「でね、おかあさまがいない時にね、おとうさまがね、まいばん、いっしょにねてくれたの!」
「おとうちゃまと、ねたの!」
「そう、良かったわね?」
「ほんもよんでくれたの!」
「本?」
「おとうさまの、おおかみ、こわいの!」
「こわかった!」
おいおい、本気出して演技したのか?
これも、門外不出だな。
決定…。
ドアが開いた。
「カナコ様、失礼します」
アリエッタが入って来た。
ルイが湯浴みから戻ってきたんだ。
「ルイ様が戻られました」
「私が抱くわ」
「はい」
娘達は両方から、小さいルイを見ている。
「るい?」
「そうよ。お父様が名付けたの。お姉様達、ルイと仲良く出来るかしら?」
「できる!」
「まかせて、ね?アリス?」
「うん!」
なんて、可愛いこと言うんだ。
我が子は最高だな!
「ルイの目、赤い。おとうさまとおなじだ」
「ほんとだ」
「ルイはお父様の跡を継いでルミナスの王になるのよ」
「ふーん」
アリスは分かってないようだ。
「ルイも大きくなるの?」
「そうよ。お姉様達、大きくなったらルイを助けてあげてね?」
「どうして?」
「だって、きっとルイの自慢のお姉様になるでしょ?」
「うん!」
「なる!」
「だったら、弟を助けるの。格好良いじゃない?」
「うん、いい!」
「たすけるわ!」
兄弟、仲良くだよ。
いずれは3人で生きていかないとならなくなる。
だったら、仲がいい方が楽しいに決まってる。
ハイヒットの家のようにね。
ぐっすり眠っているルイの頬っぺたは、お姉様達のオモチャになってしまっているんだ。
幸せだね。




