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157 あなざーさいど29

アンリの憂鬱。



まったく、だ。

フィーの行動は驚かせるよ。

今回のことで、私は心臓が痛くて堪らなかったんだ。

なにかあったら、フィーに責任を取ってもらいたいくらいだよ…。


陛下のいない時に、城に侵入者が3人も入り込み、姫様達を襲うとした挙句に、だ。

フィーの命まで危険になった上、まだだよ。

城目掛けて魔物の大群が押し寄せるなんてね…、もう…。


陛下に、フィーを行かせるなと厳命された私は、なんとか思い留まらせようとしたのだけれどね。

サー姉様に押し切られるとはね。

サー姉様は、信頼できるパートナーを得て、強くなった。

そのことは嬉しい、けど、家の女性はなんであんなにも無茶をやる人間ばかりなんだろうか…。




で、魔物だ。

フィーは何度も魔物征伐に出掛けているから手馴れたものだけども、なんと言っても、懐妊中なんだ。

もうね、ハラハラし通しだったよ。 


挙句に、空を飛んでいきやがった…。


空だよ?

あんな魔法は初めて見た。

後で確認したら、魔物征伐に一緒に出ている部隊のメンバーは知っていた。

征伐が終った後陛下に抱きかかえられて、10メートルは軽く浮き上がり状況を確認していたそうだ。

けれども、彼らも驚いてた。

彼等は陛下の魔法で浮かんでいたと信じていたそうだ。 


まさか、フィーの魔法だなんて、誰も思ってなかったんだよ。


あいつ…。

いくら王妃だからって、妹は妹だ。

身内はどれだけ心配したと思ってるんだ。

まったく…。




けれども、王妃としては素晴らしい方だ。

真っ先に現場の兵士達の安全を優先した。

自らが先頭に立ち、魔物のトドメを怯むことなく刺した。

その場にいた兵達が、そのお姿に感動して、我先にと魔物に向っていったんだ。

いくらこちらが3000で、魔物が1500だからと言って、一つ油断すれば負けることもある。

それが、ルミナスの勇敢な兵達は、魔法を使える者も使えない者も、果敢に立ち向かったんだ。

みんな、王妃に刺激されてだ。


ルミナスは良い王と王妃に恵まれた。

私は誇りに思うんだ。

エリフィーヌ・カナコ・ルミナスの兄と名乗れることを。





さて、フィーが当然のように安静をハイディ先生に厳命されて養生していた頃。

城は、魔物の処理と、あの3人の対処に追われていた。

魔物が現れた付近にはもう1人の男がいた。

その彼はポポロさんが対応し、残りの3人は私が対応した。


事前にサー姉様とダグラスさんから情報を聞いていた。

なので、用心して男3人は別々の牢に収監していた。

3人の話を聞いていく内に、私が長い間胸に持っていた違和感が消えていくの感じた。

なんで、この可能性に気づかなかったんだろうか。



3人の話を総合すると、こうだ。


ヤッポネで政敵に追われたワン一行は、船に乗って大陸を追われた。

そして辿り着いたのが、ガナッシュの外れ。

ドリエール親子のいた屋敷だそうだ。


まず最初にケインという少年が娘と出会った。

似たような年頃でもあったので意気投合したというか、ケインが娘の境遇に同情したらしい。

そこで、ワンに相談した。

ワンは屋敷をそのまま手に入れる事を望んで、実行した。

ヒョイに毒薬を作らせて、娘に渡したんだ。

娘達が住んでいた屋敷の庭は薬草の宝庫で、どんな薬も作ることが出来たらしい。


娘は、戸惑いながらも母の食事に毒を盛った。

生まれてから、ずっと、愛された記憶が無かった娘は、罵られて愚痴のはけ口になって叩かれているのが嫌だったらしい。

ドリエール殿は盲目で片腕だったし、食事は娘に食べさせてもらっていたから、簡単だったんだろう。


そして、そこからがワンの悪巧みが始まった。

まず、ガナッシュの王宛に、娘に手紙を書かせた。

単なる食中毒で死亡した母を悼んでいる、そう、お涙頂戴の手紙をだ。

しかしそれが、王の心を揺さぶった。

きっと懺悔の気持ちもあったんだろう、一時金としてのかなりの大金を手に入れたそうだ。


そんな時に、あのモンクが刑期を終えて、ガナッシュに現れたそうだ。

ルミナスを見返してやりたいと、あの娘を利用するためにだ。

もう一度、魔物を集めてルミナスを襲わせる。

その話は、簡単で実現しそうに聞こえたんだろう。

ワンは快く受け入れる振りをして、罠に嵌めた。

ヒョイの作った媚薬を使ってだ。

その話の先は、おぞましいものになったので、簡単にするけれども、媚薬を飲まされたモンクと従者はヒョイによって弄ばれてボロボロにされたらしい。

男にやられて正気を失っていくなんて、凄い話だ。


ルミナスを乗っ取るという野望はモンクからワンに移った。

けど、短期間で充分ではない資金で動いた為に、バンビーではポポロさんを不審がらせてしまったんだ。

かなり、短絡的な犯行だったからな、あれは。

予定に無かった陛下のバンビー入りに焦った彼等は、足手まといになったモンク達を殺して、町の外れに放置した。


そうして、それぞれにルミナス城下を目指したのだ。

ワンはケインと娘をつれて、城内に侵入するために。

ヒョイは、そのタイミングを見計らって用意した魔物をルミナスに放つ為に。




大まかな事件の概要だ。

ワンとヒョイ主導の元での犯罪、その結論で間違いないと議会も認めた。





私は陛下に報告している。


「陛下はドリエール殿の娘を、覚えておいでですか?」

「覚えている。会ったのは僅かだったがな」

「如何致しましょうか?」

「そうだな、とにかく、その娘に会おう」

「陛下がですか?」

「ああ、その方がいいだろう」

「畏まりました」


珍しいことだ、陛下が自ら囚人に会うなど。



牢の搭に陛下が入る。

右の搭は男性が、左の搭は女性が入っている。


女性の搭の2階奥。

壁などはなく、鉄の格子が廊下と牢を阻むように存在してる。


「こちらです」


看守が抑揚もなく、少女に告げた。


「陛下がお越しになりましたよ」


ベットに腰掛けていた少女が、こちらを向いた。


「久し振りだな、カリーナ」

「私の名前、知ってたの?」

「おまえの母から聞いた」

「母なんていなければ良かったのに…。そしたら私、生まれてこなくても良かったの…」


ガナッシュに送り返した時には、存在すら気にも留められてなかった子供だ。

その彼女が、事件の関わっていたなど思いもよらなかった。

カリーナと呼ばれた少女は、藍鼠色の瞳を伏せる。


「ルミナスも嫌い。私を追い出したから」

「だから、お前の母を殺し、異母兄弟を殺す奴等と一緒に暮らして、私の娘達に危害を加えたのか?」

「…、私だけ不幸なら、みんなと一緒に死にたかっただけ」

「愚かだな…」


陛下は少女に背を向けた。

無言だった。


「待って!」

「なんだ?」


振り返ることも無く、少女の声に答える。

陛下の声は物凄く不機嫌であった。


「ケインは?生きてるの?」

「大陸から来た少年か?」

「そうよ、無事なの?」

「無事ではないが、生きている」


王は、彼女を見ることなく、そのまま歩き出した。


「お願い!ケインは助けてあげて!私の望みを叶えてくれてただけなの、ケインを助けて!」


彼女は犠牲者なのだろうか?

私は違うと思う。

ガナッシュを出てバンビーに向った時点で、彼女も彼等の一員だ。



前を歩く王がつぶやいた。


「俺は弱い人間だ」

「陛下?」

「俺の弱さが、あの娘を不幸にしたのかも知れないな」

「…」


私達は搭を出た。

塔の外の明るさが、嬉しい。

空は青く、雲が白い。

風が清々しく私達を清めてくれるように感じる。


「アンリ?」

「はい」

「あの娘と少年の裁きはしばらく保留だ」

「は、畏まりました」


それ以上は何も語らずに、私達は城に戻っていった。

無言で歩き続けたんだ。






もう直ぐ夏だ。

事件のことなど忘れたかのように、蝉が五月蝿く鳴いている。







誤字発見です、訂正しました。

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