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視察を終えて、城に戻る。
5日振りの城だ。
娘達に会うのが待ち遠しい。
「じゃ、な…」
なんだか悲痛な表情をしてる最愛の夫。
娘たちに会う前に、執務室に顔を出さないといけない用事があるんだよ。
「ちゃんと、待ってるように言うから、ね?」
「頼んだぞ?」
我が家では、お土産は父親が渡すことになっている。
そこは絶対に譲らないんだ。
もう、ね、どっちが子供なんだって話だ。
「わかってるわ」
「早く行くから」
「ええ」
寂しそうな後ろ姿を見送る。
けどね、執務室が近づくと、王様になるんだ。
いつもの事ながら、凄いと思うよ。
さてさて。
私は城の側にある王宮へと向う。
私達の結婚の際に立てた建物だ。
あの時は大げさなと思ったけど、今は城の奥にあるからプライベートがはっきりして良かったと思うんだ。
やっぱりデュークさんのやる事は間違いないね。
扉が開いた。
「王妃殿下のお戻りです!」
侍従の声が響いた。
「おかあさま!」
「おかえりなしゃい!」
娘達が走ってくる。
そして、2人して飛びついて来るんだ。
「ただいま、いい子にしてた?」
「うん!ね、アリス?」
「うん、してた!」
元気な声。
久々に嗅ぐ娘たちの匂いは、気持ちを元気にしてくれる。
ギュウっと抱きしめられると、堪らないなぁ。
「おみあげ、は?」
私を見上げたアリスが、舌足らずの言葉でいうんだ。
可愛いなぁ。
「後で、お父様が持ってきてくれるからね。待ってて?」
「おと-ちゃま、くるの、いつ?」
「えー、はやく、みたいのに!」
セーラが不満そうだ。
そりゃ、早くお土産が欲しいだろうけど、そこはお父様を待ってあげてよね。
「お父様はお仕事で遅れてるのよ。セーラは待てるわよね?」
「う、うん…」
凄く渋々な顔する。
仕方ないなぁ。
「では、お母様が頂いたお菓子を、いい子で留守番してくれてた2人にあげましょう。どう?」
「うん!」
「ほしい!」
さすが、私の娘だ。
食べ物には弱い。
「じゃ、居間へ行きましょう?」
私はエイミィにお菓子を渡すと、娘達に両腕を引っ張られて居間へ向う。
「あのね、いい子でいたのよ?」
「うん、いたの!」
お菓子を待つ間、娘達のお喋りを聞く。
話したくて堪らないのか、2人で競うように喋るんだ。
5日も留守にしたんだもの、寂しかっただろうな。
王女に生まれた運命とはいえ、すまない気持ちがいつもあるんだ。
エイミィがそのお菓子と飲み物を持って、居間に来た。
ナッツの入ったケーキが、子供達も食べやすいように切られている。
お菓子を見る2人の瞳が輝いた。
私と同じ紫紺の瞳。
愛らしい。
「さぁ、召し上がれ」
「はい!」
「はい!」
フォークで上手に、優雅に食べてる。
小さな頬を動かして、美味しそうに食べている。
食事の躾だけは、しっかりとしている。
これからも、人前で食べる機会は多くなる。
姫は美しく食事をしなければ、いけないって思うんだよ。
「おかあさま、おいしい!」
「おいし!」
そうだろう、そうだろう。
与えられたケーキを食べ終わって、お茶を飲んでお喋りの続きを聞いた。
そこへ、仕事を終えたデュークさんが入って来た。
「おとーちゃま!」
「ねぇ、だっこ!」
2人とも、走ってデュークさんの元に行く。
代わる代わるに、抱きかかえて、ただいまのキスを頬にしてる。
見ているだけで幸せな光景だ。
「いい子にしてたな?」
「うん!」
「してた!」
「よし。じゃな、父が2人にお土産をあげよう」
そう言って、紙袋から、例のスプーンとフォークを取り出した。
「ほら、いつものは口に入れたら冷たいだろう?これなら大丈夫だぞ?」
「ほんと?」
「ああ、それに、見てみろ?こっちはセーラ、こっちはアリス。ちゃんと名前も書いてある」
「ほんとに?」
まだ、2人とも字は読めてない。
けど、なんとなく形で判断してるみたいだ。
「ほんとだ!セーラのだ!こっちは、アリスのでしょ?」
「そうだ、セーラは利口だな?」
「うん!」
「アリスの?」
「そうよ、こっちはアリスの」
いきなり口に入れるのはアリス。
「ちゅめたくない…」
うんうん、良かったね。
続いてセーラも口の中へ。
「うん!」
アリスは紙袋から、残りを取り出した。
「これ?」
「それは、父と母のだぞ。皆でお揃いだ」
「みんな、おなじ?」
「そうよ、同じよ」
アリスは私たちにも口に入れろと持ってくる。
「どれ…」
と、大きいスプーンを、デュークさんが口に入れて私を見た。
か、可愛い…。
「おかーちゃまも!」
私も真似した。
「いっしょ!」
私達は笑った。
4人でスプーンを口に入れて、笑った。
スプーンとフォークで、笑顔が溢れる。
私達家族はこんなにも幸せだ。
ドアがノックされて、ジョゼが入って来た。
「賑やかですね」
「ああ、見てくれ?いいか、みんな?」
私達は4人でスプーンを口に入れて、一斉にジョゼの方を向いたんだ。
「ま、まぁ!」
ジョゼったら、驚いた後で、笑ってから泣くんだ。
「ジョゼ!泣かないでよ?」
「カナコ様…」
「笑って?ね?」
娘達も、ジョゼの周りに駆けつけて、涙を拭こうとしてる。
「大丈夫ですよ…」
デュークさんが私の肩を軽く叩いて合図した。
「さぁ、セーラ、アリス。父と一緒に庭に行こう。実はな、もう一つお土産があるんだぞ?」
「おとうさま、ほんと?」
「おみあげ?」
「ああ、さあ、おいで」
デュークさんが、アリスを抱き上げて、セーラの手を引いて、庭に向う。
私とジョゼを2人きりにしてくれるんだ。
優しいんだよ、ルミナスの王は。




