表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/192

140

久々に、叫んだ。

ふざけんな!って、心の中で…。




デュークさんは窓辺に立って、窓の外を見ている。

私から逃げてるんだ。


視察先の宿の部屋。

私は、手紙を読み終わって、ショックを受けてる。

こうなることがわかっていて、デュークさんはこの手紙を私によこした。


それは、ジョゼからの手紙だ。

ジョゼが辞めるって手紙を寄越したんだ。

手紙だよ?

なんだよ、ジョゼ?

私達は、そんな、余所余所しい関係だったの?

そうじゃないでしょ?

私を見つけて、ズッと側にいてくれて、見守ってくれて、ずっと、ずっと…。

家族じゃない?違う?辞めるとか、そんな関係じゃない。

そうだよね?


私のすすり泣く声に、ようやくデュークさんが私を見つめる。


「カナコ、大丈夫か?」

「デュ、-ク、さん…、ジョゼが、ね、辞めるって、そんなこと、手紙でだよ?ね、手紙でいうんだよ?」


私の涙は流れっぱなしだ。

側まで来て抱きしめてくれた。


「ねぇ、ね!」

 

デュークさんが、無言で、ちょっと強い力で…。


「どうして?なんでなの?なんで、ジョゼは辞めたいの?私が嫌いになったの?」


それでも、黙ったままなんだ。

私は好きなだけデュークさんの胸で泣いた。

かなりの時間が過ぎた。


ここは、視察先だ。

そして、どうして今日1日の予定がないのか、今わかった。

みんな、知ってたんだ。

隠したんだ…。



ふん…。



どうして、とは聞かない。

だって、ジョゼに直接言われたら、気絶したかもしれないもの。

ジョゼがいない城なんて、想像ができない。

ジョゼがいないと、生活する自信がないんだよ。


「ジョゼ、どうして辞めたいのかな…」

「ジョゼにはジョゼの考えがある。俺たちに出来る事は、一つだぞ?」

「嫌だ。ジョゼがいなかったら、生活できない」

「カナコ、」


デュークさんの赤紅の瞳が、私を見る。

私から離れると、テーブルに置いてあった手紙を手にして、こう言った。


「これも。読んでみろ」


渡された手紙は、ザックからのものだった。

そこには、ザックの苦悩が綴られていた。


あの事件を引き起こしたのは自分で、その責任をどう取ればいいのかわからない、って。


私は知らなかった。

あの事件が、姉様の行いが、こんなにも、ザックを苦しめていたなんて。

ため息が出てしまった。


「なんてこと…」

「俺たちは、ザックとジョゼを解放してやらねばならない、違うか?」

「…」


私は答えなかった。

答えたくなかったから。


「カナコ?わかっているんだろう?」


デュークさんの問いは優しかった。

甘えてみる。


「デュークさん、わからない振りをしたいの、駄目?」

「駄目だ」


優しいくせに、即答で否定するなんて…、なんだよ…。

私はデュークさんから離れて、泣き顔を魔法で消した。


「ジョゼがいないなんて、考えられないの…」

「直ぐにいなくなる訳じゃない、それに、会えなくなる訳でもない」

「そこは、わかってる」

「アリエッタもエイミィも、頑張っている」

「知ってる。彼女達は頑張ってるもの」

「なら、受け入れろ」


我が侭を言う。

わかっているんだよ、我が侭だって。


「いやだ」

「カナコ」


またデュークさんの胸に顔を埋めた。

私の髪を撫でながら、言葉を続ける。


「おまえはジョゼを縛って、どうしたいんだ?自由になりたいと望んでる者を、おまえに縛り付けて、満足なのか?」

「違う、そうじゃない…」


その手が肩を抱いてくれる。


「そうじゃないの…」


私はデュークさんを見上げた。


「わかった。今日だけだ。我がままを言っても良いのは今日だけだ。その代わり、明日になったら、受け入れろ。いいな?」


言葉はキツイけれど、顔は優しいんだ。


「デュークさん!」


私はデュークさんの首にしがみ付いて、また、泣いたんだ。

いいんだよ、今日は予定がないんだ。


このために、予定がないんだからね。


小一時間、文句を言い続けた。

デュークさんは、時々相槌を打って聞いてくれていた。


それで、私は落ち着つけた。


「もう、いい…」

「うん?」

「ジョゼのしたいように、してあげたい」


頭を撫でてくれた。


「いい子だな?」


なんて優しく見つめてくれるんだろう…。

また、惚れ直すじゃないか…。


とにかく、だ。


子供達がいない所で、聞いて良かった。

こんな所を見られたら、あのセーラが何をどこで言うかわからないもの。

おませなお姉様の口は、怖いんだよ。

一体、誰に似たんだろうか…。

私は、マリ姉ちゃんだと信じてるんだけど、マリ姉ちゃんには言ってないよ。

言ったら、怖いもん。


まぁ、聞いたほうも、惚気としか受け取らないだろうから、いいか。


「今日はお休みだよね?」

「ああ、そうだ」

「じゃ、もっと、泣いていい?」

「いいぞ」


温かい手だな…。


「ありがとう、けど、もう、泣けないや」


きっと、ジョゼは考えたんだ。

どうしたら私が冷静になって、この話を考えられるかを。

だから、この方法を選んだ。

ジョゼのすることに間違いはない。


私は、気持ちを切り替えることにする。

いつまでも引き摺る事をしない、と決めているから。


「ジョゼとザックは、旅でもするのかな?」

「そうかもしれないな。ジョゼはずっと俺たちに付いてくれたから、自由な旅など無理だったからな」

「そうだね、きっと喜ぶよね?」

「もちろんだろう、ザックと一緒なんだ。楽しいだろう」

「いいなぁ、」

「どうした?」


デュークさんの目を見て、ちょっと禁止が入った感じで言ってみる。


「私だって、一度でいいから、デュークさんとデートがしたい」

「デート?なんだ、それは?」

「うん、えーっと、2人で街をブラブラ歩いて、一緒にお買い物したり、ご飯食べたり…するんだよ。そう、セーラとアリスへのお土産を一緒に選んで、買ったりするの」

「それが、デートか?」

「そうだよ、一度もないでしょ?」

「そうか、今から行くか?」


えええ?


「いいの?」

「少しの警護は付けるが、問題ない」

「行こう!娘たちのお土産、買いに行きたい!」


最初の落ち込みは何処へやら。

すっかり盛り上がったんだ。







さすが、最愛の夫は妻の操縦法を知っていらっしゃる。









明日から4日間に掛けて、この話とは別に、リリフィーヌの物語を連載開始します。

お昼から区切りのいいところで時間をずらして更新していきます。


ぜひお読み下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ