140
久々に、叫んだ。
ふざけんな!って、心の中で…。
デュークさんは窓辺に立って、窓の外を見ている。
私から逃げてるんだ。
視察先の宿の部屋。
私は、手紙を読み終わって、ショックを受けてる。
こうなることがわかっていて、デュークさんはこの手紙を私によこした。
それは、ジョゼからの手紙だ。
ジョゼが辞めるって手紙を寄越したんだ。
手紙だよ?
なんだよ、ジョゼ?
私達は、そんな、余所余所しい関係だったの?
そうじゃないでしょ?
私を見つけて、ズッと側にいてくれて、見守ってくれて、ずっと、ずっと…。
家族じゃない?違う?辞めるとか、そんな関係じゃない。
そうだよね?
私のすすり泣く声に、ようやくデュークさんが私を見つめる。
「カナコ、大丈夫か?」
「デュ、-ク、さん…、ジョゼが、ね、辞めるって、そんなこと、手紙でだよ?ね、手紙でいうんだよ?」
私の涙は流れっぱなしだ。
側まで来て抱きしめてくれた。
「ねぇ、ね!」
デュークさんが、無言で、ちょっと強い力で…。
「どうして?なんでなの?なんで、ジョゼは辞めたいの?私が嫌いになったの?」
それでも、黙ったままなんだ。
私は好きなだけデュークさんの胸で泣いた。
かなりの時間が過ぎた。
ここは、視察先だ。
そして、どうして今日1日の予定がないのか、今わかった。
みんな、知ってたんだ。
隠したんだ…。
ふん…。
どうして、とは聞かない。
だって、ジョゼに直接言われたら、気絶したかもしれないもの。
ジョゼがいない城なんて、想像ができない。
ジョゼがいないと、生活する自信がないんだよ。
「ジョゼ、どうして辞めたいのかな…」
「ジョゼにはジョゼの考えがある。俺たちに出来る事は、一つだぞ?」
「嫌だ。ジョゼがいなかったら、生活できない」
「カナコ、」
デュークさんの赤紅の瞳が、私を見る。
私から離れると、テーブルに置いてあった手紙を手にして、こう言った。
「これも。読んでみろ」
渡された手紙は、ザックからのものだった。
そこには、ザックの苦悩が綴られていた。
あの事件を引き起こしたのは自分で、その責任をどう取ればいいのかわからない、って。
私は知らなかった。
あの事件が、姉様の行いが、こんなにも、ザックを苦しめていたなんて。
ため息が出てしまった。
「なんてこと…」
「俺たちは、ザックとジョゼを解放してやらねばならない、違うか?」
「…」
私は答えなかった。
答えたくなかったから。
「カナコ?わかっているんだろう?」
デュークさんの問いは優しかった。
甘えてみる。
「デュークさん、わからない振りをしたいの、駄目?」
「駄目だ」
優しいくせに、即答で否定するなんて…、なんだよ…。
私はデュークさんから離れて、泣き顔を魔法で消した。
「ジョゼがいないなんて、考えられないの…」
「直ぐにいなくなる訳じゃない、それに、会えなくなる訳でもない」
「そこは、わかってる」
「アリエッタもエイミィも、頑張っている」
「知ってる。彼女達は頑張ってるもの」
「なら、受け入れろ」
我が侭を言う。
わかっているんだよ、我が侭だって。
「いやだ」
「カナコ」
またデュークさんの胸に顔を埋めた。
私の髪を撫でながら、言葉を続ける。
「おまえはジョゼを縛って、どうしたいんだ?自由になりたいと望んでる者を、おまえに縛り付けて、満足なのか?」
「違う、そうじゃない…」
その手が肩を抱いてくれる。
「そうじゃないの…」
私はデュークさんを見上げた。
「わかった。今日だけだ。我がままを言っても良いのは今日だけだ。その代わり、明日になったら、受け入れろ。いいな?」
言葉はキツイけれど、顔は優しいんだ。
「デュークさん!」
私はデュークさんの首にしがみ付いて、また、泣いたんだ。
いいんだよ、今日は予定がないんだ。
このために、予定がないんだからね。
小一時間、文句を言い続けた。
デュークさんは、時々相槌を打って聞いてくれていた。
それで、私は落ち着つけた。
「もう、いい…」
「うん?」
「ジョゼのしたいように、してあげたい」
頭を撫でてくれた。
「いい子だな?」
なんて優しく見つめてくれるんだろう…。
また、惚れ直すじゃないか…。
とにかく、だ。
子供達がいない所で、聞いて良かった。
こんな所を見られたら、あのセーラが何をどこで言うかわからないもの。
おませなお姉様の口は、怖いんだよ。
一体、誰に似たんだろうか…。
私は、マリ姉ちゃんだと信じてるんだけど、マリ姉ちゃんには言ってないよ。
言ったら、怖いもん。
まぁ、聞いたほうも、惚気としか受け取らないだろうから、いいか。
「今日はお休みだよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃ、もっと、泣いていい?」
「いいぞ」
温かい手だな…。
「ありがとう、けど、もう、泣けないや」
きっと、ジョゼは考えたんだ。
どうしたら私が冷静になって、この話を考えられるかを。
だから、この方法を選んだ。
ジョゼのすることに間違いはない。
私は、気持ちを切り替えることにする。
いつまでも引き摺る事をしない、と決めているから。
「ジョゼとザックは、旅でもするのかな?」
「そうかもしれないな。ジョゼはずっと俺たちに付いてくれたから、自由な旅など無理だったからな」
「そうだね、きっと喜ぶよね?」
「もちろんだろう、ザックと一緒なんだ。楽しいだろう」
「いいなぁ、」
「どうした?」
デュークさんの目を見て、ちょっと禁止が入った感じで言ってみる。
「私だって、一度でいいから、デュークさんとデートがしたい」
「デート?なんだ、それは?」
「うん、えーっと、2人で街をブラブラ歩いて、一緒にお買い物したり、ご飯食べたり…するんだよ。そう、セーラとアリスへのお土産を一緒に選んで、買ったりするの」
「それが、デートか?」
「そうだよ、一度もないでしょ?」
「そうか、今から行くか?」
えええ?
「いいの?」
「少しの警護は付けるが、問題ない」
「行こう!娘たちのお土産、買いに行きたい!」
最初の落ち込みは何処へやら。
すっかり盛り上がったんだ。
さすが、最愛の夫は妻の操縦法を知っていらっしゃる。
明日から4日間に掛けて、この話とは別に、リリフィーヌの物語を連載開始します。
お昼から区切りのいいところで時間をずらして更新していきます。
ぜひお読み下さい。




