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カフェ・マリーは予定より3週間遅れて開店した。
それは、サー姉様の判決が出た2週間後だった。
開店をもうしばらく見送ることも出来たけど、今までに掛かった費用や仕入れた食材の期限、それに人件費など、諸々のことを考えると、それが限界の日程だった。
あれだけ衝撃的な事件も、目の前で見ることのなかった人たちには伝わることも無かった。
テレビやネットがないからだろうな。
新聞だって、5日に1回だし、国の発行だから情報は限られている。
だから、事件の影響は、少なかった。
それを喜んではいないけど、安堵はしてる。
けれども!
私は、せっかくの開店を、城の中で祝っている。
ここに、マリ姉ちゃんが全メニューを届けてくれた。
いつも使っているテーブルだけでは乗り切らない。
ってか、居間だけじゃ無理!
だから、晩餐会に使う会場に並べてもらった。
なんか寂しい。
それにだ、物理的な問題から熱々なものはない。
自分で暖めて直している。
なんか、切ない。
そして、今日、デュークさんがいない。
何とかっていう土地に視察に出かけた。
連れて行ってくれなかった。
ジョゼもまだ自宅療養中だ。
なんか、つまんない。
私には友達が少ないんだ。
痛感するな…。けど、今から作るのもどうかと思う。
こんな時には、テッドと試作について話し合うんだけど、そのテッドは、今、カフェ・マリーに取られてしまってるし。
爺のところか?
そうだ。マサもいる。
久し振りに、マサと語ろう。
これ食べたら、爺のところへ行こう。
って、食べ切れませんよ。
味見程度で残りは、みんなに食べてもらうことにする。
気に入ったら、カフェ・マリーに行って、食べてね。
お手頃なお値段のはずよ?
私は王宮で働いている侍女たちをここに招待した。
「いいのですか?」
「もちろんよ。私1人では食べきれない量だし。それに、気に入ったら行ってくれると、姉も喜ぶから」
「エリフィーヌ様、ありがとうございます!実はみんなも気になっていて、だって、お肌にいいんですよね、トーフって?」
「え、そうよ」
「エリフィーヌ様がお美しい秘訣はトーフだって、みんなで噂してたんです。ね?」
「「「「「そうなんです!」」」」」
「じゃ、是非に召し上がってね」
「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」
侍女たちは大喜びで料理を食べてくれてる。
良かった。
次は爺だな。
電話で隊長を呼ぶ。
「カナコ様?」
「爺の小屋に行くの。付き合ってくれる?」
「もちろんです」
隊長と城の後ろに作ってもらった爺の小屋へ向う。
向う途中、喋りながら進む。
「ジョゼさんですが、お元気そうでした」
「ほんと?お見舞いにもいけないなんて、不義理よね、私…」
「仕方ありません、陛下が外出するな、と仰るのですから」
「まったく、…、でも、言い分も、もっともだから」
あの事件の時、私は魔力が尽きてしまい、眠ってしまった。
隊長はサー姉様を取り押さえるのが精一杯で、カフェ・マリーから飛び出してきた給仕の男性達が、救護用の馬車で私を城まで運んだそうだ。
ただ、運悪く、デュークさんにその姿を見られてしまい、当分、外出禁止となってしまったんだ。
不可抗力だよね?
だって、彼等はカフェ・マリーで働いている従業員な訳で。
そりゃ、いい男だけど、いいじゃん、私だってたまに、デュークさん以外のいい男を眺めたかったんだから。
以下、その時のやり取りです。
「いいか、カナコ。おまえが他の男に抱きかかえられて、城に戻ったんだぞ?許せるか?」
「けど、それは、緊急事態だったから。彼等だって、心配して、城まで連れて来てくれた訳だし…」
「それは、わかっている。だから、あいつ等には、なんの罰も与えてない」
「当然だよ、彼等は助けてくれたんだから!」
「…、気を失ってるおまえを抱いてたんだぞ?抵抗もしないおまえをだぞ?」
「そりゃ…」
「何かあったら、どうする?今回はたまたまだ。そうでなくても、目的はカナコだったんだ。これ以上俺を心配させないでくれ」
「けど…」
「いいか、当分は外出禁止だ」
「え~~!だって、カフェ・マリーが開店するんだよ?行きたいよ?」
「目的は料理だけだろ?マリーに運ばせるから」
「え、いや、その…」
「他に目的があるのか?」
「う、うん、店の雰囲気を味わいたいの!」
「駄目だ」
「え~~!どうして?」
「おまえ、えらく給仕の奴等と仲がいいな?」
「ふ、普通だよ?」
「あいつ等がいるから、行きたいのか?」
「違う!」
「じゃ、なんだ?正直に言え」
「…、見てたいの。黒服の彼等が給仕する姿を。そんでもって、給仕される女の子達の幸せそうな顔が見たいの。なんか、こっちまで幸せになるでしょ?だって、女の子の夢を詰め込んだ店なんだよ?そこにいたいの!」
「…、カナコ?」
「店の隅っこで、見ていたいだけなの。駄目?」
「その仕草でも、駄目だ」
「つまんない!」
「だけど、少し安心した」
「え?」
「いや、なんでもない。とにかく、俺は行かなくてはならないんだ。俺がいない間は外出禁止だ」
「じあ、一緒に行く」
「それも駄目だ。今回は連れて行けるような場所じゃない」
「地下だから?」
「それもあるが、過激な部族なんだ。交渉が決裂したときが不安だからな」
「わかった、けど、」
「なんだ?」
「濃銀になったら、すぐに、真っ直ぐ帰ってきてくれる?」
「もちろんだ」
「絶対に、約束よ?」
「ああ、だから、おまえも、約束だ」
「わかった。城の中だけで我慢する」
そう言って、お約束のように、キスしてくれました。
それで収まる私って、やっぱりデュークさんに惚れているんだわ…。
以上、のやり取りを踏まえての、隊長との会話でした。
しかし、ジョゼの見舞いにも行けてないんだよ?
いくらなんでも、酷い話だ。
「彼女が、感謝を伝えて欲しいと言ってました」
「良かった、気に入ってもらえたのかしら?」
行けない代わりに、お見舞いの品を送った。
上質なシルクの寝巻きや、肌触りの良い寝具、体の痛みに効くハーブオイル。
その他にも、なんやかんやと。
「ええ。とっても喜んでいました」
「なら、安心」
早く、良くなって欲しい。
でないと、毎日が困る。




