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試食会の日。

この日は、40名ほどが集まる予定。






もう既に人が入っている。

天気も良くて、外のテーブル席が人気みたい。

もちろん、日焼けは乙女の大敵だから、当然のように、日よけのテントが張られているよ。


さぁ、若くてイケメンの給仕のみんな!

頑張るんだぞ!

君たちの、その仕草に掛かっているんだからな?


あれ?当初の目的からずれている気がする…。

いや、料理は全て豆腐を使っているから、ずれてはいないぞ。

うん、ずれてなんかいない。

気のせいだよ、うん、気のせい。



しかし、えらく盛況だ。

なんだ?この賑わいは?

ちょっと?

店に人が入れない位に押し寄せてる…? 

まてよ?

人多くない?


「エリフィーヌ様、お目にかかれて光栄です」

「ぜひ、今度、我が屋敷のパーティにお越しくださいませんか?」

「いえいえ、我が家のパーティにぜひ!」


次々に声が掛かる。

それも、知らない人間ばかりだ。

向こうはなんで、私のこと知ってるんだろう?

やっぱり、立場のせいかな…。


「皆様、お誘いありがとう。けれども、陛下にお伺いしないと、お答えできませんわ」


この繰り返しだ。


しかし、試食会だろ?

身内しかいない筈じゃないのかぁ?

この騒ぎはなんだ?


おーい!姉ちゃん!話が違うぞ?

人ごみを分けて、マリ姉ちゃんに辿り着く。


「マリ姉ちゃん、なんか、人多くない?」

「そうなのよ、変だから、カルロスが調べてる」


私達を前面に出したものだから、変なのが紛れ込んでいるのか?

弱ったよ。 


「フィー様、マリー、ちょっと」


カルロス義兄様が私達を呼んだ。

関係者だけが入れる部屋に移動した。


「どうやら、招待状が偽造されています。ちょっと、状況が状況なので、フィー様はお戻りいただいた方が、いいかと思います」

「偽造って、なんでかしら?」

「わかりません。が、フィー様、早目にお戻り下さい」


カルロス義兄様の目が真剣だ。

何かあったらと心配してくれているんだ。

我が儘なんか言えない。


「ええ、わかったわ。ジョゼを呼んで」


ジョゼが部屋に現れる。


「カナコ様、どうしました?」

「この試食会の招待状が偽造されているの。招待されてない人達が沢山店にいるから、カルロス義兄様が、城に戻った方がいいって」

「そうでしたか…」


ジョゼの視線にカルロス義兄様が頷いた。


「なら、直ぐに城に戻った方がいいですね?」

「うん。隊長は?」

「表に」

「わかった。そうだ、マリ姉ちゃん、一緒に城に行かない?」

「私は責任者だから行かないわ。カルロスもいるし、ね、そうでしょう?」


カルロス義兄様は愛しそうな瞳でマリ姉ちゃんを見つめる。


「本当はフィー様と一緒に避難してもらいたいんだけど、マリーは私と一緒がいいかい?」

「ええ、一緒に」

「わかったよ。じゃ、私の側から離れないでくれるか?」

「はい」


ご馳走様です。

じゃ、私達は帰るよ。


「また後でね」

「ええ、気をつけて」


私とジョゼは店を出た。

隊長がそこから合流した。


「しかし、偽造って、不思議ですね?」

「そうよね?試食会よ?しかも、トーフのよ?いきなり人気がある、はず、あ!」

「どうしました?」


10メートル程先に、立っている人がいる。

サー姉様だ!


「サー姉様!姉様!動かないで!」


私は走り出した。

サー姉様は動かない。待っているの?

半分まできたとき、だ。


え?


私の横を通り過ぎたお姉様の魔法が、ジョゼに当たる…。


「わぁ、ごぉ…」


そう言ってジョゼが倒れた。


「え??ジョゼ?ジョゼ!!」


私は振り返り、倒れたジョゼを見た。

なんで?なに?


「サー姉様、なんで?」


姉様は、微動だにしない。


「カナコ様、ジョゼさんを!」

「わかった!」


隊長がサー姉様を捕らえにいく。

私はジョゼの側に行って、抱きかかえて魔法を掛ける。

血が、血が流れていく…。


「治って!」


こんな大掛かりな回復魔法を掛けるのは初めてだ。

ああ、もっと、勉強しておけば良かった。

魔量が沢山あったって、センスがなければ、回復が遅れるんだよ!


「ジョゼ!治すから、治すからね!」


ジョゼの口から血が流れてる。

私は治療に、今まででない程の魔量を込めた。

こんなに魔量を込めたんだよ、センスが無くったって、ジョゼは治るよね?

ううん、お願い、治ってよ!


「血、止まって!止まってよ!」


その時だ。

私は凄い力で、腕を捕まれた。


「え?」


誰?とみれば、あ、まさか…。


「私と一緒に来るんだ!来い!」


あいつだ。

丘の上の屋敷で、何食わぬ顔をして、私を値踏みして行った、あの、いやらしい男がいた。


「嫌よ!」


私は、瞬間に反応した。

掴まれた腕を利用して、背負い投げを食らわした。

火事場の馬鹿力が出る。

地面に打ち付けてやった。


「うぅ!」


そう呻って、地面に転がっている。


私をなめるな…。


私は、この男を、少し離れた広い場所に魔法で突き飛ばしてから、問答無用で攻撃魔法をぶっ放した。

殺しても良いっていわれてた男だもの、だから、言われた通りに、雷を落としてやった。




ドddっドオオーーーーン!




凄い音がした。

振動も凄い。


それは、今の私に出来る、最大級の奴、だ。






グァアアアアアア!






変な声が響いた。

人間が死んで行く時って、こんな声を出すんだ…。

もう、息なんか、してない筈。

だって、黒こげだもの。


この騒動に、店から、カルロスさんが出てきた。

もちろん、他の人間たちも。


「だれか、ジョゼを、はこんで!」


それを言うのが、精一杯だった…。

いかん、さっき、魔量を使って、あ、こんな、ひさびさ、に、眠い、ぞ…。

そのまま、眠ってしまう。

だって、しかたないだろ?







声がする。


「カナコ?」


赤紅の瞳が私を見ている。


「デュークさん、…あ、ジョゼは?ジョゼは?ねぇ!」

「大丈夫だ、助かったよ」

「本当?本当に?」

「ああ、今、ザックが付き添っている」

「なら、大丈夫だ。良かった…」


私の頬を撫でるその手を掴んだ。


「無茶するな、心配したぞ?」

「けど、間違ってないでしょ?」

「間違ってない」

「けど、わたし、殺しちゃった」

「あんな男、叔父でもなんでもない。罪人だ」


起き上がって、デュークさんに抱きついた。


「お願い。抱きしめて?物凄く、ギュッと、私が壊れるくらいに、抱きしめて」


無言で強く抱きしめてくれた。

やっと、安心できた。

罪人だって、魔物と違う、人間だったんだから…。

断末間の声が、耳から離れないんだ。


「カナコ、おまえの背負ったモノはみんな俺に任せろ。俺が全部背負ってやるからな」

「デュークさん…」

「おまえには笑顔でいて欲しいんだ」

「デュークさん、優しいね。惚れちゃうよ?」

「いいぞ、もっと、惚れてくれ」


しばらく、無言でデュークさんを感じていた。

こんな時のデュークさんは、本当に優しいんだ。


「ねぇ、サー姉様は、どうなるの?」

「人に危害を加えたから、相当の罰は受けることになる」

「そ、そうだね…」

「例え、カナコの姉でも、それは仕方が無い。わかるな?」

「…、うん。わかる」


わかるよ。

身内だから、なお、重い刑にしなくてはいけない場合もあることぐらい。


詳しい話はポポロとアンリ兄様が報告に来るらしい。


けど、なんとなく、想像はつく。


試食会の招待状を偽造したのは、サー姉様だ。

唆されたのか、自発的に行ったのかは不明だけど。

そして、あのリチャードとグルになって、あこにいたんだ。









その日の夜は、違う侍女が食事の準備をした。

本当なら、デュークさんも取り調べに行くところだったんだけど、私のために、側にいてくれた。


「食べれるか?」

「少しでいい」

「俺が食べさせてやる」

「私、赤ん坊みたいよ?」

「今日はそれでいい」


魔物じゃなくて、人を殺したことに、私は怯えていた。


あのまま、連れ去られてしまえば、大変なことになったんだ。

当然、正当防衛が認められている。

けれども、震えが止まらない。

怖くて怖くて堪らないんだ。

食事が終わり一緒にベットに入っても、私は怯えたままだ。


それをデュークさんは一晩中抱きしめてくれた。

私が怯えを言葉にするたびに、優しく諭してくれた。


「俺がいるぞ?おまえの側には俺がいるんだ」


そうなんだ、デュークさんは、必ず側にいてくれるんだ。

ようやく落ち着いた頃に、デュークさんのスリープが掛けられた。







だから、私は、デュークさんの大きな手を握りながら眠りにつくんだ。






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