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私は無我夢中で食事を終えた。
好きに食べてもいい食事は美味しかった。
これでようやく穏やかになれる…。
ええ、そうです、空腹だとイライラするでしょ?
ジョゼが話し出す。
「では、本日のスケジュールです」
「はい」
「まず、午前中はこの国のマナーとリリフィーヌ様の仕草を覚えていただきます。午後はご昼食はスープのみ」
「え?」
スープだけ?
弱った、マジかよ?
「大丈夫ですよ。ご褒美はありますから」
「よかったぁ!」
ジョゼが笑った。
うんうん、楽しいね。
「午後からはダンスのレッスンです。大丈夫ですか?」
「ダンスなんてやったことない…」
「そうですか…。それでも、なんとか1ヶ月で様になっていただかないといけません」
「なぜなの?」
何があるんだ?
「1ヶ月後に、アルホート国の皇太子がお見えになる予定です」
「ふーん」
「リリフィーヌ様の兄上ですよ」
「げ?」
「カナコ様?」
ジョゼの顔が曇る。
言葉使いですよね、すみません。
「弱ったわ」
「宜しいです」
良かった、ジョゼが褒めてくれた。
「リリさんは自分のことを、なんていうの?」
「私、ですね。陛下のことはデューク。後、私達のことは呼び捨てて下さい。でないと怪しまれます」
「呼び捨てるって、抵抗があるなぁ…」
「やって下さいましね」
怖い目しないで下さい。
頑張りますから…。
「はい」
ジョゼは真剣です。
「ジョゼ、でいいのよね?」
「はい、カナコ様」
覚悟、決めた。
何度覚悟決めてるんだと自分でも思うけど、だって、まだ2日目なんだ。
どこか夢でも見ている気分が抜けないんだよ。
聞いたことも見たこともないルミナスって国に、置いてけぼりになってしまったんだ。
これが、現実だなんて、ね。
ジョゼが話を続ける。
「まず、リリフィーヌ様の生い立ちです」
「はい」
しっかりとメモを取る私です。
「現在、リリフィーヌ様は16歳になられました」
え?
思わず鏡を見た。
向こうも私を見てる。当たり前か…。
「え?これで16?」
「ええ、16歳です」
この世界の人は老けてるのか?それとも、日本人が幼いのか?
「老けてるね?」
「そうですか?魔法を使えるせいなのでしょうか、この世界の人間の寿命は長くて50年です。なので15歳での婚姻は早いほうですが、普通の事です」
「そうなんだ。ふーン」
てっきり近い世代だと思い込んでた。
リリさん、ごめんね。
「リリフィーヌ様は、アルホート国王、ゼノン・ゴディサ・アルホートの第4子として側室のジャンヌ様の元でお生まれになりました」
「正妻の子供じゃないんだ?」
「はい、王妃様は体が弱く10年も前にお亡くなりに」
「了解…、」
一瞬、空気が固まる。
「カナコ様!その言葉は絶対に言わないように。いいですね?」
「え?」
「ルミナスでは部下が上司に使う言葉ですから」
「はい、…」
ジョゼの剣幕にビビッた私。
浮ついていた自分にちょっと反省。
だって、ね、なんか若造の気分になったんだ。
33歳の私が16歳のリリさんの体に入った。
だから私は無駄に元気状態かもしれない。
だって疲れ方が違うんだよ?
そこからの回復が早いんだよ?
それだけでも嬉しいじゃないか…。
ましてや、もの凄く美人なんだもん。
なんか色々と私には無理なのかなぁ。
私の落ち込みを見たジョゼがニッコリと笑う。
「カナコ様は理解が早いので、ジョゼは教えがいがありますよ?」
「ほんと?」
「ええ、続けましょうか?」
「お願い」
ジョゼは教え上手だ。
もっと褒めて下さい。
「リリフィーヌ様には腹違いの兄上がおいでになります。その方が、今度お見えになられるアルホート国皇太子です」
「リリさんはなんて呼んだのかしら?」
「私達の前では、兄上、でしたが。御2人の時には何と呼ばれたのかは、分からないのです」
「それって、ヤバくない?」
「やばい?」
「あ、良くない出来事ってこと」
ジョゼは何となく納得した。
「そうですね…。まぁ、リックが何かいい方法を考えますから、大丈夫でしょう」
「ふーん」
兄妹ってさ、シスコンとか無しよね?
「リリさんはお兄さんと仲良かったの?」
「仲ですか?良かったと思います。結婚式のときは、泣いておいででしたので」
「なんか、厄介そうだね?」
「そうかもしれません」
間違いないね。
シスコンかぁ…。
会いたくないタイプかも。
「なんで、ルミナスに来るんだろうか?」
「ご機嫌伺いと、」
「誰の?」
「それは、リリフィーヌ様です」
「本当に厄介だね?」
「そうですね」
「2人きりになりたい、とか、言い出さないよね?」
「そこは、陛下にお止めいただくしかないですね」
「え、」
あのデュークさんに?
無理、無理。頼めやしないよ。
だってリリさんじゃないんだ。
私になんて興味ないでしょう?
誰と2人きりになってもどうでもいいでしょ?
どうなる、私。
限りなくバットエンドが近い気がします。
「リリさんじゃないとバレたら、どうなります?」
「わかりませんが、最悪は戦争ですかね」
「そうなるんですか?」
「あくまでも、最悪です。そうならないように頑張りましょう」
「…」
こんなことで落ち込んでいる場合じゃない。
やってみなければわからないだろ!
「うん、頑張ってみよう!」
「その意気ですよ」
「わかったわ」
ジョゼは満足そうに笑った。
その笑顔、素敵です。
「それでは、リリフィーヌ様について、です」
「はい」
ジョゼは淡々と語った。
しかし、リリさん…。
あんたって人は…。
リリフィーヌの設定を第2子から第4子へ変更しました。




