109 あなざーさいど20
サーシャの話になります。
かなり暗くエグイ話になりますので、苦手な方は飛ばして下さいませ。
飛ばしていただいても、本編に支障はありません。
学院を半壊させた、魔物達。
どうして、何も悟られずに魔物がいたのか。
その事を、軍隊も学院も必死に探っています。
なにしろ、城の直ぐ側で起きたのですから。
陛下の身になにかあっては、取り返しがつきません。
だから、学院長は何度も私を呼んで、状況を確認するんです。
けれども、私は、学院長には、まだ判明しない、と嘘を付き続けます。
そうしないと、…。
話は、私がようやく学院に戻った日に遡ります。
無断で欠勤したお詫びの為に、私は、学院長に会いました。
学院長は優しく言ってくれます。
「サーシャ、今までが無茶な仕事量だったんだよ。ついでだ、もう少し休んでもいいよ?」
「いえ、もう大丈夫です」
「無理してない?」
「はい」
「そう、なら、いいんだよ。仕事に戻りなさい」
「はい」
その瞳が辛いんです。
その優しさは、私が求めている優しさとは、違うんです。
私は、このまま、ここにいられるかしら?
その足で、自分のチームに戻りました。
「サーシャ主任!」
「みんな、心配掛けて、ごめん!」
「もう、本当ですよ!主任がいないから、何がなんだか、大変だったんですから!」
「主任がいないと、俺たち、困ります!」
ああ、ここは私を必要としてくれます。
ここしか、私には残ってないんですね。
ここで頑張ろうって、そう思いました。
溜まった書類を片付け、彼等を先に帰らせ、遅くまで仕事をしました。
夜も遅くなり、私も、ケリのいいところで帰ることにします。
学院を出て、待たせてある馬車のへ向った時。
あの男が立っていました。
「よく、戻ってこれたな?」
「当たり前でしょ?仕事だもの。失礼するわ!」
彼に腕を捕まれてしまいます。
「一度も二度も同じだろ?来いよ?」
「離して、魔法を放つわよ?」
「おいおい、つれないな?恥ずかしがるなよ?」
「離して!」
彼の手を振り払い私は手加減なしで、魔法を放ちました。
憎しみが加算されてしまったのか、思ったよりも、強くなってしまって…。
「あぐぁ!」
聞いた事もない声を残して、男はそのまま、地面に倒れたんです。
そして、動かなくなりました。
私は、人を、同僚を殺してしまった?
「ちょっと!」
慌てて回復の魔法を掛けました、が…。
彼の細胞は想像以上に破壊されていたらしく、身動きしません。
「ど、どうしよう…」
いろんなことが私の頭の中を巡りました。
妹たちに害が及ばないか?
ハイヒットの家に傷が付かないか…。
仕事は続けられるのか?
一体どれだけの時間、私は、この場所に立っていたんでしょう。
そのとき、声を掛けられました。
「どうしました?」
「あ、私、あ…」
その男は私と彼を見比べて、こう言いました。
「あなたが殺したんですか?」
言葉に出来なくて、小さく頷くしか…それしかできません。
「ほう?見事な魔法だ」
妙に感心している男性に、変な気分になってしまいました。
なぜ、この人は平然としているのでしょう?
「困っているんですね?」
「は、はい。どうしていいのか、わかりません」
「そうですか、」
少し考えた彼は素早く言いました。
「私に任せてくれませんか?この事を無かったことにしましょう。いいですね?」
「けど、そんな事…」
「いいんですよ。あなたの為に、この事を消しましょう」
「出来るんですか?」
「ええ」
助かった、と思いました。
安易でした。
そんなこと、出来る筈ないのに…。
見ず知らずの男が、親切で、肩代わりしてくれる筈もないのに…。
「その代わり、私の事も助けてくれますね?」
「もちろんです!」
「それでは、契約は成立です。さぁ、家に帰りなさい、サーシャ・ハイヒット」
「どうして、私の名前を?」
「当然ですよ。この男を唆したのは私ですからね」
え?
しまった、と思ったのですが、もう、遅かったんです。
「意味が、分からないわ」
「まさかあなたが殺してしまうとは思いませんでした。でも好都合だ。色々と手伝ってもらいます」
「そんな、騙したのね?」
「互いに助け合うだけですよ?いいんですか、あなたが殺人犯だなんて家族に知られても?」
返事が出来ませんでした。
私が、こんな愚かな事をしでかしたなんて、家族に知られたくはなかったんです。
「裏切ろうなんて思わないで下さい。その時はあなたがされたことを、全て世間にばら撒きますから」
「全てって、一体、何を?」
「この男に襲われたことや、人を殺したことです。世間のスズメは賑やかな噂が好きですからね?」
「そ、そんな…」
「用事があるときは、こちらから呼び出します。大人しく家に帰りなさい。もちろん、ご家族には内緒にしますよ?」
私は、騙されました。
どうやって家に帰ったのかも覚えてい程、パニックになってました。
これが家族に知られれば、私は、どうなるんだろうか?
いえ、知られてもいいけど、迷惑は掛けられない。
直ぐにでも、早く家を出なければ。
私だけならば、殺されたって、構わないんです。
誰も気にもしないんですから。
数日後。
「本当に、独りで暮らすの?」
と言う母の声を遮って、私は学院側のアパートへ越しました。
学院は私達の中で必要な者には、住む所を提供してくれます。
もっと早くにそうすれば良かったんです。
ようやく、少し、ホッと出来しました。
それで、私は、彼が倒れた場所に行ったのですが、見事なほどに何もありませんでした。
彼は故郷に用事が出来て戻って行った、と聞かされた時は、それが真実なんだと思い込みました。
それから、しばらくは何もありませんでした。
怖いくらいに普通の毎日が過ぎたのです。
だから、夢を見たことにしよう、と思いました。
けど、そんなこと、無理だったんです。
私が彼を殺したのは、事実なんですから。
別の日。
仕事を終え、アパートに戻った私は、立ち尽くすしかありませんでした。
部屋の中に、あの男と信じられない男がいたから。
「彼女かい?」
「ええ、彼女がエリフィーヌの姉です」
視線が痛いです。
嘗め回すような、悪意に満ちた視線が。
「似てないんだね?」
「そうでもないと、思いますが?」
人の部屋で、勝手にお茶を飲んでいる男達に大声で訪ねました。
「あなた達、どうして、この部屋に、いるんですか!」
「訪ねてきたからだよ」
「帰って!」
その言葉、叶うことはありませんでした。
「いいのかい?君の事をばら撒いても?」
「…」
「モンク、そんなに女性を苛めるものじゃないよ?これから一緒に仕事をする仲間なんだからね?」
「しかし、リチャード様?釘は刺しておかないと」
「まぁ、そうだねぇ」
どうして、ここに、王の叔父がいるんでしょうか?
「まぁ、ここは私に任せて。あ、迎えは朝でいいよ?」
「わかりました。それではサーシャ、詳しい内容は明日に」
その叔父が、どうして、ここに残るんでしょうか?
モンクと呼ばれた男が、苦笑いを残して、出て行きました。
残された男に、王の叔父に、魔法を掛けてしまえば良かったのに…。
私は、あの声のせいで、放つ事ができません。
「さて、邪魔するものはいなくなったから、楽しもうか?」
「帰って、下さい…」
「いいのかな?そうすれば、君のことがばら撒かれるよ?」
「卑怯だわ!」
「そうだね、卑怯だね。けど、いいんだよ?わかるかい?」
「わからない、わかりたくもないの!」
いやらしい顔が直ぐそばまで…。
どうして、こんな事になるの?
なんで、妹達とは違うの?
「私は、君を自由にできるからね。拒否は許されないんだ。だったら、感じてしまいなさい」
物凄い力が私の腕を掴んで離さないんです。
私は、抵抗することも出来ずに、簡単に唇を奪われてしまいました。
なぜ?力が、抜けていく…んです…。
「感じただろ?私はね、上手なんだ。このまま身を委ねなさい。悪いようにはしないよ?」
その言葉が、遠くになっていきました。
情けない事に、彼の言葉通りだったんです。
生まれて初めて、体が反応するほどに感じてしまったんです…。
「やめてもいいんだよ?」
「い、いや…」
彼のもたらす刺激が、私の何かを外してしまいました。
力は抜け、彼に何かを飲まされても抵抗すらしませんでした。
気が付けば、私は彼に縋って、声を上げて泣いてました。
余りの気持ち良さに、大きな声を…。
「いいねぇ。君の妹も、こうやって声を上げて喜んでくれるかな?」
「い、いもうと?」
「そうだよ、デュークの妻になる女は、みんな、私に抱かれるんだ。そして、奴ではなく、私に縋りつくんだよ。いい気味だし、楽しみだな。君の妹も、きっと、こうやって…」
彼のもたらす刺激に、反応にしてしまいます。
ああ、もう…、やめないで…。
私は、人ですらなくなりました。
彼等の奴隷に成り下がったんです。
もう、家族には、会えません。




