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そして、丘の上に来てから6ヶ月が過ぎる頃。
デュークさんが言った。
「そろそろ、城に戻る」
「うん、わかった」
そんな簡単な会話で、城に戻ることになった。
どんな修羅場が待っているんだろうか?
けれども、不安を口にはしなかった。
そんなこと、出来ない。
だって、皆がその為に働いてくれたんだもの。
私はデュークさんの決めたことを信じてついて行くだけだ。
「あ、城だ」
久しぶりに、城を間近で見た。
相変わらず、サグラダファミリアだよ。
けど、本当に綺麗だ。
魔法で掃除が出来るって、凄いことだ。
いつでも建設当時のままだよ?
リフォームは要らない。
私達を乗せた馬車が城の正面玄関前で止まる。
馬車を降りて周りをみて驚いた。
ズラーっと、人々が出迎えている。
1000人はいるそうだ。
みんな待っていてくれたんだ。
「デュークさん、皆が…」
「待っていてくれたんだ」
「嬉しいね?」
「そうだな」
一斉に礼される。
なんだろう、空気が違う。
「陛下、カナコ様、お戻りをお待ちしておりました」
代表して喋るのは、ポポロだ。
「状況は?」
「申し訳ございません、概ねの排除に留まっており、完全ではありません」
「しかし、安全ではあるのだろう?」
「もちろんです」
「ならば、いい」
私は立ち尽くす。
この城にこんなにも人がいたんだ。
「皆、待たせた。もう心配はいらない。俺はここに戻った」
ああ、デュークさんは王なんだ。
「永遠なるルミナスへの忠誠を、今、ここで誓う!」
王の宣言に応えが返る。
「「「「「「「「我々の忠誠は王の下に!」」」」」」」
皆の声が一斉に響いた。
凄い、空気が揺れた。
人の声で空気が揺れるんだよ。
初めての体験だ。
デュークさんは軽く手を挙げて、それに応えた。
大きな歓声があちらこちらから上がる。
場が高揚してるんだ。
今日、初めて、私はルミナス国の熱さに触れた。
私はこんなにも素晴らしい国に住んでいるんだね。
そして、隣に立っている最愛の人はルミナスの王なんだ。
私は、やっと、私の立場の重さを知ったんだ。
「カナコ様、さぁ、参りましょう」
ジョゼが言う。
あ、そうだね。
「ええ、けど、ね…」
無愛想ではいけないよね。
こうして待っていてくれたんだから…。
「陛下?」
「どうした?」
「皆に、感謝したいの…」
うん?って顔。
私だって、殊勝な気持ちになることもあるんだよ。
「カナコの好きにしたらいい」
「どうしたら、いい?」
「そうだな…」
デュークさんが皆の方を見た。
そしてゆっくりと手を上げると、静寂が訪れた。
「この者は、いずれ俺の妻になる者だ!」
そう言って私を前に出す。
歓声が上がった。
良かった。
そして、私を促した。
「さぁ…」
どうしたらいいのか、弱ったが、私から言い出したことだ。
ひるむな!
私は皆に頭を下げた。
デュークさんのこと、よろしくお願いしたかったから。
「皆さん、私達を待っていてくれて、ありがとう。私の忠誠も王とルミナスにあります。これからは、ルミナスのため、皆のために、この忠誠を尽くします。皆の下に、永遠なるルミナスの加護がありますように!」
どよめきが起こる。
そんなに、規格外の行動だった?
不安になってデュークさんを見る。
私、間違った?
その時、さっきよりも大きな歓声が起こったんだ。
え?なに?
「安心しろ…、皆、喜んでいる、ほら」
そう言われて見た光景は、とても素敵な光景だった。
口々にデュークさんの名を叫び、誰かが言ったのか、私の名も聞こえてくる。
その顔は笑みに溢れ、高揚している。
一体感だ。
私達は共にルミナスに生まれ、育ち、ここを守る者だ。
それを誇りに思う者達が集まった場所にいるんだ。
涙が零れた。
嬉しくて、堪らなかった。
デュークさんが、肩を抱いてくれた。
「カナコ、おまえは最高だな…」
言い終わらない内に、キスされた。
歓声が再び大きくなり、冷やかしの口笛も追加される。
そして、私の腰を抱いて、皆に手を振り、城の中に入った。
気持ちが高揚したまま、私達は城の中を歩いている。
「カナコ様?」
「なに?」
ジョゼが声をかけた。
「素敵でした。さすが、カナコ様です」
「褒めすぎだよ?」
「いえ、今日はどれだけ褒めても褒め過ぎってことはないですよ」
いやいや…。
ポポロ、褒めても何にも出ないよ?
「これで、陛下への忠誠は万全となりました。カナコ様、貴女様のお陰です」
「え?」
「それは、俺への愛だろ?」
おいおい…。
おまえ、悪ふざけが過ぎないか?
「ご馳走様です」
ポポロ、そんなに真剣に言うなよ…。
「なんか、買い被り過ぎだよ?」
「そんなことないさ」
「けど…」
賑やかなに喋りながら、私達は城の中を進むんだ。
そして、14年ぶりに、私は私達の部屋に戻った。
今は2人きりだ。
「懐かしい…」
室内はあの時のままだった。
「残してあったの?」
「…、変えれなかったんだ」
「そうなんだ」
「変えるのはカナコが戻って来てからにしようと、決めてた」
「デュークさん…」
戻ってきたんだ。
「だから、カナコの好きにしていいぞ。それを見て俺も楽しみたいからな?」
遠慮するなって、ことだね?
わかったよ。
「うん、明日からジョゼに相談するわ」
「そうしろ」
見つめてしまう。
吸い寄せられるように。
「綺麗だな」
「なに?」
「カナコは綺麗だ」
「ありがとう」
軽いキスだ。
最近、昼間は我慢することを覚えた私達だ。
やっと、生活が始まるんだ。




