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改正交戦規定に定める適正交戦の手順

 ペンギンの運用教本に採用になったのはフリッパー・ターン。

 P-07の操縦手コンラート・ベーア曹長が偶然成功した急角度の旋回方法なのだが、これが航空機対策に有効だということで、ペンギン部隊で情報を共有することになったのだ。

 ペンギンは喫水が低く、砲塔や砲身のせいでトップヘビー構造になっており、機体の前後左右に設置された、人工コルクとかいう浮材が詰まった箱型のシュルツェン兼フロートがなければ、たちまち転覆してしまう。

 それだけでは、転覆しないだけでグラグラと不安定なので、底面に水面に対して主直に一つ、左右に水面に対して平行に一つづつ、矮小な翼を付ける事によって、機体姿勢の安定を保っている。

 これが、ペンギンの飛べない翼、すなわち『フリッパー』を連想させて、この機体の愛称がペンギンになったのだが、設計段階では意図していなかった利用方法がフリッパーターンだ。

 高速で急な舵を切ると、もともと不安定なペンギンは危険なほど機体が傾く。そして、ある段階で片舷のフリッパーが空中に出る状態になり、左右の舷の水中抵抗が大きく変わることになる。

 この時、船舶らしからぬ急角度で機体が旋回するのだ。その段階で舵と速度をそのままにすると転覆してしまうのだが、ギリギリのタイミングで、アクセルから足を離し、逆舵を当てると、機首が向いている方に直進する。

 直進したと感じた瞬間に、再びアクセルをベタ踏みすると、上空から見ると、まるでVの字を描いたような軌跡でペンギンが動いたように見えるのだ。

 ペンギンの速度は、最高速度で時速九十キロメートルほど。

 航空機は、足の遅いカタリナ哨戒機やフェアリー・ソードフィッシュでも失速しない速度よりだいぶ遅い。

 予想外の軌道を見せると、ペンギンを飛び越えてしまうのだ。

 旋回して追いつくころに、またフリッパーターンを行う。飛び越えた航空機を機関砲で追尾する。この繰り返しが、ペンギンと航空機の戦いだ。

 フリッパーターンが出来るのと出来ないのとでは、大きく戦況が変わるのである。

 多少、プロトタイプと比べると、実戦配備されたペンギンは操縦手の視界が広がったとはいえ、まだ狭い。

 フリッパーターンの微妙な舵のバランスは、機体の傾きや操縦桿から伝わる機体の感覚から判断するしかない。波や風の状態でも変化することもあり、これは操縦手が体で覚えるしかない操縦法なのだった。

 

 砲手も一から訓練をやり直す状況だった。

 『七十五ミリKwK L/48戦車砲』のスマートな長砲身と異なり、新しいペンギンの主砲である『百五ミリKwK L/28榴弾砲』の切り落とされたような太い短砲身から撃ち出される砲弾は初速が遅く、改正交戦規定に定める適正交戦距離である二千メートルの砲撃だと、山なりの弾道を描く関係で着弾がブレるらしいのだ。

 これもまた、砲手の経験と技量に頼るしかなさそうだ。

 

 改正交戦規定に定める適正交戦距離が変わったことで、艇長の役割も増える。キューポラに、新たに設置された設備に固定式の双眼砲兵鏡があり、地中に潜ったカニが、目だけ地上に出して偵察している様に似ていることから、『カニ眼』と仇名される望遠鏡だ。

 二千から三千メートルの距離での殴り合いとなれば、砲手の照準器では着弾が見えにくいこともあり、艇長がカニ眼を使って観測し、砲手に指示を出すということになる。

 レーダー測距儀ほどの高性能ではないが、簡易測距儀程度の性能もあるので、航行時はキューポラから頭を出して、双眼鏡で偵察。砲撃時はキューポラの下にもぐって砲兵の観測手の真似事。こんな役割になりそうだった。

 通信手も兼ねなければならないので、けっこう艇長は多忙だ。

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