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狩りを始めたUボート

 ダウントン号は再び進路を変えた。

 我々よりUボートの方を脅威とみなしたのである。

 そのかわり、まだ無傷のフラワー級コルベット艦ウィステアリア号が、船団の中から飛び出してくる。

 我々への牽制を任されたのだろう。船首喫水線上に重大な損害を受けたダリア号は十ノット程度しか出してない輸送船団にも追いつけない状態だし、最新鋭のキャッスル級コルベット艦ダラム号は弾薬の誘爆によって艦尾に甚大な被害が出て、辛うじて浮かんでいるだけの状態だ。

 もう一隻のハント級護衛駆逐艦ガーズ号は、追えば逃げ、引き返そうとすれば追撃してくるP-08に鼻面を引き回されていて、この戦闘区域には急には戻ってこれない。

 爆発音がして、ビリビリとペンギンの機体が揺れた。船腹から真っ二つに折れるようにして、二隻目の輸送船が撃沈される。弾薬を積んでいた輸送船だったのだろうか、かなり大きな爆発だ。

 灰色の空に赤い炎が上がって消える。

「まずはコルベット艦を叩く」

 私は方針を示した。少人数の艦艇はある程度乗組員が自主的に動く。たった五人しかいないペンギンの場合、艇長の役目は大まかな方針を示し、選択が迫られる度に選び取るのが役目になる。

「二、三発食らわせて大人しくさせたら、駆逐艦を追尾しよう」

 これだけ言っただけで、操縦手は進路を決定し、砲手は照準器をコルベット艦に向ける。

 私は、私の指示がきちんと成されているか、キューポラから臆病なモグラのように頭を出して確認するだけだ。


 一度、輸送船団に接近したハント級護衛駆逐艦ダウントン号は、更に転進して南へと向かった。

 HF/DFがUボートの位置を感知したのだろう。

 Uボートは輸送船団が頭上を通過するまで海中に潜み続け、通過後に後方に浮上、雷撃を行ったらしい。

 ズシンという鈍い音とともに、三隻目の輸送船が火を噴く。最も足が遅い輸送船に合せて輸送船団は航行速度を統制するのが通常だが、次々とUボートの餌食になる船が出始めると、勝手に増速する船が出始め、隊列は乱れ始める。

 小さく固まっていた集団がばらけて大きく広がってゆく。Uボートにとっては理想的な展開だ。

 そのためにも、ペンギンは護衛艦隊を叩かなければならない。

 ウィステアリア号の主砲Mk.Ⅸ百二ミリ単装砲が砲撃を開始した。礼によって、シュルシュルと空気を裂いて遥か頭上を砲弾は通過する。

 P-07はカクンと進路を変えた。一瞬の姿勢安定。七十五ミリKwK L/48戦車砲が唸る。水面すれすれに走った七十五ミリ砲弾は、ウィステアリア号の喫水線に命中して火花を上げる。

 そのまま、大きく舵を切る。ウィステアリア号を中心に五百メートルの距離を保ちながら大きく円を描き、狙いが付き次第砲撃する。回転の内側に敵艦が居るので、ペンギンは傾き、砲は上向く。だから、操縦手のベーア軍曹には、装填手の「装填完了」の合図とともに、逆舵を当てるように指示を出した。パドルが水を掴んで、ウィステアリア号の方向に傾くからだ。

 その瞬間に撃つ。高速移動を得手とするペンギンでないとできない戦術だ。

 

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