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七十五ミリKwK L/48戦車砲

 珍奇な外見という先入観を抜きに、この機体がSボート以上の機動性を持って海に解き放たれた場面を想像してみる。

 船体に相当する車体は六メートル弱、幅は3メートル弱、最小の戦闘艇であるSボートの三分の一以下のサイズだ。

 搭載する砲は、独国軍が誇る『七十五ミリKwK L/48』という貫通力の高い砲で、五百メートルの距離から、露国の主力重戦車『KW-1』の九十ミリ装甲を打ち抜く性能があった。

 コルベット艦や駆逐艦の防弾装甲はおよそ二十五ミリなので、ざっと計算しても、およそ二千メートルの遠距離砲撃でも船体を貫通できる。相手も撃ち返してくるだろうが、この機体の小ささでは、針の穴を通すほどの精密射撃でもないと無理だ。

 弾をばら撒き、『面での攻撃』をする機関砲なら命中させる事はできるかもしれないが、その射程は七十五ミリ砲の射程には遠く及ばない。距離による減衰に加え、八十ミリという装甲が致命傷を許さない。

 当方から見れば、駆逐艦、巡洋艦は大きな的だ。独国軍の戦車兵の砲手は優秀なので、遠距離で打撃戦をしても軍艦と互角に戦えるだけの技量をもっているはずだ。

 どこの戦場だったか忘れたが、陸上の独国軍戦車と艦砲射撃を行う英国軍巡洋艦が殴り合いをした事例を聞いたことがある。それを、海上で再現しようという発想なのだろうか。

 ひょっとしたら、いけるかもしれない。陸軍の兵士はそう思い始めたようだった。その証拠に、憤怒は影を潜めつつあった。

 だが、クラウツ准将をはじめとする、海の将兵は決定的な欠陥に気が付いていた。

 強力な砲ゆえ、艦艇に対抗できるかもしれないが、その強力な砲ゆえこの珍奇な機体は海上では戦力足りえないのだ。

 重い砲身。それを支える重い砲塔。その重量がある上部構造のせいで、水上艇では致命的ともいえる『トップヘビー構造』になってしまっているのだ。

 陸上では、それらを支えるためリーフスプリング方式が採用されるなど、バランスを調整していたようだが、海上では無理だ。足場がないのだから。

 要するにこの機体は、転舵と同時に転覆ということになるということ。

 もう一つ、致命的な欠陥がある。

 戦車は平野での砲撃戦を想定しているので、砲塔回りや全面に装甲が施されている。しかし、海上では、航空機による機銃掃射のリスクがあるのだ。

 上面装甲は、戦車でも薄い。せいぜい二十五ミリといったところだろう。侵入角度によっては二十ミリ機関砲でも貫通する。

 それに、海上では森や岩場といった隠れる場所はない。制空権が危うい昨今では、航空機から逃げ回るのが任務と言うことになりかねない。

 だが、フェルゲンハウワー中尉とその技術スタッフは、その対策も考えていたのである。

 その対策こそ、この機体の愛称『ペンギン』の由来なのであった。

補足

露国は当時のソ連をモデルにしています。

ドイツとの開戦当初、ソ連の主力戦車はT-34とKV-1でした。

KV-1は英語読みした際の略称で、ドイツ語読みだとKW-1だったそうです。


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