小癪な小型艇たち
急に五十ノットに加速し、不意に停止する。
船舶ではありえない角度で曲がり、時には一回転したりもする。
飛行機の動きとも、船舶の動きとも違うペンギンの挙動は、ペンギンだけのものだ。
自慢の射撃指揮システムも、ペンギン相手では有効に作動せず、米艦はだいぶイラ立つだろう。
本来、射撃指揮システムは航空機を打ち落とすための装置だ。直線的に高速で動くものの到達予測ポイントに照準をもってゆくための仕組みなのだ。
急角度で方向転換するペンギンはまさに想定外の存在なのだ。
機関砲銃手の技量に重きを置く、英国海軍はペンギンを相手にするときは、あっさりと手動に切り替えた。海戦の経験が長い彼らは、射撃指揮システムなどがない時代から海で戦ってきたのだ。
対して、米国海軍は海軍の経験は浅い。それを、様々な最先端技術の開発によって、補ってきた。
それが、ペンギンには通用しないのだ。まるで悪夢だろう。
およそ七百メートルの距離で併走しながら撃ちあう。
変則的な動きをするペンギンに、クリストフ号は戸惑っているだろう。射撃指揮システムに従えば、見当違いの場所を撃ってしまう。不規則に動きを変えるわずか八メートルほとの的に砲弾を当てるほどの精密な射撃はできないようだ。
頼みの綱は、本来対空用に搭載しているボフォース四十ミリ機関砲の水平うちしかない。
一方で、百二十メートルもある標的は、Pー07にとって適当に撃てばどこかに当たると言える。
しかも、砲手は部隊きっての砲撃の名手クラッセン軍曹だ。砲弾庫がある主砲の下、主要施設である艦橋周辺、ボイラー室がある煙突の下部、そういった場所に、次々と百五ミリ砲を命中させてゆく。
艦橋と煙突の間に位置するボフォース四十ミリ機関砲の銃座と、魚雷発射装置を破壊してからは、ほぼ一方的な打撃になった。
火薬か燃料に引火したのか、火災が発生しており、クリストフ号が黒煙を噴き上げる。
「次弾、HEAT弾! 装填急げ!」
装甲に大穴をあける砲弾が用意された。
クラッセン軍曹は、喫水線を狙う気だ。三つほど破孔を開けてやれば、船足は極端に落ちる。
クラッセン軍曹は、慎重に狙いを定め、引金を引く。
ガーンという鋼が打ちあう音が響いて、喫水線上に大穴が開く。
衝撃で、甲板上を走り回って鎮火につとめていた水兵たちが一斉に転倒した。
どっと海水が流れ込み、水兵は隔壁閉鎖に取り残されないよう、必死で走っていることだろう。
もう一度、HEAT弾が喫水線を襲う。今度は、船首に近いところに大穴があいた。
喫水線はもう十分と思ったのか、装甲に守られている艦橋基部に狙いを定める。
HEAT弾は、どんなに装甲が厚くても、モンロー効果によって液状化したライナーと呼ばれる鉄片が、孔を穿つ。これを避けるにはシュルツェンなどの中空装甲しかないのだが、艦橋は戦車と違い中空装甲などない。
艦橋に留めの一発を送り込んでおいて、P-07は走った。
クリストフ号はもう速度を出せない。
アンブローズ号とベイカー号は十分に引き離した。
おそらく十五分程度の時間は稼いだだろう。P-08と合流して、護衛空母を叩く。そのためには、輸送船団が主たる目的であると思わせなければならない。
船団を守ろうと駆逐艦が張りつけば、その分護衛空母セイレム号の防備が薄くなる。
「当方は船団を襲う。貴殿らは、魔女の首を狩れ」
魔女は護衛空母セイレム号のコードネームだ。今回の襲撃の目的は、『ブラックキャット・エクスプレス』の無力化にある。
艦載機ワイルドキャットと対空戦闘を繰り広げているP-08の傍らを高速で通過する。
必死で逃げ続ける輸送船団の前を横切るコースに舵を切った。
P-07に気が付いて、六機ほどのワイルドキャットが追尾してきた。このまま、こいつらが付いてきてくれれば、その分P-08たちの負担が減る。
バルチュ伍長が、機関砲を撃ち始めた。
まだ、距離はあるがわざと撃っているのだ。
独国の同盟国である日国の伝説のソード・マスターに、六十回もの決闘を繰り返して全て勝利し、天寿を全うした人物がいるが、彼の書いたソードスキル教本に『イラつかす、ムカつかす』と言う技法が書かれているらしい。
これは要するに、相手を平静でなくするということなのだが、バルチュがやったのがこれだ。
「小癪な小型艇め!」
そう思わせたのである。




