黒猫を狩りに
狭い機内に押し込められているペンギンの乗組員にとっては、手足を伸ばし暖かい珈琲を飲むのは最高の贅沢だった。
レーションのチョコレートとビスケットが加われば申し分ない。しかも、珈琲は米国の補給品流用の『おすそ分け』なので、ミルを使って豆を粉砕した本格的なドリップ珈琲だ。
私は大量に珈琲を作り、ポットに詰める。艇長が各機に持ち帰れるようにだ。
P-20艇長のフランツ・オイゲン准尉、P-21艇長のクルト・ヴァランダー准尉、P-22の艇長ハンス・カッツパルゲル准尉の三人は、このバレンツ海で戦死したエルネスト・ボーグナイン少尉より更に若い。改めて顔を見ると、若者というよりはまるっきり少年だ。
一番背伸びしているクルト・ヴァランダーは、少しでも年長に見えるように我々のマネをして無精ひげを生やそうとしているが、ひょろひょろと生えたそれは疎らで、かえって幼く見える。
だが、私は彼らを率いて、圧倒的な戦力差の敵に立ち向かわなければならない。航空支援があれば……と、思わないではなかったが、無い物ねだりをしても仕方あるまい。
「我々は、新型ペンギンを受領した。対空特化型ペンギンだ。開発途中で廃棄された対空戦車『クーゲルブリッツ』の砲塔をペンギン用に付け替えたものだ。備砲はMk103三十ミリ機関砲二門。わが軍最高の対空機関砲だ。P-21に我々の頭上を守らせつつ、『ブラックキャット・エクスプレス』に二千の距離まで接近。並行しつつ打撃戦を行う。輸送船は今回は無視していい。狙うは、セイレム号の首ただ一つ。再起不能まで叩き続けるぞ。いいな?」
アドルフ殿ことアルブレヒト・ホフマン司令官なら、もっと感動的で勇壮な演説ができたのだろう。
だが、私にはこうした淡々とした指示しかできない。それでも、事の重要性は理解できたらしく、少年兵たちの顔に決意がみなぎっていた。
「クルト准尉、我々の命は貴殿に預けた。『禿ペンギン』の性能を存分に引き出せ」
クーゲルブリッツの球形砲塔には、ほぼ死角がない。
垂直に近い角度にも砲塔を向けることが出来るのだ。
搭載されているMk103三十ミリ機関砲も、いい性能だ。一分間に四百二十五発もの銃弾をばらまく性能があり、射程も長く初速も早い。
「はい! 必ず期待に応えて見せます!」
クルトが顔を紅潮させて宣言する。勉強したり、女の子とデートしたり、彼らの年代の少年は銃を撃つよりもっと重要な事があるはずなのだ。
おもわず、ため息が出そうになるのを、私はやっとの思いで止めた。
珈琲をすする。今日はそれがひときわ苦く感じていた。
気温差がある早朝、海上に漂う靄を身にまといつつ、我々はベア島を後にした。
襲撃がないので、『ブラックキャット・エクスプレス』はすっかりナメきっていて、同じコースを辿るらしい。
HF/DF、短波レーダー、艦載機ワイルドキャットによる索敵と、これだけそろっていれば、Uボートは怖くない。
もしもUボートを発見したら、航空機で殴りつけ潜航させて、その間に走り抜けてしまえばいい。
潜航中のUボートの速度は、せいぜい七ノットほど。
三十ノット以上の快速を誇る高速輸送船団にUボートは追いつけない。つまり、最低限のリスクで輸送任務が遂行できるのだ。
コースを変えないのは、逃げ切る自信があるから。だが、ペンギン相手にそれは通用しない。
高速機動戦闘という、今まで経験したことがない戦場を体験させてやる。




