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一方的な砲撃

 カエルからの無線が入ったのはその時だった。

途切れ途切れの聞き取りにくい通信だったが、なんとか内容は理解できる。

「隠れ……から……岸線沿い……三キロ……追われて……もたない」

 切迫した声、緊急事態だ。

「エンジン始動! 総員戦闘配備!」

 砲身から木栓が抜かれ、エンジンが唸る。

 バルチュが胸ポケットにラッキーストライクを仕舞い、ライフジャケットと防水の外套をまとう。

 私も軍帽を脱いで防水外套を羽織り、鉄兜をかぶった。

 いつものように、砲手のクラッセン軍曹が、軍帽を後ろ前にに被りなおす。

 操縦手のベーア曹長が首を左右に振って、肩の凝りをほぐしていた。

「進発! 海岸線にそって、北へ!」

 P-07が岩場から飛び出す。岩礁がない沖合五百メートルまで離れて、北に進路を向けた。

 このあたりの海域は、急に深くなる『どん深』の海域だ。

 暗視双眼鏡を前方に向ける。遠くにチカチカする明かりが見えたような気がする。曳光弾に見えなくもない。

「進路そのまま! 全速前進!」

 バウンドしながらペンギンは疾走する。五十ノットの全速力なら三キロは二分もかからない。

 見えた。小型の漁船が、数隻の哨戒艇に追跡されている。おそらく、あの小型船にカエルが乗っている。距離はおよそ、千五百メートルほど。

「砲手! 警告砲撃! 先頭の漁船にあてるなよ」

 私は砲撃を命じた。余計なひと言にカチンときたのか、クラッセン軍曹が憎まれ口を叩く。

「バカにしてるんスか? そんなドジふみませんぜ」

 百五ミリKwK L/28戦車砲が火を噴く。同時に、私はペンギンの砲塔と、機体の前面についている探照灯をともした。

 砲撃と水柱。哨戒艇が、一斉に舵を切り、忙しく探照灯を四方に向ける。

 闇の中で、光の柱が振り回されている様な光景だった。

 

 哨戒艇は、私が撃沈されたSボートのようなサイズの船だった。その数四隻。おそらく、魚雷発射管を外し、機関砲に換装した対空モデルの古い魚雷艇だろう。彼らは、P-07の姿に気が付き、探照灯をこちらに向けてきていた。

 一隻は、小型漁船の追跡。三隻がこっちに向かってくる。小型哨戒艇とはいえ、その全長は三十メートルはある。武装は、おそらく前甲板に四連装QF2ポンド砲一基、後甲板にも同様のものを一基といったところか。

 ペンギンは、この哨戒艇の四分の一のサイズだ。相手はなめてかかってきている。

「目標、先頭の艇。ぶん殴ってやれ」

 距離はあっという間に五百メートルを切った。ポンポン砲がチカチカと瞬いたが、ジグザグ航行を開始したP-07には有効弾は命中しなかった。凍ったバレンツ海で遭遇した駆逐艦の機銃手より数段腕は落ちるみたいだ。

 装填を終えた百五ミリ砲が火を噴く。榴弾の直射だ。先頭を走っている哨戒艇の船首で火花が散り、前甲板のポンポン砲は沈黙し、探照灯も消えた。 そして、酔っ払ったようにフラフラと右に流れる。

 僚艇二隻は各々左右に舵を切り、突然機能を停止した先頭の艇を避ける。

「先頭の艇の左舷をすり抜けるぞ。置き土産してやれ」

 私が命じるより早く、砲塔が左側を向く。機銃手のバルチュが、戦闘の艇の左側に回避した哨戒艇に、連装二十ミリFlak C/30機関砲を水平撃ちして牽制していた。

 バルチュに撃たれた哨戒艇は、反撃もせずに、回避行動をとっている。相手は機銃の腕がよくないうえに度胸も据わっていない。後方任務についている戦闘艇など、この程度だろう。

 百メートルほどの距離を隔てて、先頭を走っていた哨戒艇とすれ違う。後甲板のポンポン砲が、射界にP-07を捉えて、砲撃を開始した。しかし、弾はことごとく、P-07の航跡に着弾した。ペンギンの速度が速く、偏差射撃が間に合わないのだ。

 百五ミリ砲が再び哨戒艇を直射する。小さな艦橋と後甲板の銃座の間に榴弾は着弾し、火花と同時に黒煙が吹き上がる。赤い炎が不吉なヘビの舌のように、黒煙の中からチラチラと見えた。

「このまま小型漁船を追う。バルチュは二隻を近づかせるな。」

 三隻の真ん中を突き破ってペンギンは夜の海を駆ける。両翼の二隻は慌てて回頭しているが、圧倒的な火力を目にして、腰が引けているのがわかる。

 小型漁船を追跡している哨戒艇を追う。

 双眼鏡の中で、小型漁船は穴だらけになっていて、浮いているのが不思議なほどだ。

 哨戒艇の船尾を捉える。砲塔は正面に向き直っている。後甲板のポンポン砲が砲撃を開始して、P-07の頭上を銃弾が飛び去ってゆく。やはり、照準が甘い。正体不明の小型戦闘艦の登場に動揺しているのだろう。それとも『亡霊船』の噂でも信じているのだろうか。

 反撃の砲火。距離は三百メートルほどか。クラッセン軍曹なら外しっこない距離だ。

 着弾。船尾の艦上構造物がごっそり吹き飛ぶ。

 駆逐艦も『ブリキ』と呼ばれるほど装甲は薄いが、哨戒艇のそれはもっと薄い。そもそも、艦砲射撃に耐える構造ではないのだ。

 装填が終われば撃つ。それを二度繰り返すと、ポンポン砲が沈黙した。

 エンジンの轟きも消え、つんのめるように停船する。

 その哨戒艇の右舷を通りながら、置き土産に至近距離から砲撃を加える。

 艦橋とその周辺が、爆発して四散した。

「撃ち方ヤメ。 漁船を救助しにいくぞ」

 残り二隻の哨戒艇は、ペンギンに挑むという選択肢を捨てたようだ。傷ついた僚艇を救助に向かうらしい。


 

 

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