第40話 終話
数刻後、北西属州州都ルデニウム、港湾区
短い北西属州の夏がもう終わろうとしている。
冷たい北風が吹き始めたその港湾区の端には、珍しい事に蛮族の船が多数停泊していた。
しかし普通の船で無い事は、船舶のあちこちに刻まれた剣や槍、弓の刃跡に荒々しく踏み均された低い甲板、継ぎ接ぎを重ねた帆を見れば明らかであろう。
その船に近付く商人や旅行者はほとんど居ないが、それというのも明らかに蛮族然とした格好の者達がその船に盛んに出入りしているからでもある。
しかしの蛮船の傍らには、何故か公務船と海軍戦艦が5隻。
加えてよく見れば、その公務船から大きな四角い箱がどんどん岸壁に荷揚げされ、そこからその蛮族の格好をした者達が蛮船に積み込んでいる。
しかし蛮族の格好をしている者達の動きは統制が取れ過ぎており、腰に帯びている武具は拵えこそアルビオニウス人の物を模しているが、柄や刃体は帝国の剣。
「船長殿、手間を掛けたであるな」
「おっと……アルトリウス司令官?いえ、このくらいは手間とも言えませんよ」
公務船の船長は蛮族の戦士長に扮したアルトリウスを見て少し驚いた様子を見せるが、すぐにアルトリウスである事を見て取り笑顔で答える。
そのアルトリウスは公務船の船長が何に一瞬驚いたのか気付き、苦笑を浮かべて言う。
「わはは、どうであるかな?よく似合っているであろう」
「ははは、そうですね、どこから見ても蛮族の戦士長ですよ」
「うむ、何を隠そうこれを用意してくれたのはダレイル族の大族長でな、まあ宝飾品も含めて全て本物である」
「どうりで……」
アルトリウスの言葉に感心しきりの船長。
アルトリウスは防寒長衣に金属の小札を縫い付けたダレイル族の防具に、鞣した怪獣の皮をたすき掛けにし、北方風のアルビオンヘルムを装備している。
剣こそ白の聖剣を帝国風の剣帯で下げているが、自慢にしている深紅のマントも蛮族風の着用方法で、ご丁寧に顎から口に掛けて髭を蓄え、眼帯までしている。
胸元にはアルビオニウスの貴族が良く身に着ける怪獣の牙や琥珀などを装飾してある首飾りを何本も下げていた。
「……いや、ぱっと見ただけでは西方帝国の司令官とは分かりませんね」
その船長の様子を見てアルトリウスも満足げに眼帯を手で上げてから、蛮族に扮した部下達が作業している様子を見る。
彼らもそれぞれが創意工夫をこらし、アルビオニウスの戦士にきっちり扮していた。
「さて、そろそろ終わりであるかな?」
「そうですね、税銀は……もう終わりです。今度は私の船の方に錘を積み込みませんと」
「重ね重ね世話になったである」
何を隠そう、アルトリウス砦に運び込んだのは公務船の船底に積み込まれているバランサー用の錘に使用していた石塊だったのである。
アルトリウスは公務船の船長に協力を求め、税銀の入っていた箱に石塊を移し、逆に税銀を錘の入れてあった箱へ移し替えてルデニウムへ帰還したのだ。
その後、荒れた海域を長く航海したのでルデニウムの港湾区で整備をしていた所へ、ようやくアルトリウスが追いついてきたのだ。
「危険は分散せねばいかんであるしな……命令書には“しばらくの間アルトリウス砦で保管せよ”と書いてあったが、保管期間は不明であるし、その後の処置も決まっていないのであるからな」
もちろん詭弁であるが、アルトリウスは自己の管理下に一瞬置いた事で管理をしたとみなし、すぐさま管理者権限で公務船にルデニウムへの移送を依頼したのだ。
もしそれに難癖を付けられれば、管理者権限でより安全な方策をとったと強弁するつもりであったが、北西属州の浄化でそれも必要なくなり、ただアルトリウスの追い落としと海賊引き寄せに利用された税銀の行き場だけが無くなったのだ。
アルトリウスはこの税銀を使ってもう一芝居打つつもりである。
そこへ後方から丸めた書類を持った監察官のマグヌスがやって来た。
「無事手当は済んだぞアルトリウス」
「おう、監察官殿も出張御苦労であるなっ」
「依頼されてた通行権利書だ」
「うむ、手間を掛ける」
そう言いつつマグヌスの差し出す封緘された書類を受け取るアルトリウス。
その外装には監察官の名札と自由航海権と記された表書きが張り付けられている。
書類を手にしてニヤニヤしている蛮族アルトリウスの余りにも板に付いた様子を見て、マグヌスがため息を吐きながら言う。
「……お前は変わらないなあ」
「わはは、変わってたまるであるか!」
愉快そうに良いながら襷掛けした怪獣の毛皮の下へと書類をしまい込むアルトリウスを見て、マグヌスは苦笑を漏らして言葉を継ぐ。
「全く……どこの世界に皇族の監察官を辺境に呼び付ける辺境担当司令官がいるんだよ」
「ここに居るではないか!」
分厚い胸を張るアルトリウスを見て、マグヌスと公務船の船長は顔を見合わせてしまう。
双方とも処置無しと言った顔で居るのをお互い見て取り、ぷっと吹き出す。
そして満足げなアルトリウスを中心にひとしきり笑う。
マグヌスはしばらくしてから笑声を抑え、それでもひーひーしながら言う
「ま、まあ良い……お陰で北西辺境属州の統治権は皇帝家の元に戻った。力の後ろ盾がまた1つ増えた」
「うむ……まあそちらは宜しくやってくれである。幸いにもポエヌス軍団長は行政経験も持っている優秀な軍団長であるからな、存分に使うと良いである」
マグヌスの言葉にアルトリウスがそれまでの笑みを消して重々しく頷く。
更にマグヌスは懐から木札を十枚ほど取り出す。
「それからこれは交易専用の監察札だ。お前の懇意にしている蛮族に渡してくれ」
「おう、有り難し……これで海賊と友好的な北西辺境部族の区分けができるであるな!」
今度は一転、再び笑顔でマグヌスから木札を受け取るアルトリウス。
それを近くを通りかかった部下に手渡し、アルトリウス砦へ届けるよう指令を出す。
アルトリウスがマグヌスから受け取ったのは交易許可状。
今まで海賊の襲撃を避ける為、アルビオニウス人は北西辺境属州の各港へ船舶での出入りを禁じられており、公務船や西方帝国商人の運営している商船、運輸船での物品搬送を余儀なくされており、これが経済収奪や奴隷交易の一要因となっていたのだ。
アルトリウスは今回限定的ながら、自分の砦に直結した港を開き、ここまではアルビオニウス人の来航を許可するようマグヌスに掛け合ってこれを認めさせたのである。
この許可によって高利を貪る商船や運送船は無くなり、またアルトリウス砦で北西辺境へ西方帝国の船を審査する権能を設け、来航を制限することが出来るようになるのだ。
木札を持って去る部下の後ろ姿をニヤニヤして見送るアルトリウスに、マグヌスが思い出したように声を掛ける。
「ああそうそう、お前の統治の一助になるなら幸いだが……アルトリウス、もうしばらく異動は無いぞ。西方帝国軍司令部も今回の功績を持て余しているらしい」
「ふむ、それはありがたいであるな……我の砦が自由市となるまではもうしばらくかかりそうなのである」
「……相変わらず無欲だな、それに大胆なことを考えていやがる。まあ良い、都市化の暁には監察官権限で無税地区にしてやるよ」
「おう」
マグヌスの言葉ににっこりと微笑むアルトリウスの元へ、蛮族に扮した部下の兵士がやって来た。
「アルトリウス司令官、積み込み完了です!」
「よし、では乗り込め……目標は遙か帝都はレンドゥス総司令官私邸である!」
「……悪戯もほどほどにしておけよ」
アルトリウスの号令にマグヌスは呆れて言うが、当の本人はキッと振り返って力強く言い放つ。
「何を言う!尻尾を捕まえられないのであれば、尻尾を造ってやるである。そしてその尻尾を踏みつけてやるであるぞ!」
「まあ良いが……無茶はするな。決行は俺が到着してからにしろよ?」
「おう!一切承知であるっ!」
2月後深夜、帝都中央街区、軍総司令官公邸
綺麗に整備された中央街区で奇跡的に存在する廃屋の陰に隠れていた一団は、治安官吏の夜間巡回をやり過ごし、小走りに軍総司令官の公邸に向かう。
そして……
「今である!やれいっ!」
その門の前で警備に就いていた私兵へ一斉に襲いかかる黒い影。
慌てて応戦の構えを取る私兵達だったが、その装いを見て恐怖に肝を潰す。
「ば、蛮族の襲撃だあっ!」
濃い髭にアルビオンヘルムを被り、鎖帷子や厚手の布防具を身に着け、手には丸盾と長剣を持っているその集団に襲撃された私兵は、我先にと逃げ出すものの次々と追いつかれて頭を殴り飛ばされ気を失う。
門衛を無力化した集団はその詰め所へさらなる襲撃を仕掛け、休憩していた私兵達にも襲いかかってあっという間に全員を気絶させてしまう。
その後廃屋から次々と木箱が運び込まれ、詰め所の中へと積み上げられた。
「……よし、では邸宅本体への襲撃を仕掛ける」
門が蛮族によって閉じられ、外部からの応援が入れなくなったのを確認すると、隻眼の戦士長は30名ほどの戦士を率いて邸宅の中へそっと押し入った。
平時の公邸であるので、それ程厳重な警備がされている訳でも無い。
廊下に設けられている死兵の詰め所を襲撃するも、全員が仮眠中で敢え無く制圧され、執事や侍女の部屋も戦士達の手によって1つずつ制圧されていく。
やがて戦士達は2階に上がりそこでようやく抵抗らしい抵抗に遭った。
「ど、何所の者だ無礼者!」
怒声を張り上げる将官に率いられた帝国軍司令部の守備隊であったが、蛮族の戦士達は無言で襲いかかる。
「ば……蛮族?この帝都でそんな馬鹿なっ!?」
隻眼の戦士長に斬りかかられた将官が驚きの声を上げるが、一切構わず戦士達は次々と兵士を無力化し、将官も戦士長に腕を切られて呻き声を上げながら倒れる。
「む、むうっ……無念!」
さらにその兵士や将官達は縄でぐるぐる巻きにされ、後続してやって来た戦士達が強引に引っ立てて階下へと下ろす。
それを見送り、一際立派な部屋を見る隻眼の戦士長は、その顔に満面の笑みを浮かべた。
「さて……邸宅の制圧は済んだであるか?」
「はっ、既に家族、執事などは部屋に押し込めてあります。私兵も無力化しました」
「では良し、軍総司令官の部屋に向かうとするであるか」
配下の戦士達の報告に気をよくしたのか、戦士長は見かけの恐ろしさからは考えられないような弾んだ声を出し、スキップしかねない勢いで奥の部屋へと向かう。
そして配下の戦士達が追い付いて来た事を確認してから思い切りその扉を開け放った。
凄まじい音がし、それと同時に寝台から跳ね起きる男。
「な、何事だ!…………ひあえうっ!?」
部屋の入り口に勢揃いした蛮族の姿を見て肝を潰し腰を抜かす男、レンドゥス総司令官を見て戦士長を含めて全員が吹き出しそうになったが、そこはなんとか我慢をする。
隻眼の戦士長は頬を膨らませたまま戦士達に指示を下して退路を断ち、窓から抜け出せないよう総司令官を包囲させると、つかつかと近寄る。
「ひいっ!」
「おう、お前に言われたとおり銀を持ってきてやったであるぞ!」
邸宅中に響き渡るほどの声で言う戦士長に、総司令官は肝を潰しながらも反駁する。
「な、何のことだっ?わしは何も知らんっ」
「ふざけるな!裏金にするから北西辺境属州で集められた税銀を奪えと俺たちに指示を出したではないか!仲間の恩赦に交易許可を付けると、お前は言ったぞ!」
そのまま貫頭衣の胸ぐらを掴み上げ、隻眼の戦士長は総司令官を締め上げる。
「!?き、貴様アルトリウスっ……ぐえ?」
「そんな奴はシランであるなあ~」
総司令官を締め落として気絶させると、隻眼の戦士長ことアルトリウスは部下に税銀の入った箱をレンドゥスの部屋へと運び込ませる。
次いでアルトリウスは私兵や守備兵、それに執事や家族を配下の戦士長に扮したカルドゥスに命じてレンドゥスの部屋に集めさせると、その前から気絶して小便を漏らしているレンドゥスの胸ぐらを掴んでがくがく揺さぶりながら言い放つ。
「お前が北西辺境属州で裏金にするから税銀を奪えと言ったから持ってきてやったのであるぞ!さあ早く恩赦と交易許可状を出せっ」
「わ、分かった、下の階の執務室に恩赦状と交易許可状を用意してあるから持って行け」
擦れた声でレンドゥスに代わってアルトリウスの言葉に応えたのは、アルトリウス。
その遣り取りを聞いた家族や執事が息を飲み、守備兵や私兵が呆気に取られる。
「ふん……しばらく寝てるである」
アルトリウスは、気絶したままのレンドゥスをぽいっと寝台へ捨てると、部下に顎をしゃくって指示を出す。
しばらくして配下の戦士長に扮したロミリウスが、書類らしき物を束にして抱えて持ってきた。
「ありました戦士長」
「よし、長居は無用である……貴様らは証人だ。殺しはせんが縄も解かぬ。我々が帝都を脱出するまでこの部屋で大人しくしておれ!」
そう言い置いてアルトリウスは部下を率いて撤収を始めた。
数刻後、帝都港湾区、蛮船上
騒がしくなり始めた帝都を見てほくそ笑むアルトリウス。
姿は先程までとは全く違い、帝国軍の将官として鎧兜にマントを身に着けており、これは部下の兵士達も同様である。
「ふむ……首尾は上々だな」
その前でアルトリウスの持ち帰った書類を吟味しているのは監察官マグヌスで、アルトリウスは交易許可状や恩赦状と偽ってレンドゥスの書斎から多数の不正書類を持ち出してきたのだ。
「これだけ証拠が揃っていれば否認も出来まい……早速この混乱に乗じて総司令官公邸に手入れを入れよう」
「うむ、後事を任せ切りにしてしまうのが申し訳ないのであるが……頼んだである」
「ああ、任せておけ……お前は早く北へ戻れ、アルトリウス」
マグヌスはにやりと不敵な笑みを浮かべるとアルトリウスの肩をとんと拳で叩く。
アルトリウスは今ここには居ない、遙か北西辺境属州で今も砦を守っていることになっているのだ。
その実砦を守っているのはメサリアに蛮族の傭兵戦士達。
アルトリウス隊の200名全員を今回の作戦につぎ込んだので、イヴリンとレリア、メサリアとその配下の蛮族戦士達に後事を託しているのだ。
蛮族戦士に丸っきり砦を任すなど前代未聞のことだが、アリバイ造りの為に他から兵士を融通することも出来ないので、アルトリウスはこの作戦を決行したのである。
特に今のところ問題は起こっていないようで、砦は交易拠点として以前の活気を取り戻しつつあるようだ。
「うむ、友よ、ではまたな!」
「ああ、元気で活躍しろ、友よ」
更に数か月後、アルトリウス砦
海賊との激戦があったとは思えない程アルトリウス砦は穏やかな毎日が続いている。
逆茂木やスティルムス、リリウムなどの防御設備がすっかり取り除かれ、厳しく閉められていた砦の扉はまるで無い物かのように大きく開かれていた。
水堀だけは清らかな水をゆっくり下流に向けて流しているが、それも防御設備と言うより砦を訪れる人の憩いの場としてベンチや休憩所を設けた公園となっている。
砦の大通りはすっかり軍事色はなりを潜め、西方帝国の商人とアルビオニウスの族民達が入り交じって交易をし、物の売り買いをし、交渉ごとを行っており、盛んに馬車や歩行者が行き交っていた。
ここが砦であるというのは、高い外壁とそこに設けられた防御設備、更には東西南北に設けられた申し訳程度の検問所と時折巡回してくる完全装備の兵士だけが示している。
その砦の北門に向かって1人の伝令兵がゆっくり歩いてやって来た。
以前の伝令兵と違い、南門で馬を下りたその伝令兵の髪は金色で目は青い。
西方帝国人とは明らかに違う風貌だが、その装備は何所をどうとっても西方帝国の伝令兵である。
彼はやはりかつての伝令兵と違い、周囲の喧騒に目を丸くしてはいるものの、その目に蔑んだり忌まわしい光は帯びていない。
彼は爽やかな笑顔で通りを北側に向かうのだった。
「ふむ……どうやらレンドゥス総司令官が更迭されたようであるなあ~」
「……そうですか」
活気溢れるアルトリウス砦の喧騒を下に聞き、北門の上に設けられたアルトリウスの相変わらず質素な執務室。
そこで州都ルデニウムから転送されてきた通知文を読みながらアルトリウスが言うと、言葉少なくレリアが応じる。
「じゃあこれでしばらくこの砦も安泰ですね?」
「わっはっは、あんだけ脅かされたんじゃ今後の任務にも差し支えるってもんですぜ!」
続いてロミリウスとカルドゥスも笑顔で言う。
「この周辺の族民の生活も落ち着いた、これもアルトリウスのお陰だ」
「……港も順調、海賊も居ないしダレイル族からも交易船が来ている」
続いて言うのは完全装備のイヴリンと、普段着姿のシルヴィア。
2人とも笑顔であるのは言うまでも無い。
「……皆さん、早く仕事して下さいっ」
ただ1人、しかめ面で山のような書類を抱えてやって来たのはメサリア。
第10軍団の輜重隊長であった彼女も正式にアルトリウス砦の司令部付き隊長、つまりは行政担当の将官として転属してきたのである。
ドサリとアルトリウスの机の上に決裁書類を置き、更には臨時雇用されているアルビオニウス人の作成している書類を見て回ってから自分の机に戻る。
「……仕事して下さい司令官」
「お、おう」
アルトリウスはメサリアに気圧されて決裁書類の審査と署名を始める。
しばらく書類を見ていたアルトリウスは太めを空けて外から聞こえてくる喧騒に耳を傾け、目の前で書類をあれやこれやといじっている帝国人やアルビオニウス人の姿を目に留めてふと笑みをこぼす。
「……どうかしたかアルトリウス?」
護衛として付いているだけのイヴリンがその笑みに気付いて問うと、アルトリウスは笑みを深くして口を開いた。
「ははは、ようやく我も何かを残すことが出来たのであるな!たとえ明日我が左遷されたとしても……」
「「左遷?」」
驚いてその場に居た全員が顔を上げたことに、アルトリウスが驚いて顔の前で手を振って言い足す。
「あ、いや……たとえである、たとえ」
ほっとした様に胸をなで下ろす面々を見てアルトリウスは笑みを深くし言葉を継ぐ。
「我が居なくなってもこの場所はこのまま維持されることであろうな!」
アルトリウス砦はこの後砦としてでは無く、順調に都市として成長し、その名を冠したアルトリウス隊長が離任し、北のハルモニウムで敢闘虚しく討たれたその年、晴れて西方帝国の新都市として認定される。
その名もコロニア・アルトリア。
かつて辺境の1砦に過ぎなかったこの都市は、基礎を築いた将官の記憶と共に北西辺境属州第2の都市となるのだった。




