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ミネア②




「確かに俺は適当に頼むとは言った。それは認めよう。俺は自分の発言には責任を持つ男だからな。だがな、これはさすがに無いだろう、客商売的に」

「サワーの水割りの何が不満だ?」

「不満しかない。元々酒をソフトドリンクで割った物がサワーだと言うのに、そこに水を加えて9:1で割った、度数が1未満のものを酒と胸を張って言うようなバーは潰れた方が良い」

「嫌なら飲むな。そして飯を注文しておきながら食わないとは、どういう了見だ?」

「ああ、誤解しないで欲しいが、別に俺は出された料理に嫌いな物があったとか、こんな物が食えるかと投げ付けてやりたいぐらい見た目が酷いだとか、そんな理由で食いたくない訳じゃない。むしろ、見た感じはとても美味そうだ」

「なら食えよ」

「一緒に出されたナイフとフォークから人間のものと思しき血の臭いがプンプンしなければ、是非ともそうさせてもらってたな」

「いま出せる食器はそれしかないな。何だったらこっちと変えるか?」

「そっちに至っては乾いた血がこびり付いてるじゃねえか。それも先端が欠けてるし、明らかに人様に突き刺した後放置しただろう」

「文句あるなら大人しくそれを使え。それが嫌なら手掴みか、もしくは代用品を自分で用意するんだな」

「是非そうさせてもらう。それと最後に1つ聞きたいんだが、そこの出入り口の側に箒を立て掛けたのには何の意味がある?」

「何の意味もねェよ。ただ店内の清掃に使う箒の定位置があそこなだけだ」

「そうか。こういう店を掃除するにはモップを使うことを是非ともお勧めする」

「検討しといてやる」


 すごいですねえ、主に敵愾心が。

 いや、私もこの人は敵と認定してますけど、それ以上にシロさんの敵意が尋常ではないです。

 一体この人は過去に何をやらかしたのでしょうか?


「で、個人的にはさっさと【死神】のガキの居場所を教えて欲しいんだが?」

「顧客の情報は売らねえよ」

「誰も売れなんて言ってねえ。ただ教えてくれればそれで良い」

「客商売舐めんな。どこに自分の商品をタダでくれてやる商売人がいるんだよ」

「なら交換でどうだ? こっちも良い情報をくれてやる」

「乗らねェよ。どうせ忘れてそっちが得するだけだ」

「よく分かってるじゃねえか」

「あの、ちょっと良いですか?」


 2人が私の方を見ます。カインさんの方は、初めて私に気が付いたと言わんばかりの表情です。

 仕方ありませんね。かの有名な【レギオン】に属せるほどの実力者からすれば、私など取るに足らない矮小な存在でしょうから。


「誰だお前は?」

「失礼、私はミネアと言います。ジンさんの許婚です」

「なっ、あのガキ勝ち組だったのか!?」


 何でしょう、やはり印象どおり頭の悪い――いえ、決して頭が悪い訳ではなさそうですが、同時に馬鹿っぽい方のようです。

 頭が良い事と馬鹿は両立するという好例でしょう。まあ言うほど頭が良い訳ではなさそうですが。


「嘘ですね。と言うのも嘘でそれも嘘の嘘の本当の嘘の嘘の嘘の本当です」

「……つまりどういう事だ?」

「言葉の裏表を追って一生悩み続けたら良いです。貴方でしたらそれで1日丸々を潰せる素質があります」

「お前に俺の何が分かるんだよ」

「少なくともあまり深い付き合いになりたい人なのは確かですね。そういう貴方こそ私の事が分かりますか?」

「お前、能力者だろ?」


 いきなり不躾な質問ですね。しかも脈絡がない。

 ただまあ、ここは正直に答えておきましょうか。この類の質問は、出された時点で下手に嘘を吐いたところで相手は納得しませんから、むしろ肯定した方が良いですからね。


「ええ、そうです。よく分かりましたね?」

「分かった訳じゃねえよ。単純に俺でも感じ取れるぐらいの魔力を持ってる奴には全員に同じ質問をしてるだけだ。その反応で真偽を確認する為にな」

「意外と私の保有魔力って少ないんですけどね。少なくとも多少魔力探知の訓練を受けただけでは感じ取れませんよ」

「これでも【レギオン】に属していてな。多少はその感覚も鍛えてある」

「そうですか」


 いやはや、しかし中々質問の意図が鋭いですね。評価を倍くらいに上げて――あっ、駄目ですね、マイナスを掛けたらもっと酷い事になります。


「で、何のようだ?」

「ひとまず整理しましょうか。お互いに相手の意図を知らずに否定し合ってては不毛すぎます。まずカインさんでしたっけ、貴方はどうしてジンさんの居場所が知りたいんですか? ここで大人しく待つと最初は言っていたでしょう」

「だから、待ってても来ないから居場所を教えろって話なんだよ」

「いや、貴方がここに来てまだ1時間も経ってないでしょうに。それなのに待っても来ないとか――」

「1時間近く経っても来ないのが異常なんだよ」


 チリンと鈴が一際大きく鳴ります。カインさんが、自分の剣の柄に手を掛けた為です。


「俺がこの店に来た時点で、こいつらはあのガキに何かしらの合図を送ってる筈なんだよ。何故なら、俺にとってこいつには何の価値もないという事を、他でもないこいつが理解しているからだ」

「価値がない、ですか……」


 つまり、その気になれば簡単に殺せると、そういう意味ですか。


「ああ、勘違いするなよ。別に俺はこいつだから価値がないと言ってる訳じゃない。俺にとっては、お前も、そしてどっかに居るであろうグルグル巻きのチビも等しく価値がない」

「そりゃ、初対面の私と貴方に何の接点もないんですから当然でしょう」


 あと、グルグル巻きのチビって誰ですか。


「そういう意味じゃねえよ。単純に、お前らが能力者だからだ」

「…………」

「俺にとっては、能力者の大半が等しく価値がない。ああ、同じ【レギオン】所属の能力者は違うぜ? 単に仲間だからじゃなくて、あいつらは他の連中と違ってふんぞり返ってないからな」


 ふんぞり返る……驕ってる、あるいは慢心している、そういう事でしょうか?


「逆にあのガキは良い。あいつは無能者で、それでいて能力者と戦える。真に価値ある存在だ。

 ともあれ、その合図を送れば即座に来る筈のあのガキが来ない――それが意味するのは、あいつが抜き差しならない状況下にあって合図を送れないという事だ。

 その状況が何かは分からないが、個人的にあいつを評価している俺としては、是非ともお邪魔したいと思ってる訳だ」

「……シロさん、もしかしてこの人って、スト――」

「それ以上は指摘してやるな」

「否定しないんですね」


 とりあえず危険度はもう3段階ほど上げておいた方が良さそうですね。


「誰がストーカーだ」

「ハッ、散々あいつの事を勧誘していた奴が何言ってやがる。両手の指じゃ足りねェだろうが」

「あっ、これはモノホンですね」


 自覚がないとか最悪の類じゃないですか。


「大体、何が能力者に価値は無いだ。他でもないおまえが能力者だろうが」

「ほんとそれな。つくづく自分が無能者だったら、どれだけ楽しい人生だったかと思うぜ」

「……それはお前が能力者だからこそ言える事だって、あいつは言ってたぜ」

「知ってる。前々回聞いたからな。ついでに殺し合いにもなった」


 最低最悪ですね、この人は。やはり敵です。元々揺らいで無かったですけど。


「で、内臓を吹き飛ばされたから報復してやろうってか」

「だから勘違いするな。あれは全面的に俺が悪いし、恨んでもいない。さっきも言ったとおり、あいつとは対面する必要があるってだけだ。ついでに、もしかしたらあいつが差し掛かってる状況はもしかしたら俺たちにも関係があるかもしれないからな」


 つまるところ、ゾルバ絡みという事ですね。


「……ふむ」


 良い事を思い付きました。


「で、改めて聞くが、あいつの居場所はどこだ?」

「返答は同じだ」

「そうか、俺としても手荒な真似はしたくはないんだがな。俺からすれば無価値だが、あいつからすればお前たちは価値があるみたいだからな」

「やめておいた方が良いですよ」


 あんまり騒ぐと、痛い目を見ると思います。


「お前の、方こそ……そんな真似が、許されると、思うか……?」


 ほら、ベスタさんが来ましたよ。

 この店での粗相は、他でもないこの人が許しません。


「随分と遅い登場だな、ちんちくりん。てっきり勝ち目が無いから逃げたかと思ってたぜ」

「黙れ……灼熱のマグマに、落とされるか……極寒の氷河に、落とされるか……好きな方を、選べ……!」

「つまり、まだどっちか決めてないんだな」


 何やらカインさんが懐から銀貨を3枚取り出して背後に向けてます。指弾代わりにするつもりでしょうかね?


「だったら、俺の方が速い……って誰だぁ!?」

「まあ、そうなるよな」


 うるさいですね。常時チリンチリン鳴ってる鈴もそうですが、いまの声はそれ以上です。


「誰って、ベスタさんですよ」

「いや誰だよ、マジで! お前マジで誰!?」


 何て頭の悪い言葉なんでしょうか。聞くに堪えませんね。

 誰も何も、どっからどう見てもベスタさんでしょうに。


「カインさん、1つ提案――というよりも質問があります。正直に答えてくだされば、ジンさんの居場所を教えましょう」

「おい、一体どういうつもりだ?」

「シロさんは黙っててください」


 それとベスタさん、殺気が痛いです。収めてください。


「例えばの話ですが、ティステア神国内でも屈指の能力者と戦ったとして、貴方は勝てますか?」

「……勝てるな。ほぼ確実に」

「本当ですか? 聞いたところによりますと、ジンさんにやられた経験がお有りのようですが」

「お前はパーでチョキに勝てるのか? つまりはそういう事だ」

「そうですか……」


 とりあえずこの人が死んでくれたら万々歳ですね。


「ジンさんは中央公園に居ます。いま現在進行形で交戦中ですよ」

「……お前、名前は? フルネームだ」

「ミネア=ラル・ウフクススです」

「そうか。どうせお前は俺の事を忘れるだろうが、俺はお前の事を覚えておいてやるよ」


 はて、どういう事でしょうか。

 もしかして、この人の能力は精神感応系だったりするんでしょうかね。ですが何の干渉を受けた形跡もありませんし、万が一受けても抵抗しますが。


「また近いうちに会うだろうが、それまでお別れだ」

「2度と会いたくないです」


 ついでに向こうに行ってくたばってくれれば良いです。

 ジンさんとの関係は分かりませんが、あわよくば良い感じに削り合ってくれれば最高ですね。


「……あれ?」


 今まで誰かと話していた気がするんですけど、誰と話していたんでしたっけ?










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