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まずは手合わせ

気が付いたら一年経ってました。

皆さんの応援などのおかげでここまで来れました。

バンザーイ!

 で、結果頼み込んだのはダハーカに龍皇、魔王に爺さんとこれでもかと言わんばかりに頼み込んだ。

 いや最近本当に事務仕事ばっかりだったから身体鈍ってるんだよ本当に。それからないよりはマシかと思い、自分で飯も作っている。調教師のスキル効果で少しでも身体の方が追いつける様に頑張った次第である。


 余談ではあるが魔王も俺の飯を食った時、何故か気に入った様だ。味の他に力が湧いてくるとかなんとか、妹さんの方も何も言いはしなかったが残さず食べた。

 という事で食事による内面からの強化と修業による外側からの強化に全力を出すのである。


 -


『儂が言うのも何じゃが……本当に全員を相手にするのか?』

「頼むよ爺さん。いつ攻めてくるか分からない以上急務なんだよ」

『良いではないかフェンリル。本人が良いと言っているのだから』

『しかしダハーカよ、本当にこれ全員を相手にするのか?』

「フェンリル殿、リュウは本気の様なのだから一思いにしてしまおうではないか」

『まぁフェンリル殿の心配も当然と言えます』

 俺の前に居るのは爺さんにダハーカ、龍皇に魔王と現在大森林の中でいる強い奴勢揃いだ。人型でいるのは魔王だけ、後は全員本来の姿でいる。

 何故魔王だけが人型でいるのかというとこの方が対人戦には向いているらしい。本来の姿だとどうしても身体が大き過ぎて森の中では不自由だし、今回の敵は俺一人なので必要以上に身体を大きくする必要もないからだそうだ。

 逆に集団戦であるなら本来の姿で上空から炎を吐き、全て焼き尽くすのが主なやり方だとか。


「修業に付き合ってもらう代わりに飯は作るからさ、頼むよ~」

『ならば……良いか。本気の様じゃしの』

『私は始めから問題ないと言っているだろう。リュウの心はそんなやわではない』

『しかし……孫娘の婿だぞ。あとでリルから何か言われたら……』

「止めぬかフェンリル!私は以前カリンにやり過ぎだと怒られた事があるのだからな!それを思い出すだけで涙が……」

『それはダハーカ以外の全員に言える事ではないですか?私の娘だってリュウの妻なのですから』

「あの……そういうのは本当に大丈夫なのでそろそろ良いですか?」

 親として考えるべき問題なのかも知れないが修業だから手を抜く必要はないはずなんだけどな……やっぱりアオイも呼んどいた方がよかったかな……

 アオイがいれば気にするなの一言でまとまる様な気がするし。


『それでは、始めようかの』

『クックック。楽しい時間になりそうだ』

「指南の事は聞いてたがまさかお前達と共闘する事になろうとはな」

『これもまた一興、という事でしょう』

 ようやく四人が戦闘態勢に入る。

 以前燃やされた防具はまだ修繕中、ドルフがこっちに居るのでその際に防具の方も新しく作ってもらっているんだが……かなり時間が掛かっている。

 まぁ俺も、いっその事前よりいい素材で防具を作ってもらおうと張り切って素材集めした結果、以前より性能はいいがその分加工に時間が掛かってしまっているのだ。

 服のデザインはドルフ任せなのだが、今回の素材はカリンの羽だけではなくオウカとアオイの自然と落ちた鱗、リルの抜け落ちた体毛を紡いだ糸と嫁達の身体の一部だったものを利用しまくって製作している。さらに後からではあるがダハーカとマークさんの手によって防御系魔術も付与するとの事、素材が良い分強力な魔術を付与できると張り切ってたな。

 ドルフもそれを知ってから張り切ってる。今回の鎧に全力を出してこれ以上ない傑作にしたいと活き込んでいた。

 と言ってその分時間が掛かっている様だが……戦いの前に仕上がると良いんだが。

 無い物は無いのでスキルで頑張るとしよう。


 お互いに構え、少し辺りが静かになったと思った瞬間、ダハーカの攻撃魔術が襲ってきた。いきなり全方位から襲ってきた魔術を俺はわずかな穴を見付けてそこから逃げ出す。見付けられたのは『生存本能』のおかげだろう、と言ってもまだ脅威は去ってない。


 初めての連携のはずなのに魔術同士がぶつかり合い、爆発した直後に爺さんの大きく開いた口が見えた。まさかあの穴は俺を捕まえるためにわざと空けていたのか?爺さんの顔を横にして噛み付こうとして来ていたのでそこから跳んで回避する。

 が、またそれも計算の内なのか俺を狙って力を溜めていた龍皇と魔王が同時にブレスと炎が襲ってきた。流石に避けれないのは分かっていたのでロウを抜き、居合で切り裂く。


 それ以上はわざと攻撃してこなかった。俺は地面に足を付けて少し乱れた息を整える。


『やはりこの程度は防げたか』

『鈍っておると言っておったから今のも防ぎきれんかと思っとったが問題なさそうじゃの』

『しかしやはりあの脇差も中々の物ですね』

「まさか貴様の炎と私の炎が切られるとは」

 普通ならとっくに終わってる。というか殺された事にすら気付けずに死んでいる。そういう攻撃だ。

 しかも全員初めて組むはずなのにあのコンビネーションは流石としか言いようがない。


 俺は今使える全スキルを発動させた。

 初めて目の前に居る四人が驚いたような顔をする。魔王化した際に手に入れたスキルは別にリル達と『一体化』しないと使えない訳ではない、しかしその方が安定するのも事実だ。おそらくリル達と魂の契約を結んでいて、俺の中にあるリルやカリン達へに憧れの様なものと、リル達の思いがこのスキルを作り上げたと勝手に思っている。

 その影響によって得た加護という名のスキル達は俺にとても馴染んでいる。常にリル達が隣にいる様な、温かい、何かが俺を包んでくれる。


 と言っても今の俺の見た目がぐちゃぐちゃだ。俺の肉体そのものではないが俺を包むオーラが狼の耳と尾、ガルダの翼、手足はドラゴンの爪と鱗に覆われて、統一性が全くない。

 まぁ見た目なんかどうでもいい。これで全力だ。


 眼の前に居る四人は無言で改めて構える。そして今度は俺の方から襲い掛かった。

 四本の指に力を込めてその場で斬撃を飛ばす。真っ直ぐにしか飛ばない斬撃は攻撃が目的ではない、ただ四人を引き離したかっただけだ。


 そして一番離れたのは龍皇、俺は全力で龍皇に立ち向かう。龍皇と拳がぶつかると辺りに大きな衝撃が走る。お互いの拳と拳がぶつかる度に枝葉が揺れ、騒めく。そうしている間にも爺さん達がこちらに来るかもしれないと考えて警戒していたが来る様子がない。


 もしかしてタイミングを探っている?いやこれは一対一にして戦わせるつもりの様だ。俺にとってありがたい状況だしやっぱり四人同時はきつ過ぎた。

 と言っても全方位を注意しながら殴り合いは続く。俺はオーラで身を守っているが龍皇は己の鱗だけで身を守っている。

 そして不意に後方から何かが俺の首を狙って来たので頭を下げる。狙ってきたのは尾だ。龍皇が一部人型を解除し、その尾で俺の首を狙ってきたようだ。

 避けた後その伸ばしてきた尾を捕まえて龍皇ごと回転し、遠くにぶん投げる。


 ぶん投げた後即座に魔王が蹴りを食らわしてくる。俺はギリギリのところで蹴りを防いだ。

 その後も魔王が炎を纏った蹴りが鞭の様に襲う。両腕で防いでいたが受けている間にも蹴りの速度と重さが増し、両腕が痺れてきた。蹴りを中心に攻撃してくるので腕ではリーチが足りず、少し苦戦する。


 元々俺の攻撃は基本的に手で行ってきたし、蹴りを中心に攻撃してきた事はあまりない。それでも今回から少しずつ学んでみるか。

 魔王の動きをよく観察し、脚の動かし方をよく見る。おそらく女性の関節の柔らかさも関係してきているのでその辺は男の関節ではどうしても再現する事は難しい。なのでよく観察しつつ男でも出来る脚の動きを考え、実行した。


 龍皇の時とは違い脚と脚でぶつかり、僅かに俺が押される。慣れていない事とまだまだ見様見真似である事が要因だろう。

 けれど初めて蹴りを繰り出した時に魔王は少し驚いた後笑っていた。そしてさらに力と火力を増して蹴りによる攻撃を脚で防ぎ、脚で攻撃した。

 さらにここから魔王の真似をしてオーラと魔力を脚に集中し、大きく繰り出すと魔王は一度下がった。勢いあまって一回転していると今度はダハーカが俺を襲ってくる。


 襲ってくると言っても今までのように直接殴ってくるなどではなく魔術による攻撃だ。相変わらず数えるのがバカバカしくなる程の数の魔術に俺は防御用魔方陣で防いでいるが防いでいない部分、足が凍らされていた。そしてすぐさまダハーカは身体能力強化系付与(エンチャント)で接近戦に持ち込んでくる。

 足が凍らされたと言ってもオーラの上からなので足そのものは動く。だから動く足で思いっきりダハーカを蹴り上げた。


 蹴り上げたと言ってもほんの少し仰け反った程度なのですぐさま攻撃魔術で反撃する。ダハーカ程の数では質が悪くなり、ろくにダメージを与える事も出来ないので一発、一発を丁寧に組み上げ食らわせる。

 少しだけ離せたがどうせろくにダメージは与えられていないので俺も身体能力強化系付与を付けて対抗する。


 ダハーカの強化された拳を流して懐に入り鳩尾に強い一撃を入れるが、やはりあまりダメージを負ったようには見えない。ダハーカは俺の頭の上から魔術で攻撃する。慌てて下がるがその際にダハーカの鋭い爪がオーラを破り、貫こうとするがオーラによって肉体に直接攻撃が入る事は避けられた。

 それでも後ろの木に激突したがダメージはない。


 攻撃してくる気配を感じ、前を見ると見えたのは大きな口だ。どうやらダハーカと交代して爺さんが攻撃を仕掛けてきたらしい。

 流石にこれは避け切れないと判断した俺は手足にオーラを強く流し、爺さんの牙を手と足で食いつぶされない様に口の中で踏ん張る。爺さんの牙がオーラを破り、手と足が牙に食い込み血が少し出るが俺は勢いよく後方に跳ぶ事で食われるのを回避した。


 地面に着地した瞬間俺は爺さんの懐に入り、思いっきり腹部に拳を入れる。

 少しだけ浮いたと思ったら爺さんは回転して後ろ足で俺を蹴った。流石にこれは俺も予想できていなかった。追撃とばかりに爺さんの爪から斬撃が飛んでくるが俺もオーラによってできた爪で弾きながら斬撃を受け流す。


 すると今度はまた龍皇が攻撃を仕掛けてくる。

 どうやらこうやって交代しながら俺の修業に付き合ってくれるようだ。確かにこのやり方の方が長時間の修業にはいいのかも知れない。

 あとの問題はこれが終わった後の献立を考える暇があるかどうかぐらいだろうか。


 -


「ちょっと何あれ?あれって本当に修業なの?」

「修業…………のつもりんだろうね。リュウっていつの間に人間辞めちゃったんだろう?」

 大分遠くからティアとタイガはリュウの修業の様子を見ている。

 切っ掛けはアリスが明日リュウが修業を開始すると聞いたので勇者パーティー全員がどのような物か見に来たのだ。しかしそれは勇者から見ても普通じゃないのは直ぐに分かった。


 修業として付き合ってくれていたフェンリルの長、部屋を貸してくれているドラゴンの皇、さらに伝説とされている邪龍に現役の魔王と対峙している。それが一体ずつとはいえ連続で戦い、いつ終わるかも分からない修業に身を投じているのだから。


「……リュウの奴、俺達をどのぐらいまで鍛えるって言ってたっけか?」

「確か最低でもドラゴンを倒せるぐらい、だったはず」

「…………あれだけ強ければドラゴンが最低とか言っても逆に普通ですね」

「むしろドラゴンでいいんだって思っちまうのが不思議だ」

「リュウさんは色んな意味で特殊ですから皆さんは気にしなくても良いと思いますよ?」

 勇者パーティーの疑問にアリスが答えるが反応が鈍い。

 これは完全に感覚がマヒしているなとアリスは感じた。確かに伝説の存在に修業を行けてもらえるだけで既に異常なのだが、さらにそんな存在と戦っている時点でさらに感覚がマヒしてもおかしくはないだろう。


「それより皆さん、そろそろ危ないので行きましょう。巻き添え食らいますよ」

「もう少しだけ……」

「ダメです!そろそろ激しさがさらに増してくるはずですから!」

 ちょうどアリスがそういった時だ。

 リュウの放った魔力と龍皇のブレスがぶつかり轟音とともにとてつもない衝撃波が勇者パーティーを襲った。その影響で勇者達は転がり、木にぶつかる事で止まった。


 ティアはそんなリュウの様子を見てさらに強くならないと、強く思った。

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