昼飯
こうして俺とカリン、エレンは一度ティア達の所に向かった。流石に子供達も腹を空かせて狩りに行っているだろうからもう鬼ごっこはしていないと思うが。
そう思いながら行くと意外な事にまだ子供達は狩りに行っていなかった。鬼ごっこをしている雰囲気もないが皆一点に集まっている。すると最年長の子供が俺を見かけると一度吠えた。
「どうかしたか?」
誰かが怪我でもしたのかと不安になって皆が居る場所を覗くと意外な姿が目に入った。
「ぜぇぜぇ……」
「げほっ!げほっ!」
「はぁはぁ」
「「…………」」
「きつ……過ぎだろ……」
「あいつ、やっぱり……バケモンだ」
グロッキーな勇者パーティーが居た。全員青い顔をして気持ち悪そうにしている。
ティアはうつ伏せで倒れているし、タイガは木に寄り掛かってせき込んでいる。グレンさんは四つ足を付いて汗をだらだら流していた。マリアさんと魔術師の人はほぼ死にかけている。鍛冶師の人は大の字になって愚痴って、ゲンさんは唯一立って休んでいた。
俺も昔は……ここまでは酷くなかったぞ。それに何だか臭い、誰か吐いたな。
「私ちょっと焼いてくる?」
「止めとけ、燃やしたら余計臭くなる。それよりは穴掘って埋める方が良いんじゃね?」
「それより勇者様達大丈夫なんですか?」
「それは今から確認だな。おーい生きてるか?勇者達」
「…………あ、リュウ。…………手加減、して」
顔色が悪いが何とか答えるティア。ゲンさんと鍛冶師の人は俺を見ているが声を掛ける余裕はない様だ。他四人は反応する余裕すらない様子。
「それを俺に言われてもな、これから狩りに行けるか?」
「……悪魔」
「悪魔に失礼だ。狩らないなら昼飯抜きになるぞ?今日から自力でだからな」
「…………本当にリュウは、そうやって生きてきたの?本当に?」
プルプルと震えながらなんとか地面に腰を下ろしたティア。その瞳は疑いに満ち溢れていた。
「一応、かな?そりゃ最初の頃はへとへとの状態だったし狩りも皆でした。でもお前ら最初の頃の俺より圧倒的に強いだろ?」
「それでもキツイよ。それで、狩りって動物?」
「もしくはそれに近い魔物だな。オークとかどーよ?」
「…………良いの?魔物でしょ?」
「俺が狩らないのは知性のある魔物だけだ。知性のない獣同然の魔物なら普通に狩って食ってるぞ」
「そうだったんだ。それじゃ簡単な獲物でお願い」
「りょーかい。それじゃ皆起きろ!狩りするぞ!」
手を叩きながら言うと仕方なくと言った調子でノロノロと起き上がる。こうして見るとやっぱりなんだかんだで体力とかあるんだな。
スキルを使用し、手頃な獲物を探す。遠くないけど強くない獲物は……あ、こいつとか良いかも。
「見付けたから行くぞ」
「……ところで気になってたんだけどその女の子は?」
ティアがカリンの後ろに隠れていたエレンを見付けていた。エレンは一瞬ビクついていたがオドオドしながらも自己紹介をする。
「えっと、私はエルフのエレンです。こんにちは」
「リュウの所にはエルフも居るの?」
「まぁ縁あってな」
「エルフって魔物じゃないでしょ?」
「え、魔物だろ?」
お互い目を合わせてしばらく見つめ合う。俺とティアの間ではエルフの認識は違うようだ。
「私魔物って思った事ないけどどうしてリュウは魔物って言うの?」
「そりゃ魔力の質だろ。人間と言うより魔物に近い質だから魔物と同じだと思ってた。ティアは何で魔物じゃないって思うんだ?」
「だってドワーフの人達を魔物って呼ぶ人はいないよ。だからエルフも同じように魔物じゃないって思ってたんだけど……」
ああ、そう言う事。確かにドワーフ達は亜人として認められている。でも亜人と言う事は人間に近いけれど人間ではない、と言われているのと同義だ。おそらく人間と上手く共存して行った事で魔物扱いがされなくなっただけだろう。
それに比べてエルフは人間と共存せず大森林で生活していた。人間に近いが魔物として生きているとでも思われていたんだろう。だからエルフは亜人と呼ばれつつも裏側で狩られていたんだろう。
「ま、その辺は俺達じゃなくてエルフ達に決めさせればいいさ。エレンはどう思う?」
「えっと、魔物が良いです……」
「じゃ、魔物って事にしようか」
「本当にリュウは簡単に決めるね……」
呆れた様に言うティアだがこればっかりはな。元々種族を決め付けて来たのは人間の勝手だ。本人達がどう思っていようともな。
ティア達を連れて森の中間付近で獲物を探す。俺が探知した獲物はこの辺のはずなんだが……
「おいリュウ。一体ここでどんな魔物を狩ろうとしてんだ?」
鍛冶師の人が俺に聞いてきた。そういや何を狩るかまだ言ってなかったな。
「今日の昼飯は熊だ」
「熊?熊って食えんのか?」
「食えるよ。と言っても調理法によっては直ぐに不味くなるからすぐには食えないけど」
「熊のお肉美味しいよね」
「でも私も初めてあの魔物の肉を食べたんですがあんなに美味しかったんですね」
「エルフはあの魔物の肉って食ってなかったのか?」
「だってとっても強いです。精鋭の皆で頑張ってようやく仕留められる熊じゃないですか。簡単に仕留められるのはリュウ様だからです!」
そうかね?ある程度強ければ他の魔物達も普通に仕留められると思うんだが?エルフ達も力が弱い訳じゃないし、そこは単に安全性を求めての判断だろうな。
「あの、エルフが頑張ってと言うところに不安を感じるのですが……どんな熊の魔物ですか?」
「索敵だけで見た目とかは……あ、居た」
俺の目線の先には5m程の茶毛の熊が居た。体格から察するに雄、ジャイアントボアの子供を食っている。恐らく顔は血だらけだろう。
「あいつだよあの熊。名前は知らないが量も味もかなり良いぞ」
そう言うがティア達の反応が悪い。見つからないように小声で喋っていたがそのせいで聞こえなかったのだろうか?
するとタイガが俺の胸ぐらを掴んで器用に小声で怒鳴る。
「あ、あれ『大地大熊』じゃないか‼A+級の魔物だよ‼」
「A+とかはよく分からんが問題ないだろ?ティア達全員で仕留めに行くんだから」
「万全の状態でもほぼギリギリ狩れるかどうかの相手なんだよ‼鬼ごっこで疲弊してるのにどうやって!」
「大丈夫だって。本当に危なかったら俺も助けに入るからさ」
「それでもだよ‼ああ、いつからリュウはこんなに常識外れに……」
もう怒鳴るのにも疲れたのかしゃがんでいじけ始める。他のパーティーメンバーも本当に狩るのかと目で訴えている。
そして俺親指を立ててこう言った。
「ゴーだ。もう奴さんも俺達を仕留める気だぞ」
そう言うといじけてたタイガを含め、俺とカリンとエレン以外はようやく熊の方に視線を向けた。
のっそりと歩いて近付いて来る。あいつは大食漢で雑食、肉の他に木の実も食うが大抵は肉を好んで食らうので基本的に襲って来る。
俺とカリンは魔力を抑えているので抑えてないティア達は気付かれた。エレンはまだ子供だし、俺が守ってやるがティア達は別だ。これも修業、命を懸けた修業だ。こういう危機感のある修業も大事だろ。
「そんじゃ頑張りな。食われんなよ」
「「「こ、この人でなしー!」」」




