手紙
聖女を森の外に追い出してもらった後、聖女の事はティアとタイガの方からグレンさん達に伝わった。
聖女と俺は反りが合わず、聖女は一人修業のため教会本国に向かったと言った。マリアさんや魔術師の人は驚いていたがグレンさんとゲンさん、鍛冶師の人はそんなに驚いた様子もなかった。少しは予想出来た事という事なんだろう。
こうして一人減った状態でティア達の修業は再開した。修業と言っても食前同様にまずは子供達との鬼ごっこな訳だが。
「…………」
「リュウさん、聖女様を教会本国に行かせて良かったんですか?こちらに関する情報を消さないで」
「ま、ある程度は消したよ。龍皇国に関する情報は消したから覚えてるのは修業ぐらいなもんか」
「それでもこの子達の情報は漏らしてしまったんですよね?」
「安心しろ。もし攻めて来た時は俺が身体張って全力で護るから。それに上手くいけば……」
「いけば?」
「いや、まだ当分先の話だ。その内話す」
そう言うと不思議そうな顔をアリスはしていたがそれ以上は言わなかった。
まずは地盤をしっかりと固めないといけない。それが俺を慕ってくれる皆を守る盾になるし俺が思いっきり暴れられる状況にも出来る。
町は創り掛け、金どころか物々交換すらした事がない皆のために今はしっかりしないと。金や物々交換の定義は龍皇国の人やエルフの人達を教師として少しずつ知識だけは蓄えさせていっている。本格的に行うならマークさんが一番良いんだろうがおそらく理解出来ない、ならまずは基礎から教えないと。
それからリザードマンやドラコ・ニュート達の真似をして物作りに興味を示した者達も居る。そう言った者達が今後家を建てたりする技術を身に付けてくれたら良いなと思っている。と言ってもまだそれほどの技術は持ち合わせていない訳だが。
「やっぱ難しいな、一から始めるってのは」
「なら誰かに頼ったらどうですか?フォールクラウンの人から政治に関する人を呼ぶとか」
「フォールクラウンから誰を呼べってんだよ。ドワル達か?無理だろ」
「……そう言われると無理ですねぇ。それじゃあの王子さんは?王子なら政治の事ぐらい分かるんじゃないですか?」
「王子ってガイの事か?どうだろ?一通り勉強してそうだが人に教えられんのか?」
「どう、なんでしょう?そう言われるとタマさんの方が良さそうな……」
「ま、今の状態じゃ政治云々以前の問題なんだけどな」
「あ、あははは」
乾いた笑みで返すアリス。町も出来てない状態で政治など変な話としか思えない。
龍皇や精霊王との付き合いなどでは必要な事だろうが今の状態じゃな……
「リュウ様、フォールクラウンより手紙が送られてきました」
「サンキューアオイ。この間の返事かな?」
アオイがそっと現れ、まだ開けられていない手紙を渡す。中心にフォールクラウンの国旗が付いた蝋で封がされており何だか高級そうな手紙だ。
俺は受け取り、中身を読む。
………………え、マジで?
「なんて書いてあったんですか?」
「ドルフが来るって」
「え!?ドルフ様って次期国王ですよ‼何で大森林に来るんですか!?」
「店舗を構えるって言うよりはこっちに来て色々実験とか武器の製作をしたいらしい。建築とかも手伝うからその代わり大森林の素材が欲しいってさ。アオイはどう思う?」
「そういった判断はリュウ様がするべきかと」
「いやそうなんだろうけど一応皆に聞いといた方が良いかなぁ?と思って」
「では今夜にでも話し合いましょう。それより放っといてよろしいのですか?」
そう言うアオイの目線にはティア達がぐったりとしていた。全員が捕まって一分後に続けて行われる鬼ごっこにとうとう疲れ切った様だ。全員捕まえたのに逃げようとしないので子供達が鼻先でティア達を突いている。
「今日はこの辺までかな?」
「その方がよろしいかと」
「そんじゃ今日はここまで、帰るぞ」
そう言って手を叩くが荒い呼吸を整えるだけでも大変そうだ。特にタイガ、マリアさん、魔術師の人は口を時おり押さえている。
俺も最初はあんな感じだったな……
「本気で大丈夫か?」
「リュウ……もっと、早く……止めてうっぷ」
「あ~なんかごめん。晩飯は向こうのコック次第だけどどうする?がっつり食えるか?」
「……どんなのが出るの?」
「どデカいステーキとか美味かったな。基本肉食だし」
「…………うっぷ」
「あー少しは食いやすい様に言っとくな。そんじゃ帰るぞ」
という事でふらふらになりながらも歩けるところは根性据わってると思って良いんだろうか?それと龍皇に聖女の事を伝えないとな。
来る時に来た転移装置で龍皇国に帰り、それぞれの部屋まで送ってから俺は龍皇と話す事にした。隣にはいつものグウィバーさんが居る。
「そうか、聖女のみを排除したか」
「ありゃダメだと思ったしな。恐らくその内脅威になる可能性が高い。今回は情報収集のために殺さなかったがある程度したら殺すよ」
「良いのか?勇者の仲間には手に掛けたくはなかったのだろ?」
「仕方ないさ。俺は友達の友達より仲間を取る」
「そうか。その覚悟が出来ているのなら構わん」
龍皇はどこか安心したような表情をする。もしかしたらまだ俺が人間側に与すると思われていたのかも知れない、でも基本的にティアの様に人間だから守ると言う思考はない。俺が気に入ったかどうかが一番大きい。
「リュウ、それで聖女は森を出てどこに向かったのですか?」
「教会本国です。軽い洗脳で向こうに行くようにしておきました。現教皇は聖女とティアに大きな期待をしてる様ですからそれを利用しようかと」
「勇者の方は問題ないのですか?」
「ティア達は現在の教会の姿勢に疑問を持っている様ですので問題ないかと」
「そうですか」
「それで今後の勇者達の修業はどうする?町の方は問題ないのか」
「町の方は今の所妻達に所々任せています。勇者達の修業はしばらく体力面を鍛えるようにしますのでその間に働こうと考えています」
「……オウカは大丈夫か?」
「オウカには建築に関する場所で任せています。龍皇国からの方達なので適任かと。今の所問題も出ていません」
「そうか。少しは王女として成長してほしいものだ……」
やっぱり親として娘がちゃんと出来ているか不安な部分もあったのだろう。オウカに対する評判は悪くない。たまに町の魔物と喧嘩騒ぎがあるがオウカが収めたとか。町の魔物は良く俺と一緒に居る光景を見ているし、リザードマン達はもっと昔から知ってる。なのでオウカを挟んでのやり取りも多く、頼られているとか。
他の皆もそれぞれ頑張っている。
森の異常発見や発展など森全体で動いてもらっている。
「俺も少しは報いないとな」
「ん?今何と言った?」
「いえ、ただの独り言ですので気にしないで下さい。それとフォールクラウンから手紙が帰ってきたのですがどうやら町で色々したい事があるとか」
「内容は、森に害ある行為ではないだろうな」
「今現在確認出来る内容ではそう言った事はないかと。どうやら森の資源を欲している様です。森に人間が入らなくなり、少々困っているとか」
「森にとっては良い事だが……溜め過ぎるのも害か。精霊王とも相談し、決めるしかないな。自然の事は精霊王達の方が詳しいだろうからな」
「分かりました。ではドワーフ達が来た時に会議をしましょう。その際に森から持ち出して良い量や種類を決めましょう」
「ではまた後日となるな。今日はこちらに泊まるか?」
「いえ、妻達が待っていますので帰ります。見張りのメイド達も全員ドラゴンの様ですし危惧している様な事はしないかと」
「そうか。ではまた後日」
「オウカとお母様の事をよろしくお願いいたします」
「はい、全力をもって護ります。それではまた」
そう言った後俺は帰宅した。




