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終戦

 俺は偽物魔王の術をぶっ壊して外に出た。


『っ‼騎士よ‼』

 言葉に反応して騎士は駆け出そうとしてくるが、一瞬だけ動きが止まった。初めてにしては本当に良いタイミングだ。そして俺は宝石を奪った。

 奪った宝石は赤ではあるけれど、どこか古い血のような赤で黒ずみがあると言うか、汚い赤と言うかとにかく長時間触ってはいたくない色だったのでさっさと握り潰す。

 破壊すると宝石は色を失っていき、無色透明の水晶の様に変化した。それと同時に魔術師骸骨や騎士、骨ドラゴンが一瞬だけピクリと反応をしたかと思うと杖に剣、牙を俺ではなく魔王に向ける。

 先程と違い、意識や感情がはっきりと感じる。とても明確な敵意と殺意だ。


『貴様‼どうやってこの宝具の秘密を知った!これはただの魔道具ではないのだぞ!』

「んなもん話す訳がねぇだろ。それとこれは報いって奴だろ。俺に当たんじゃねぇ」

『くっ!ここは引くしか!』

「それも無駄。お前がぼさっとしている間に結界を張らせてもらった。宝石を砕く前にすぐ逃げてりゃどうにかなったかも知れねぇけど」

 もうこいつは詰んだ。と言ってもこのまま器だけを壊しても意味が無いから本体である精霊の方を見つけてぶっ殺さねと。俺は結界内を索敵しているが意外と見つからない、隠れるのは得意な様だ。

 それと呆然としているティアが俺に聞いてくる。


「え、何であの三体が魔王に武器を向けてるの?仲間割れ?」

「仲間割れですらねぇよ。あの三体どころかあいつの配下は全て強制的に支配してただけだったからそのアイテムが壊れればあいつ独りぼっちって事だ。多分外でも侵攻的なものは収まってるんじゃないか?死んだばっかりの死体も今頃戦わなくなってると思う」

「……え、それじゃ私達、勝ったの?」

「それはまだだ。ご本人をまだ殺してない」

 今現在自由になった二人と一体は魔王に激しい攻撃をしている。俺と戦っていた時よりも強く、重たい剣技と的確な魔術、そして怒りのままに暴れるドラゴンによって器の骨が砕かれていく。すでに偽物魔王は片方の腕を失い、頭蓋骨にも大きなひびが入っている。

 しかし本体がまだ現れない、万象感知でもすぐに見つけられないとは本当に隠れるのが上手いな。

 そしてとうとう騎士の上段からの一振りで器の身体がバラバラに砕けた。

 そして本体が砕けた事によってなのかようやく精霊を発見できた。そこに小規模の結界を張って閉じ込める。


 精霊が隠れていた場所は器が持っていた杖の中だった。確かに器が力を使うたびに杖から何か力が出ていたがやり方としてはかなり上手い。魔術を使う時に杖から力を感じてもそれは普通に杖の魔道具としての効果だと騙せる、そして俺は騙されていた。

 俺は杖の中から無理矢理精霊を引っ張り出した。

 間違った力の使い方の影響か、精霊とは言えない醜さで汚らしい。翅はボロボロ、泥の様な汚れが目立つ服を着ていた。まるで器が着ていた服と真逆だ。


『ど、どうしてこの場所が‼』

「器が壊れればそりゃバレるって。所有者が居なくなったのに力を出し続ける魔道具が存在するはずないだろ」

 器が破壊された瞬間に感じたからこそ発見できた。俺は閉じ込めた精霊を骸骨魔術師に投げて渡す。


「そいつどうする?殺しても問題ないだろうけど」

『我々が処分してかまわないのですか?』

「いいだろ別に。あ、ティア達も殺したかったか?」

「と言うかえ、それって精霊だよね。精霊が魔王だったの?」

「そうだな。こいつは死精霊、本来は死者の肉体を自然に還すのが役目だったらしいがどうもこいつは力の使い方を変えて魔王のフリをしていたみたいだ」

「つまり偽物の魔王に負けていた訳ですか。色々自信を無くします」

「ま、本物に比べればプレッシャーも段違いに弱かったし当たり前と言えば当たり前か」

 カリンの母親のプレッシャーは半端なかったからな。


『ここから出せ!我を殺せば精霊王が黙っていないぞ!』

「へぇ、好き勝手しておいて僕が君を擁護するとでも?そんな訳がないじゃないか」

 俺の中からひょっこり出て来たのは精霊王だ。

 死精霊は存在を知っているのか震えている。


『せ、精霊王様。なぜここに』

「彼は僕の契約者だからね。彼の目と耳を通して聞かせてもらった。勝手に役目を放棄し、自然に逆行する君を僕が許すとでも本当に思っているのかい?死者を土に還す事が君の役目だったろうに、そんな君を擁護する理由も、必要もない。どうせ僕達にはいくらでも変わりはいる。だから君の役目も誰かが継ぐか、新しい死精霊が継ぐだろう。だから安心して殺されるといい」

 普段聞いている声とは違い、冷たく、厳しい声に俺も驚いた。確かに見た目は子供だが、こいつもれっきとした王である事を俺は改めて知った。

 死精霊は見っとも無く喚き、死を回避しようとする。


『待って下さい‼こんな、こんな人間共に殺されるのは嫌だ!最も自然を乱す人間なんかに!自然を乱す人間を支配して何が悪い‼私が支配する事で人間は‼』

「煩い、精霊王として君達に頼もう。彼を殺してくれ」

「それじゃ誰が殺す?復讐者か、勇者か、はたまた俺か」

 精霊王がここにいる全員に聞いたので俺が続けて聞くと骸骨魔術師は俺に死精霊を手渡した。


『私は貴方が相応しいかと。我々は敗者だ。勝った貴方が相応しい』

「私も良いよ。止めだけ私が差すとかカッコ悪いし」

『ただお願いがあります。私達を浄化していただけないでしょうか?長い時間ここにいた影響か自力ではこの地から離れられないのです。よろしいでしょうか?』

「良いよ。なら派手に行なおう、送り火だ」

 俺は蒼流を床の中心に死精霊ごと突き刺した。

 死精霊はその時点で絶命、汚く光って消えた。俺はそれに気にせず万象感知でこの地に捉われたアンデット達を捕捉、規模を確認した。

 かなりの規模だが今の俺ならいける。蒼流の蒼い炎で焼き尽くす。

 炎は床を這い、城を出てアンデット達が居る地上に出て、全てのアンデット達を燃やし始めた。もちろんティアの仲間であるゲンさんとかには引火しないように調整済みだ。

 アンデットにされたばかりの騎士達の魂は直ぐにどこかに行ってしまったようなので遠くにいる魔王討伐の連中には被害は及ばない。

 途中悪魔が俺にこの魂は回収しないかと聞かれたがしないと言った。契約は守るもんだろ?と言うと笑って肯定した。


『ありがとうございます。これでようやく天に帰れます』

「宗教的な事か?とにかくさっさと成仏しちまいな。お前らはもう自由だ」

『礼、と言っては何ですがこれを受け取っていただけないでしょうか』

 そう言って燃える炎の中、手渡したのは透明な液体。こりゃ何だ?


『彼女の、天龍の涙です。彼女は生前私と共にいた時に流したものです。彼女もよいと言っていましたので』

 おそらく彼女とはこの骨ドラゴンの事だろう。きっと美しかったんだろうな。

 骨ドラゴンは最後に魔術師骸骨を包むようにして成仏した。なんとなくだが幸せそうな気配がする。

 騎士は俺に騎士式の礼をしながら死んでいった。成仏した存在にもう炎は付いてない、炎が尽きると同時に灰も残らず消えていく。

 小さな炎が付いた骸骨魔術師は礼をしながら最後に言う。


『もし次の生で会う事がありましたらぜひ部下として勧誘してください。貴方になら構いません』

「言質は取ったぞ。その時に会えたら勧誘してやる」

『はい。ではその時までお待ちください』

 そう言って消えた。

 俺は次にティアとタイガに向き合う。


「残りの後始末は頼んだ」

「後始末って戦場の?あんな派手な事をしてどういえばいいのよ」

「流石に言い訳が思い付きませんね」

「自爆術式でも組んでたとでも言いな。それじゃ俺は帰る」

 そう言って背を向けて帰ろうと転移術式を展開するとティアが声を掛けてくる。


「待って。今度そっちに行っちゃダメ?」

「そっちって大森林にか?危険だぞ」

「でもリュウの所ならいい修業になりそうだしそれに……」

「タイガはどう思う?勇者様が大森林で暮らす俺に修業をつけてくれだってよ」

「その時はいつものメンバーで行きます。ティアと僕とグランさんとマリアさんを連れて。今回はゲンさんもですね」

「ま、しばらくは大森林に留まるつもりだからいつでも来な。俺は歓迎する」

 そう言ってから俺は魔法陣で大森林に帰ったのだった。

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