差し入れ
作った飯を持って俺は闘技場に向かって歩く、最近のガイは闘技場でいつもどっかのドラゴンと喧嘩をしている。自分なりに修業しているつもりなんだろうが少しオーバーワークな気もする、そこはタマの奴がどうにかするだろう。
喧嘩していると言ってもいつもの相手は中型ドラゴン一体だが、ガイ達は五人がかりで勝負している。いくら獣人が強いと言っても流石にドラゴンに勝てる程ではない。なので集団で倒しにいくのは真っ当な作戦と言える。
しかしガイ一人なら成体になったばかりのドラゴン、人間で言うところの十六から十八歳ぐらいの個体ならいい勝負が出来ると思うんだがな?ガイ達が希望するのはいつも集団でやっと倒せるぐらいのドラゴン達ばかり、何か理由でもあるのか?
そんな事を考えながら闘技場に着くと中々のいい試合が行われていた。
一体のドラゴンに対し最も頑丈な象が盾役となりドラゴンの攻撃に耐えている。そこから獅子と虎がドラゴンの前足を崩した所にガイが攻撃を仕掛ける。後方にはタマが待機して後方支援の火炎弾を出しながら攻撃や防御の指示を出していた。時にタマは伸縮性のある尾を使って無理矢理仲間を後ろに下がらせたりしている。
中々のいいチームワークだと感じた。きちんと連携も取れているし役割もはっきりと分かれている。
俺達の場合個々が強過ぎて連携を取るより個人で攻めた方が効率がいいのであまり連携らしい連携は取った事がない。連携に関しては今後の課題だな。
そう思っている間に象が限界に達した様だ。とうとうドラゴンの一撃に耐えられなくなり、前足で大きく弾き飛ばされてしまった。盾役が居なくなってしまった事で獅子と虎は中々ドラゴンの体勢を崩す事も出来なくなり各個撃破されてしまった。
タマは負けを認めて棄権したがガイは残った。
ガイは最後まで変身を維持できなくなるまで戦い、力尽きて倒れる。観客席に居たドラコ・ニュート達は勝利したドラゴンだけではなく、最後まで戦ったガイにも拍手を送った。
俺も最後まで試合を見てから戦士側の入り口に向かう、飯を渡さないとな。あれだけ戦った後ならさぞ腹が減っているだろう。そう思って選手の控室に入った。
「おーい、飯持ってきたぞ」
しかし返事はなく、皆ぐったりとしていた。最も疲れ切った様子なのは象だ、あれだけドラゴンの一撃を耐えていたのだから当然と言えば当然だが身体中痣や打ち身だらけだった。
今度の差し入れは体力や傷の回復中心で作ってみるか。
「旦那ありがとな。だが、少し休ませてくれ」
「王子も我々もかなり体力を消耗しています。飯にも手が出せません」
獅子と虎が言う。
それじゃ少し待つか。とりあえず魔術で大量の水を生成、五人の前で浮かせておくと皆水を思いっきり飲み始めた。タマだけが上品に飲んでいたが。
「ふう、助かりましたリュウ様」
「にしても大変だったな象。あれだけの攻撃に耐えるのかなりしんどく無かったか?」
「ええ、ここまで我の身体が傷付いたのは初めてです」
「今度良い技教えてやるよ。象は攻撃を自身に溜め過ぎだ。その衝撃を上手く逃がす訓練をしないとな」
「それは……問題ないのですか?我の役割は攻撃を受け止め耐える事、なのに衝撃を逃がしてしまって」
「個人的には動きを止めるだけで良いと思うけどな。それに全ダメージを受け止めてたらもたないのはどう見ても当たり前だ。なら必要な所だけ受け止めればいいだろ?」
「……そう言うものでしょうか?」
あまりよく分かっていないみたいだが始めはこんなもんか。
俺も衝撃を逃がすのはマジで苦労したからな。
「獅子と虎はもうちょい筋力アップだな。パワー重視ならもうちょい筋力が上がっても大丈夫だろ」
「確かに俺達はスピードよりパワーを求めてるからな」
「しかしこれ以上スピードを落とす訳にもいきませんが」
「大丈夫だって、筋力が十分ついたら後はスキルを習得してパワーを上げればいい。それ以上スピードを落とすと危険だからな」
元々筋力のある二人だしちょっとした修業ですぐに筋力は付くだろう。後はアオイから学んだ力の一点化などが使える様になれば問題ない。
「鍛えにくいのはガイだな。ガイの場合はスピードに力を入れたバランスタイプ、筋肉が付きすぎてもパフォーマンスが落ちるだろうし、筋肉を落としてスピード特化にしてもパフォーマンスは落ちる。バランスが難しい……」
「……そのために戦闘ばかりしている。早く力を付けなければ」
「それなら若いドラゴンと一騎討ちをした方が効率が良いと思うが何でそうしない?」
「それは王位継承に関する事です」
タマが言ってきた。
王位継承と言ったがそれと集団戦と何が関係するんだ?
「王位継承の際、現国王と王子が戦う事で正式に継承されるのですがその戦いが集団戦なのです」
「へー。国王とガイの一騎討ちじゃないんだ」
「はい、国王に求められるのは力よりも統一力です。国王となるからには民や戦士達を纏めるための力を求めるのが我が国なのです」
「言われてみれば確かに王には必須の力だな。でもさっきの試合だとタマが指揮をとっていたが?」
「まだ王子は若く、経験が足りないのであくまで代わりです。そのうち覚えていただきます」
なる程、獣人の国では個の力より集団を率いる力を重視しているって事か。だから王位継承の時も集団戦を想定したもので、試験すると。
あれ、そうなるとガイ一人を強くしても意味なくね?
「おいおい、良いのか?こんな所で修業してて。王位継承のためにはむしろ戦術を学んだ方が良いじゃねぇのか?」
「ふん、まずは父上を倒せるだけの力がいるのだ。なら先に自身の力を上げる方が早い」
「王子、それだけでは困ります。代々王家は民のために」
「分かっている。民のために強く、聡明でないといけない事は分かっている。そう何度も言うな」
ガイも聞きたくなさそうに言うな。
とりあえずかなり復活したみたいだしそろそろ飯をっと。
「はい、これ差し入れ。今日はピリ辛の飯だ。全員分あるから喧嘩すんなよ」
「サンキュー旦那!」
「ありがとうございます」
「我々の為にここまで」
「リュウ様、ありがたく頂戴します」
「済まないリュウ、それと本当にため口で構わないのだろうか?」
「良いよ別に。あえて言うなら同盟関係みたいなものだろ?ならトップ同士はため口でも問題ないだろうさ」
さて、次は誰の様子を見ようか。
アリスとコクガは大森林で警戒してるし、晩飯になれば帰って来るか。ならカリンとオウカの様子でも見るか。
「それじゃ修業頑張れよ。戦争が終わったら俺も技術的なこと教えるからさ」
「……リュウ、どうしたらお前のように強くなれる?」
ガイが俺に聞いてきた。
「ん?そうだな。まずは絶対に譲れないもの、壊されたくないものでも考えてみたら?」
「譲れない、壊されたくないもの?」
「俺だって何の理由もなしに戦争なんてしたくねぇよ。けど今回は人間達が俺の好きな連中を殺そうとしてきた。だから暴れるんだ。壊されたくないからな」
そんなに深くない言葉だけど今の俺の理由はそのぐらいだからな。
そう言った後、特に質問もなかったようなので俺は部屋を出てカリン達の居る場所に向かった。




