19 殺意そして作意
漸く更新出来ました
しばらく忙しいので一週間に1話くらいの更新になりそうです
数少ない読者様、申し訳ありません
多分誤字脱字とかも多いと思います
=====the 2nd day 1日目=====
「……ん」
エアが目を覚まし、目を擦りながら上半身を起こす。
外はまだ薄暗いが、もう時計は5時30分を指している。
朝一番にサーダル行きの馬車が出るため、この時間には起きていないと間に合わない。
アルガの厚意で朝食もわざわざ用意してくれるのもあった。
半分寝ぼけているエアは、ドアの外が騒がしいのに気付く。
そのうるささの所為かサクが寝返りをうって起きかけているのを横目に、エアがドアに近付いて開け、呆れたように言う。
「……何やってんの?」
「あら、エアちゃんおはよう」
「……俺が一番訊きたいよ」
シトロンがレイピア“フィオーレ”を無数に突き出し、ナイトがそれらを器用に避けながらエアに返す。
テイ〇ズで言う『散〇雨』をシトロンが無限でループし、ナイトがかわし続けるという異様な光景だ。
「いい加減に止めてくれないか?当たってないけど疲労でLPが減ってるんだが」
「あなたが男の娘の部屋に入ろうとするからでしょう?」
「……それの何がいけないんだよ」
ナイトは呆れながら言う。
ただ2人を起こしに来ただけなのにとんだ理不尽である。
話が食い違っている2人を無視して支度をしようと、部屋に戻るため振り返るとサクが起き上がっていた。
「あ、おはよ」
「…………おはようございます」
なにやら顔色の悪いサクを不思議に思いながらエアは支度をする。
扉の向こうではまだ2人が騒いでいた。
「ではお世話になりました」
「おう、気を付けて行けよ」
7時頃、サーダル行きの馬車がある西門の前で、なんだかんだでここまで見送りに来たアルガと別れを告げる。
他に乗客はいないようで、6人が馬車に乗り込むと御者はすぐに馬車を走らせ始めた。
最初はゆっくりと動き出し、次第に一定の速度に落ちついて馬車独特の揺れに6人は揺られる。
「街の外はこんな感じだったんだな。良い景色だ」
幌から外に広がる平原、ヘリオスの門や外壁、良い天気のお陰でその少し右側の随分奥にぼんやりと見える山を眺めながらナイトは呟く。
馬車が通っているのは、何度も馬車や人が通って出来たような自然の道。
そして辺り一面に丈の短い草が広がっている。
エノルマの時に門の外に出たが、真っ暗な上、周りの様子を見るどころではなかったため、ナイトだけでなく6人にとって初めての景色だ。
「本当に良い景色ね」
珍しくシトロンも同意見の感想を漏らす。
なかなか体験することの無い馬車の乗り心地と眺めの良い景色、朝の新鮮な空気に晴天を満喫しながら6人は談笑する。
この時サクがみんなに心配掛けまいと無理に笑顔をつくっていたのに5人は全く気付いていなかった。
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その頃の炭鉱都市ガンジバレの近くにある炭鉱山。
朝早くから炭鉱の男たちで賑わい、活気づいている……はずが、物音一つ立たず静まり返っていた。
所々になにやら赤い染みのようなものが目立つ。
そしてそれらが多くある所より100m程上の岩陰から見下ろすウォーカーの姿があった。
「なんだよ、的がもう無いじゃないかっ!!何やってんだよ、早く来いよっ!!せっかくコイツを手に入れたのにもう終わりかよ」
ウォーカーは手にした物を見る。
ドラグノフ狙撃銃---ラテン文字表記 Snajperskaja Vintovka Dragunova
ソビエト連邦が開発したセミオート狙撃銃である。
全長1225mm、重量4310g、1964年から現代にいたるまで生産・配備され続けている。
ウォーカーがベルビディア討伐の報酬として得た、新たな武器である。
その能力とウォーカーの腕は、炭鉱の惨状が物語っている。
「ちぇっ、殺りすぎたか。ここはもうつまんねーし、王都の方にでも行くかな」
面倒くさそうに足元に置いたアサルトライフル---AK-74を拾い上げる。
「プレイヤーもNPCも、またまだ殺りたんねーよ」
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ナイトたちがヘリオスを出て5時間が経った頃。
御者が突然大声を出す。
「また出たぞっ!」
「しつこいなっ」
ナイトがうんざりしたように吐き捨てて、真っ先に馬車から降りる。
体勢を整えながら周りを見渡す。
人型の影のようなフィグラーが3体、猪のようなエレボアが2体、馬車に向かって近付いている。
「こっちはフィグラー3、エレボア2だ!」
「こっちも一緒です!」
ナイトが大声を出すと、反対側---馬車の左側からリーフも返す。
6人の陣形は馬車の右側にナイトとエア、左側にリーフとシトロン、馬車の上にベルが陣取り、御者を守るようにサクが傍にいる。
「さっさと片づけようか」
ナイトの横に並ぶエアが左手を突き出す。
「カルバー!!」
サクの声と同時に周囲に12本の短剣が光とともに現れ、5体のモンスターに向かって一直線に飛んでいく。
「グワァルルァッ!」
1体のエレボアに短剣が2本刺さったが、他の4体は避ける。
手元から離れた12本の“パラディン”は、1体のエレボアと一緒に光となって消えていく。
「外しちゃったかー。セロ!」
「行くぞ“一心”!」
二人は武器を構えて身構える。
後ろではベルが反対側に向かって矢を放っている。
モンスターが5mまで近付いたところで二人は動き出す。
近付くナイトに向かって1体のフィグラーが爪のようなものを振り下ろす。それをかわし、手首から斬り落としたナイトはフィグラーの奇声を耳にしながら、二人に構わず馬車に突進するエレボアの前足を斬る。
しかしエレボアは止まらず馬車に、御者席にいる二人にと突進し続けている。
後ろからはフィグラーがもう片方の爪を振り上げている。
慌てて“陰陽”を構えるサクが目に入った。
「ちっ、“仁”!“礼”!」
ナイトが叫ぶと手元に紅と黄の小太刀が現れる。
黄の“礼”をエレボアに向かって投げ、紅の“仁”をフィグラーの爪を前に転がってよけながら投げつける。
二本は同時に刺さると、フィグラーは炎上し、エレボアは馬車の手前で急に止まって痺れたように体を震わせている。
「エア、頼む」
「OK」
ナイトがフィグラーにとどめを刺しながらエアに言うと、すでに2体のフィグラーを一振りで始末していたエアが“ドゥリンダナ”を高々と振り上げながら高く飛び上がり、落下のスピードを加えながらエレボアに向かって振り下ろす。
言うまでもなくエレボアは両断された。
「せいっ!!」
それと同時に反対側からリーフの掛け声が聞こえ、フィグラーが馬車よりも高く舞い上がる。
そこに青い光弾が撃ち込まれ、光となって消えていった。
「みんなお疲れー」
馬車から降りたベルが能天気そうに言う。
女性陣側も終わったらしい。
「なんなのよあいつら。本当にしつこいわね」
シトロンが心底不満そうに文句をたれながら馬車に乗り込む。
その不満もご尤もで、ヘリオスを出てからこうした戦闘が30回を超えている。
本来ならもう着いている時間にも関わらず、未だ1/4程の距離が残っているこの状況に6人だけでなく御者も訝しげに思っていた。
「長年この仕事をやっているがこんなのは初めてだ。いつもならせいぜい大して害の無いモロフィが出てくるくらいなんだけどな」
馬車に全員が乗り込み動き出す。
「でもみんな戦闘に慣れてきたんじゃない?」
「まあ、それはそうだけどさ」
エアの言葉にナイトは答える。
確かにエアの言うとおりで、武器の能力も随分と把握できるようになってきた。
先ほどの“仁”と“礼”のように刺したり、斬りつけたりと直接的な傷を負わせると火、雷、氷の付加のつく“仁礼信”。
“智”は振るうと風刃を生み出すことができ、“一心”ほどの威力はないものの小太刀なため小回りも良く、連続して風刃を生み出すこともできる。
そして“義”は怪我の大きさによって時間がかかるが、外傷であれば傷とLPが回復できた。
エアの“パラディン”に関しては先ほどのように手を介さずに操れ、直線的な動きだけでなく様々の動きに自在に操ることも出来る。
また、シトロンの“フロル”が大きさを自在に変えられることも分かった。
また、武器の名前を言うとそれだけを出すことも出来るとわかり、そういったことも含め、戦闘に慣れたのは間違いなかった。
「そういえばさ」
ナイトはサクを見る。
「サクの武器の形変わってきてるよな?」
「……そう、ですね」
サクは自分の“陰陽”を思い出す。
初めは確かに双剣、色違いの全く同じ形状の剣だったはずである。
それが何故か黒剣は大きくなり、それに対して白剣が小さくなっていた。
「大群だっ!!」
そんな時、御者の叫び声で話は打ち切られる。
「またですか」
面倒くさそうに言いながらもリーフは機敏な動きで馬車から降りる。
続いてナイト、エア、シトロン、ベル、サクも降り、所定の陣形をとる。
「ちっ、ファンケか。ベル!頼むぞ」
数十匹の鷹のようなモンスターを見たナイトはベルに呼びかける。
高所から襲い掛かってくるファンケに対してまともに先手を取れるのはベルだけだ。
ある程度距離をとられるとエアの“パラディンやナイトの“智”の風刃は届かず、シトロンの“フィオーレ”から放たれる光弾では効率が悪い。
「おっけー」
ベルがすぐに光の矢を放つ。
勢い良く同時に飛び出した三本の矢はそれぞれが途中で無数の細かい粒に砕け、ファンケたちに降りかかる。
散弾銃ならぬ散弾弓に数匹が消え、残ったファンケが怒ったように奇声は発しながら馬車を取り囲むように広がりながら襲い掛かる。
「来るぞ!気をつけろ!」
ナイトは声を張り上げて左に純白の“一心”、右に翠色の“智”を構えて待ち構える。
エアは“パラディン”を羽を狙って飛ばし、シトロンは“フロル”を20cmほどの大きさにしてぶつけて怯ませ、リーフはカウンターで全て叩き落としていく。
ナイトは風刃で牽制してサクを庇いつつ、一匹一匹、または数匹纏めて撃墜していく。
上空にいるファンケは次々とベルに打ち落とされていった。
ファンケの数が残り8匹と、数えられる程までに減ったときエアは極自然に左手の甲に触れた。
「キエェェェッ!!」
「!?」
突然猛スピードで襲い掛かってくるファンケにサクは慌てて“陰陽”を構えて向き合う。
「サク!……ぐっ!?」
助けに行こうとしたナイトの肩にファンケの鋭い爪が突き刺さる。
他の4人も行く手を阻まれてしまう。
サクの体は恐怖で震えている。
しかしそんなこともお構いなしにファンケは眼前に迫る。
「サクッ!!」
サクに気をとられ冷静に対処できなくなったナイトは一匹のファンケに傷を負い、LPを削られながらもなんとかサクの元に向かおうとするが出来ずに叫ぶ。
「く、来るなぁっ!!」
---ザシュッ
柔らかな肉に鋭い物が突き刺さる。
サクは呆然とした表情で膝をつく。
「あ……」
自分の手を見る。
前に突き出された手。
握られた“陰陽”
突き刺さり光となって消えていくファンケ。
肉に刃を突き刺した独特の生々しい感触だけ残して、初めて奪った命はあっけなく消えていく。
「はは……あはははは……」
かすれた声で何故か笑い声が出た。
御者が心配そうに声を掛けるが、サクには全く聞こえない。
かすれた声で小さくヒステリックに笑い続ける。
残りのファンケを片付けた5人が慌てて駆け寄るが、この間に“陰陽”の形状に変化が起きているのに気づいたのはエアだけだった。




