表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dream Circulation  作者: 深雪林檎
一章 春日井莉亜
19/20

18 願望そして悲観

今週のバイトは休みなしです

したがって続き書けてません

頑張らないと




「…………」


目を開けるといつもの見慣れた……いや、最近見慣れた天井が視界に広がる。

莉亜はのそのそとベッドから這い出て立ち上がり、手足を伸ばして大きく欠伸をした。

体に疲れを感じるのはDCの疲労は無関係で、単なる寝不足である。

莉亜は頭を掻きながら部屋から出てリビングに向かう。

今日は土曜日で学校が休みなため莉亜はゆっくりする予定だった。

いつも通りの時間に起きたのは目覚ましの魔術を毎日かけ続けたため、半ば習慣的になってしまったからだ。


「母さん、ご飯」


「あら、莉亜ちゃんおはよう」


「……ちゃんを付けるなって」


リビングに入りいつものやり取りを済まし、雅の用意した朝食を食べ始める莉亜。


“DCはともかくとして、最近引き籠もりがちだし今日はぶらぶらしようかな”


箸を動かしながら先程までの予定とは違うことを考えていると、視界の中に女の子が入ってくる。


「……兄さん、おはよう」


「おはよう、(そら)


莉亜を少し小さくしたような莉亜の妹の空。

中学一年生で莉亜の4つ年下である。

おっとりした性格で運動神経は絶望的に低く、難しい問題を解くことは出来る学力を持っているが総じて時間がかかる。

外見で違うところはボーっとした眼くらいである。


「おはよう、空ちゃん」


「……おはよう、お母さん」


ワンテンポ遅れて口を開くのは空のいつもの話し方である。

ノロノロと椅子に座り、雅が前に朝食を置くとボーっと眺めてからようやく手を動かし始める。


「相変わらず空はとろいね」


莉亜はそんな空を見て言うと、空はゆっくりと顔を上げる。

そっと箸を置いて、ボーっと莉亜を見て、ゆっくり首を傾げて、ようやく口を開く。


「……とろく、ないよ?」


「どこがさ?」


呆れながら莉亜は言う。

空は不思議そうに莉亜の顔を見つめる。

莉亜は空を放っておいて朝食を食べ続けることにし、食べ終えた頃にようやく空が箸を動かし始めていた。










「じゃあ行ってきます」


出かける支度をし、リビングに顔だけひょこっと出し、ひとこと言って外出しようとする莉亜。

玄関に行くと、後ろから「兄さん」と呼ばれたような気がして面倒くさそうにリビングに戻る。


「何?」


呼んだのは当然空である。


「……兄さん、お出かけ?」


「そうだよ」


「……何処、行くの?」


「適当にぶらぶら」


「……じゃあ、私も行きたい」


空がそう言い出すのは予想できていたので莉亜はすぐに答える。


「じゃあ早く支度してきなよ」


「……うん、ありがとう」


少し顔を輝かせて、空は階段を上がっていく。

2人が外出できたのは30分後だった。







--------------------------------------








「あー疲れた。組長何か食べてこーよー」


部活帰りの鈴が、同じく部活帰りの静夜に言う。


「ああ、そうだな。さすがに俺も限界かも」


静夜が時計を見ると時刻は午後12時40分。

何故か今日の剣道部の稽古は長くきついものだった。


2人が某ハンバーガーショップに向かっていると、途中で見知った顔を見かけ2人同時に声を上げる。


「空ちゃん!」

「春日井……そら?」


元気良く声をあげる鈴と、途中で鈴を見る静夜。

静夜は、鈴と莉亜だと思っている空を忙しなく交互に見る。


「……こんにちは、鈴さん」


「久し振りだねー。あ、この子は莉亜ちゃんの妹の空ちゃんで、こっちの人は組長だよ」


鈴が空と静夜の紹介をする。


「変な紹介をしないでくれ長谷川。俺は五十嵐静夜。お兄さんのクラスメートだよ」


「……あ、兄さんがいつもお世話に、なってます」


礼儀正しくお辞儀する空。


“見た目はそっくりだけど、妹さんのほうがしっかりしてるのかな?”


そんなことを静夜が思っていると、鈴が空に話しかける。


「で、1人でどうしたの?莉亜ちゃんは?」


「……兄さんとははぐれて、迷子です」


「あー、やっぱり?じゃあ電話してあげるねー」


そういってポケットから携帯電話を取り出して、莉亜に掛ける鈴。

家が隣なため空のとろさも良く知っている。

連絡をつけた鈴は空を連れて、昼食をとりながら待つことにした。









しはらくして3人がハンバーガーを食べていると、再び見知った顔が店内に入ってくる。


「あ、春日井?」


「……なんで疑問形なのさ」


「いや、別に」


静夜は目線を逸らし、ゆっくりと咀嚼する空を見る。

莉亜はため息をつきながら椅子に座る。


「莉亜ちゃん駄目だよー。空ちゃんをほったらかしにしちゃ」


「普通に歩いてただけなんだけど……ってちゃん付けするなよっ」


「まぁまぁ落ち着いて何か注文しなよー莉亜ちゃん」


「ちゃん付けするなっ」


「……兄さん、落ち着いて」


「うるさいっ」


ひと騒ぎして、静夜になだめられてようやく莉亜が落ち着き、ハンバーガーを食べながら4人は会話を始めた。







--------------------------------------






「咲、ちょっと来なさい」


父・勇汰に呼ばれ、客のいない店の手伝いをしていた咲汰は近付く。


「どうしたの父さん」


いつもと比べて固い口調の勇汰に身構える。

心当たりはあった。


「コレは咲の仕業か?」


そう言って勇汰がテーブルの上に置くのは10枚の一万円札。

レジの中に入っていたものである。


「…………」


「どうして……いや、どうやってこんなお金を用意した?」


咲汰の無言を肯定ととって、勇汰は訊く。

店の手伝いをし、他でアルバイトする時間など無い咲汰がこんな大金を所持するはずがない。

とすると、否が応でも考えられることは限られてくる。

また、咲汰の性格から自分のためを思っての事だろうと勇汰は分かっていたため、余計に複雑な心境で問う。


「…………」


「黙っていても分からないだろう」


咲汰はきつく握り拳をつくりうなだれていた。

当然ながらそのお金はヒュプノスから贈られたものである。

しかし、咲汰は説明して理解されるとは思っていない。

言い訳も出来ず、黙っていることしか出来なかった。


それをどう捉えたのか、勇汰は手を高々と上げ、咲汰に振り下ろす。



---パチーーン



店内に音が響き、咲汰は泣きながら走って出て行った。





しばらくして、勇汰が咲汰を叩いた手をぼーっと見続けていると店内に常連の老人が入ってきた。


「さっき泣きながら走る咲ちゃんを見かけたのじゃが……?」


「ああ」


勇汰は老人の言葉に感情の抜けたような声を出す。


「俺のせいだ……全部俺のせいなんだ」


「…………」


老人は悟ったように黙って、憐憫の眼で勇汰を見る。


「こんな親に愛想尽かさずにいてくれるのに……俺のことを思ってくれているのに……叩いちまった……俺のイライラを……一番ぶつけちゃならない……咲に…………俺は……俺はっ!」


勇汰は膝から崩れ落ちて大声で泣き始めた。







--------------------------------------






宇津宮邸にて。


「ねえ羽哉?」


「何でしょう柚希様」


優雅に紅茶を飲みながら、傍に立つ羽哉に柚希は訊く。


「羽哉はどうして参加しようと思ったの?」


「DC……にでしょうか?」


「そうよ」


「柚希様をお護りする為です」


羽哉はすぐに答えるが、柚希はため息をつく。


「そんな答えを聞きたいわけじゃないのだけど」


「柚希様こそどうしてでしょうか?」


羽哉は訊き返す。


「私?私は願い事に惹かれてかしら。本当に何でも叶うのなら、お父様とゆっくり過ごすことも叶えてもらえるんじゃないかしら?」


小さい頃より、多忙な父・啓二と接する事が出来る機会があまり無い柚希が寂しそうに言う。


「柚希様……」


そんな柚希に羽哉は憐憫の眼を向ける。

柚希はそれに気づかずにお菓子に手を伸ばしている。

たとえ気づいたとしても、柚希には羽哉が何故そんな眼を向けるのか、本当の意味が分かるはずも無かった。


“私は……あなたが何も知らず、幸せに過ごされる事だけを望みます。そのためなら……私は何だって”


羽哉は心の中でより一層強い決心を持った。






--------------------------------------






場面は戻って、再びハンバーガーショップに。

落ち着いた莉亜たちもまた、DCの願い事について話をしていた。


「俺は特に願い事はないかな。ただ真相が知りたい。誰が何のために、どんな方法を用いてこんな事をしているのか」


静夜はヒュプノスの言う事を全く信用してないような口振りで、人の命を弄ぶようなゲームに憤りを感じながら言う。


「そうなんだ。僕は言い方は悪いけど興味本位かな。こんなものだとは思ってもいなかったけど。実際のところ僕みたいな人も多いんじゃないかな?鈴はどうなの?」


しれっと嘘をついて莉亜は鈴に尋ねる。


「私は莉亜ちゃんがいたからかなー」


相変わらず脳天気に鈴は言う。


「なんだよそれ」


莉亜は呆れながら言う。

横では何のことか分からず、空が首を傾げながら不思議そうに3人を眺めていた。


その後もしばらく談話して、鈴は家が隣な莉亜と空と一緒に静夜と別れ、空に合わせてゆっくりゆっくりと帰路についた。






--------------------------------------






「なんで……なんでっ」


家に戻って自分の部屋に閉じこもった咲汰は、言葉にならない感情を抱えたままベッドの上にうずくまって泣きじゃくる。

頬の痛みなど感じている余裕すらなく、自分自身何を考えているのか分からず、どうすればいいのか分からず、自分の境遇を嘆き悲しみ呪い、それでも父を、他人を恨みたくなく、矛盾した感情とやり場の無い憤りに蝕まれて、いつしか疲れ果てて目を腫らしたまま眠り込んでいた。








---------------------------------------









そして夜も更けた頃。


咲汰の家から数軒離れた家の幼馴染みの岬の部屋で電話が鳴る。


「誰かな?」


岬が携帯を開いて画面を見るが、登録してない番号らしく番号のみが画面に表示される。

しばらくしても鳴り止まないようなので、岬は出ることにした。


「……もしもし?」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ