17 息子そして魔石
更新忘れてました(汗)
しかも短め
=====the 1st day 3日目=====
「…………」
ナイトが市長邸の部屋で目を覚ます。
外からは朝の日差しと鳥の可愛らしい鳴き声が入ってきて爽やかな朝を迎えているが、ナイトはどこかやるせない気持ちで起き上がる。
昨日の件があったからだ。
あの後、市長邸に戻ったナイトたちだったが、アルガは戻っておらず遅くまで待っていたが戻って来ないようだったため、それぞれが部屋で休ませてもらうことにした。
部屋に備えつけてある洗面所で顔を洗っていると、ドアがノックされる。
ナイトが返事する前にそれは開けられた。
「あ……市長」
「よう!目覚めはどうだ?」
まるで昨日のことが、昨日話したことが無かったかのように話しかけてくるアルガにナイトは戸惑う。
「ずいぶん早起きだな。まだ寝てるかと思ったぜ」
時刻はまだ6時前である。
ナイトは遅くに寝たにも関わらず普段よりも少し早く起きてしまっていた。
「おはようございます。市長も早起きですね。俺に何か用ですか?」
タオルで顔を拭いてから挨拶をするナイト。
昨日の事は時間が経って余計に訊きにくかった。
「ちょっと散歩にでも付き合ってもらおうかと思ってな」
「あ、はい。良いですよ」
ナイトは簡単に身支度をしてアルガとともに部屋を出た。
散歩と言っても市長邸の敷地内にある広い庭を回る程度で、市長邸の外には出歩かない。。
朝早いのもあってか、鳥の鳴き声や遠くからの何かの音が微かに聞こえるくらいで静かである。
アルガが何度かくだらない冗談を交えながら話すのをナイトは苦笑いしながら聞いていく。
しばらくして、ナイトは意を決して聞いてみることにした。
「あの……昨日のことですが」
「…………」
アルガは無言で歩き続ける。
ナイトが再び口を開こうとすると、アルガが言葉を発しだす。
「お前は俺のことをどう思う?」
「俺は……あなたのことはどう見ても善人にしか見えません。普段はいい加減に見えて実はこのヘリオスのことになると真剣に考える市長は尊敬に値すると言っても過言ではないです」
「ずいぶんと高くかわれたもんだな」
アルガは自嘲気味に笑う。
「だが殺人鬼の子供だ」
「それは……」
ナイトは言葉に詰まる。
「それにな、俺はその殺人鬼をどうしても嫌いになれないんだよ」
「え?」
アルガは歩みを止め、ナイトに背を向けたまま空を仰ぐ。
「あの人は国王の命を救った一人としても確かに殺人鬼だ。ウェッジと同じくその過去は変わらない。でもな、俺にとってはただの父親だったんだよ」
「…………」
ナイトは黙ってアルガの話を聞く。
「俺の前では普通の、いやそれ以上の父親だった。殺人鬼だとは夢にも思わなかったんだ。俺が14歳くらいの時にあの人はぽっくりと逝っちまった。そうして俺はウェッジに引き取られた。それからしばらく経って俺はあの人たちの過去を聞かされたよ。ショックだったよ、でもそれでもどうしても嫌いになれなかった」
アルガが首からさげられた魔石に触れる。
「あの人の遺品、この魔石が血塗られたものだとも聞かされた。でも処分できなかった。逆にこれを人のために使いたいとも思った。それであの人の過去が清算できるわけでもない、俺が殺人鬼の息子であることも変わらない。それでも構わなかった。それが欺瞞でも偽善でも俺は何かしたかった。そうしている内に市長になっていたよ」
再びアルガが自嘲気味に笑い出す。
「本当はそんな資格もないのにな」
「そんなことは……」
ナイトは何か言おうと思うが、軽々しく簡単に言うこともできず再び言葉に詰まる。
アルガは振り返りナイトに向かって言う。
「良いんだ。そうして生きていくのが俺の運命だ。後悔もしていない。散歩、付き合ってくれてありがとうな。お前に話したら少しスッキリしたよ」
そういってアルガはその場から去っていった。
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「おっす!昨日は大変だったなぁ」
朝食の席にアルガが笑いながら入ってくる。
「朝からうるさい市長ね」
シトロンがジト目でアルガを見る。
すでに6人は揃っている。
「はっはっは、どうしたカルシウム不足か?そんなお前らにコレをやろう」
そういってアルガは手紙のようなものと紙を一枚テーブルの上に置く。
一番近かったリーフが確認すると驚きの声をあげた。
「こ、これは許可証ですか!?」
「え?ほんとー?」
「でもまだ片付けが終わってませんよ?」
ベルが嬉しそうに笑い、サクがリーフの言葉に驚きながらアルガに訊ねる。
「まぁだいぶ片付いたし後は自分でなんとかなるだろう。別に散らかってて困ることもないしな」
アルガは笑いながら椅子に座る。
「だったら最初から片づけを頼まないでよ」
エアはウンザリした顔で呟いた。
「ありがたいお話だけど、どういった風の吹き回しかしら?昨日のことに関係でも?」
シトロンが単刀直入に訊く。
少し場の雰囲気が重くなりアルガが答える。
「ああ、そうかもしれないな。まぁ礼ならナイトにでも言っといてくれ」
「俺!?」
突然言われて驚くナイトに5人の視線が集まる。
「何をしたのかしら?」
「いや、別に何もしてないんだが」
シトロンに訊かれてナイトは答える。
疑り深くナイトをジロジロと見るシトロンを横目にリーフは気を取り直してアルガに訊ねる。
「こちらの手紙のようなものはなんでしょうか?」
「ああ、それなんだがな。ついでと言うか条件と言うか、王都に行く前にサーダルに寄ってそこの市長に渡してきてくれ」
リーフが手紙をひっくり返すと『エリス』と宛名が書いてあった。
「サーダルってたしか樹海都市の?」
「ああ、ヘリオスから東北東に行った先にある。ヘリオスから一日に一本馬車が出ているが、樹海の中にあるからそこからは徒歩で行かなきゃならんがな。……とか行ってる間にもう出た頃か」
七時過ぎを示す壁時計を見てアルガが言う。
「そういう事は早く言いなさいよっ!」
「はっはっは、今日はゆっくりと準備を整えて、明日にでも向かってくれ」
「あ、ありがとうございます」
朝食を食べた6人は街中に出向いてサーダルに行くための食糧や水などを買い込み、雑貨屋に立ち寄ってウェッジに挨拶をすることにした。
ウェッジもアルガ同様に明るく振舞っていたが、話の張本人だからか少しばかり元気のないようにも見えた。
その後は、街中をぶらぶらと歩き回り、夕食後アルガから伍石の使い方を学んで早めに眠りにつく。
今日寝ると現実世界に一時戻れるはずである。
その期待に5人はすぐに寝息を立て始めた。
そして残りの1人
夜が更け、市長邸が静まり返った頃、暗闇の中エアはゆっくりと起き上がる。
エアと同室のサクは穏やかな寝息でぐっすりと寝ている。
それを確認したエアは布団の中に左手を入れ、目を閉じる。
布団に遮られた赤い光がぼんやりと漏れる。
DCの中核にアクセスして、各地の状況を調べるためである。
(うーん、まだ2000人弱しか死んでないのかぁ。ちょっと予定よりも少ないかなぁ)
3日分の各地の状況や、高校生たちの動向、生存状況を調べ終えるとアクセスを止め、左手から手を離す。
掛かった時間は約1分足らずである。
刻印の輝きがおさまり、、窓から入り込む月明かりだけがうっすらと部屋を照らす。
そしてサクの寝顔が照らされて見える。
エアはゆっくりと布団から出て、サクの傍まで近づいて見下ろす。
そして満面の笑みで呟いた。
「君も僕のために生贄になってね」




