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Dream Circulation  作者: 深雪林檎
一章 春日井莉亜
17/20

16 黒髪そして赤髪

ストックがあと3話しかないです

急いで書かなければ

『僕は~』も放置気味です(汗)




=====the 1st day 2日目=====




「どれが良いかな?」


「こちらの万能型のものが便利で良さそうですが」


ナイトとリーフが商店区の五石専門店の中でガラスケースの中に陳列された綺麗な光沢を放つ伍石を眺める。

結局この2人だけが来ることになった。

並べられた伍石と値札を見ると、使い捨て、10日、30日、100日、500日、半永久的などの使用可能期間ごとに分けられ、使用可能期間が長いほど値段も高くなっている。

昨日市長邸で使ったものはドライヤーやシャワーといった用途が限られた物だったが、今2人が見ているのは様々な使い方の出来る万能型のものである。

その分値段も高く、種類も半永久的に使えるものしかない。


「一種類1000cか」


「この先何があるか分からないので、全員が持っていたほうが良いでしょう」


伍石一種類で1000cつまり五種類で5000c、そして6人分で合計30000c。

昨日の昼食の代金1人約10cから、10cを現実世界で仮に1000円とすると、1人あたり50万円、6人分で300万円である。


(……もしかして俺らって大金持ち歩いてる?)


(……そうみたいですね)


6人全員が生存報酬で金貨100枚=10000c、つまり100万円をもらっているわけである。

2人は小声で確かめ合い、結局買うことにした。



「えっと、すみません」


「……はい」


ナイトが店員を呼ぶと、無愛想な店員が振り向く。


「万能型のを5種類とも6個ずつください」


「……お代金をお願いします」


大量に注文したせいか、警戒して見られながらナイトはポーチからあらかじめ預かっていた巾着袋を取り出す。

そして自分のではない3つの袋から金貨を10枚ずつ取り出し、袋ごと差し出す。

昨日全員が金貨10枚を貰い、使ってないためこれで金貨300枚、30000cである。

店員は一枚一枚金貨を調べ、積み上げながら数えていく。




「お待たせしました。確かに30000cです。商品をお持ちしますので今しばらくお待ちください」店員が綺麗に金貨を積み終わった頃には2人は暇をもてあましていた。

先ほどよりも柔らかい物腰の店員は金貨を持って店の奥に入っていく。


すぐに店員は握りこぶしほどのサイズの豪華な箱をたくさん持ってきた。

赤色、青色、緑色、水色、白色の色ごとに分かれて伍石が入っているらしい。

それから店員は一つ一つ丁寧にしっかりと中身を確かめさせ、保証書の説明を長々と語り、二人は疲れきった様子で市長邸に戻った。









------------------------------------------









「しかし終わらないな」


ナイトが書類を見ながら呟く。

初めの頃に比べるとずいぶん減っているがそれでもまだまだ残っている。

幸いにも今日の朝すぐに許可証が見つかったが市長のサインが無ければただの紙切れである。

ナイトたちは憂鬱な気分で手を動かす。


「でもずいぶん減りましたよナイトさん」


サクの言うとおり残り4分の1程度にまで減っている。

それでもどうしてもまだ4分の1も残っていると思ってしまう4人。

この質量なら仕方のないことである。


「とにかくもう一踏ん張りです」


リーフが本棚に本を並べ終えて言う。

そこで時々顔を出すアルガがまた現れる。


「おー、だいぶ片付いたな。区切りのいいとこで食事にしようぜ」


時刻はもう8時を過ぎていた。


「あ、すみません。毎回食事まで用意してもらって」


ナイトが頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。

昨日の夕食から今日の朝食、昼食までご馳走になっている。


「良いって良いって。片付けを雇うより安上がりだしな」


そういって笑いながら出て行くアルガを追って4人も部屋から出て行く。







-------------------------------------







「そういえばあのお爺さんとはどういう関係なんですか?」


夕食をとりながらサクがアルガに訊ねる。


「あ?ウェッジのことか?」


アルガは聞き返す。


「そういえば門衛も紹介状を見て慌ててたよね。ていうかウェッジって名前だったんだ」


エアが思い出しながら言う。


「大した関係じゃない。気にすんな」


「ケチー、教えてよー」


話そうとしないアルガにベルが駄々をこねる。

ベルがしつこく聞き続けると、アルガはため息をついて話し始める。


「……そうだな、別にあの爺さんの話じゃないが、とある昔話をしてやろう」


「なんでよ」


シトロンが口を挟むがアルガは構わず話を始める。





  昔々、悪者に心を操られた少年がいました

  考える事も出来ず、ただ命令通りに使われる日が続きました

  天候を操る魔法・タンを得意とする黒髪の少年

  悪者はそれを利用して少年に人殺しをさせます

  三年の月日が流れ、少年は何千、何万という命を奪いました

  それでも感情というものが奪われているために何も感じません

  そして王国中に“漆黒の残光”という(あざな)と噂が広まりました


  ある日、黒髪の少年はとある赤髪の男に助けられました

  そのとき心を取り戻した少年は自分の罪を自覚しました

  とても重く償いきれず消えない、一生そして後世にも残る罪です

  罪悪感に心が壊れかけたことが何度もありました

  少年はそれでも償おうとします


  しかし、出来ませんでした

  “漆黒の残光”という幻影が少年を襲います

  努力して積み上げてきた信頼や友情、そして大切な人

  失うのは一瞬でした

  少年はそれから姿を消しました


  再び表舞台に現れたのはそれから3年後

  国王の命に危険がさらされた時でした

  国王が信頼していた組織が突然の暴挙にでたため、まったくの無防備でした

  間一髪それを救ったのが、青年に成長した黒髪の少年でした

  いち早く組織の陰謀に気づいた青年は、自分を救ってくれた赤髪の男と戦います

  2人の功績によって組織は消え、国王の命は護られました


  そうして青年は国王より恩赦をもらいました

  しかし青年が人殺しだという過去は消えません

  操られていようといまいと青年の手が血に染まっている事実は変わりません

  青年は“大量殺人鬼”と“国王の命の恩人”の二つの顔を持ちました

  青年は罪を背負いながら何処かでほそぼそと暮らしていきます


  それから50年経った今、もうその事実の詳細は一部の者

  例えばその話を聞かされた、赤髪の男の子供等しか知りません






「……どうだ?なかなか面白い作り話だろ?」


アルガが話し終えて笑いながら訊く。

しかし誰も答えない。

サクにいたっては泣きそうになっている。


「赤髪の男はとっくに死んじまったそうだが、黒髪の青年はまだ生きてるのかねぇ。おっと、青年じゃなくて今頃はよぼよぼの爺さんか?」


「分かってて言わないでください」


ナイトが複雑な表情で言う。


「ま、所詮作り話だ」


アルガはそういって席を立って出て行った。


「どう考えても実話じゃないの」


「あの優しそうなおじいさんが」


アルガがいなくなってシトロンとサクが口を開く。

その後気まずい思いで料理を口に運ぶ。

1人を除いて。


“おもしろい”


エアはテーブルに下でそっと、左手の刻印を右手で触れた。






--------------------------------






---カーン、カーン、カーン



昨日同様にまた談話していると、突然鐘のような音が鳴り響く。


「何の音?」


ベルが近くの窓を開けるとその音は大きくなる。


「非常事態みたいな感じだな」


「その通り」


ドアをあけてアルガが現れ答える。


「西門のから数百メートル離れた場所に突如巨大なモンスターが出現したらしい」


「では早く撃退しなければ!」


「今兵隊がしている。お前らは気にしなくていい。危険だと思ったら東に逃げろ」


それだけ言うとアルガはすぐに出て行った。


「「「「「「…………」」」」」」


6人は顔を見合わせる。

そして部屋から駆け出していった。







-----------------------------------







---ズシン、ズシン



暗闇の中、輝石の照明に照らされたモンスターがヘリオスに向かって歩く。

全長20mの超大型の人型モンスター【エノルマ】

そのエノルマに向かって兵隊が槍や弓矢で迎撃するが、エノルマは平然と進んでいく。

すでに門から100m程の距離まで到達している。


「ずいぶん大きいですね。ベルビディアの二倍ぐらいでしょうか」


西門にたどりつき、エノルマを見たリーフが驚きながら言う。


「さすがにあそこまでは跳べないか……シトロン、サポート頼む。セロッ!!」


「なんであんたなんかに……カルバー!」


ナイトが“一心”を出しながら走り、シトロンが嫌がりながらも“フロル”を空中に4つ出す。


「なんだ君たちは!?」


「話は後です!まずは撃退しなければ。セロ、カルバー」


リーフが兵隊に言いながら“撃破”と“瞬破”を出す。

ナイトがエノルマに近づいたところでシトロンの“フロル”を足場に跳んでいく。


「喰らえっ!」


跳躍しながら抜刀し、エノルマの肩に切り落とす。


---ガキンッ


「なっ!?」


しかし弾かれ、傷一つつかない。

ナイトはエノルマを蹴って後ろにある“フロル”に乗って体勢をととのえる。


「何やってるのよ!」


「思いのほか硬かったんだ!」


ナイトは下で文句をつけるシトロンに向かって言う。


「ちょっと!前見なさいよ!」


「え?」


ナイトが言われて振り向くとエノルマの拳が目の前まで迫っていた。



---バキィッ



ナイトが乗っていた“フロル”にエノルマの拳が当たり、豪快な音が鳴り響く。


「ナイトさんっ!!」


サクが叫ぶ。

エノルマが拳を離すがそこには何もない。


「こちらです」


そこから離れた“フロル”に乗るリーフ。

そして襟首を掴まれ、宙吊りになっているナイト。


「サンキュ、離してくれるか?」


「はい……っ!?」


「うわっ!?」


再びエノルマが殴りかかり、リーフがナイトを放り投げながら離脱する。


「危ないな」


比較的低い所から落とされたため、難なく着地するナイト。

エノルマを見上げると何かが当たっていた。


「組長あぶないよー」


エノルマより高い場所に立つベルが大きな声で呼び掛ける。

翠色の“礼記射義”を構え、弦に手を近付ける。

人差し指から小指にかけての指の間に三本の光の矢が現れ、ベルはそれを放つ。



---ガスッ、ガンッ、ギンッ



傷付きはしないものの、エノルマはその衝撃にふらつく。


「早く倒れちゃいなよ」


その間にエノルマに近付いていたエアが“ドゥリンダナ”を横薙ぎに振り払う。



---ザンッ



「ギィアァァッ!!!」


足に切れ込みが入る程度しか刃は入らなかったが、エノルマは痛みに雄叫びを上げながらバランスを崩し倒れ込んだ。



---ズシーン



揺れにこらえながらナイトは呼び掛ける。


「どうする!こんなの討伐しきれないぞ!」


「出来なくてもやるしかないわよ!街が危ないのよ!」


「とにかく今のように連携していき勝機を探りましょう」


「お前ら……何してる」


「「「「「「!?」」」」」」


門の方から聞き慣れた声が聞こえ6人は振り返る。


“やっと来たか”


エアは“ドゥリンダナ”を担ぎながらエノルマから離れる。


「こっちに逃げろとは行ってない筈だが?」


髪と同じく真っ赤な大剣を担いだアルガ。

首には伍石のような石が、チェーンで提げられている。


「まぁ良いではないか」


そしてもう1人。

漆黒の双剣を携えた黒髪の老人。


「ウェッジも無理すんなよな。歳を考えろ」


「青二才がよく言いよるわ」


ウェッジがそう言い切った瞬間、6人は2人の姿を見失う。


「ギアァゥッ!?」


「「「「「「えっ!?」」」」」」



突然後ろのエノルマは奇声を発する。

6人が慌てて振り向くと赤と黒の影が、輝石に照らされて飛び交っていた。

そして瞬く間に全身が切り刻まれるエノルマ。


「トドメだ」


アルガが地面に着々して止まり、首に下げた石を握り締める。

ウェッジも老人のものとは思えない動きでエノルマを切り刻んだあと離れる。

アルガが握り締めた石が赤く輝きだす。


(フィブル)…………炎獄の灰燼インフェルノ・アッシュ!!」


ナイトたちは言葉を発することも出来ずに目の前の光景を呆然と眺める。

巨大なエノルマが更に巨大な火柱に飲まれて灼かれていく。

エノルマの雄叫びはもう聴こえない。

声帯など一瞬で燃え尽きていた。


しばらくして、アルガが握り締めていた手を離すと、火柱は間をおいて消えていく。

火柱の跡にはさっきまでエノルマだったはずの大量の灰。


兵隊たちがアルガとウェッジに賛辞と感謝の意を表するが、アルガは素っ気なく最低限にしか返さない。

そのままナイトたちに近付くアルガ。


「昔話の赤髪の男だがな」


立ち尽くすナイトたちにアルガが口を開く。


フィブルの魔法を使い数え切れない程の命を奪った殺人鬼“灼熱の片翼”と呼ばれていたそうだ」


それだけ言ってアルガは門の中に入っていった。

ウェッジ老人はナイトたちを見て、無言でアルガに続いて入っていく。

ナイトたちは何も言えず、ただその姿を見送ることしか出来なかった。








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