15 市長そして伍石
文才が欲しいです
「ここが市長さんのお家ですか?」
「そうみたいだな」
サクが前にある建物を見て訊く。
ここは役所などの行政を行う建物や郵便社などの公共事業を営む建物が集まった行政区で、その中で一番小さいながらも豪華で綺麗な建物が市長のいる市長邸らしい。
街の中でも比較的シンプルな建物の多い行政区の中で、庭あり噴水ありと一際目立っている。
「とにかく入ってみましょうか」
リーフが門衛に近寄っていく。
「ここは市長邸だ。何か用かね?」
門衛が警戒心の籠もった声で、怪訝な顔をしながら6人を見る。
ナイトたちはすでに分かっていた事だが、街の人たちにとって制服は特に気にならないらしい。
「王都に行くために許可証を頂きたいのですが」
リーフがそう言いナイトは老人からもらった案内状を渡す。
「なんだこれは?」
門衛は訝しげにそれをひっくり返して眺める。
その途端に顔色を変え始める。
「そ、そこで待っていろ……いや、お待ちください」
門衛は慌てて中に入っていき、残された6人は呆然とする。
「なんなのかしらアレ」
「さあ?」
すぐに門衛は戻ってきて、6人は丁寧に中に案内された。
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「失礼します」
ナイトがそう言って市長のいる部屋の中に入る。
部屋の中のいたるところに書類やら書物やらが乱雑に積み上げられている。
部屋はシンプルながらも高級感がただよう……はずなのだろうが、異様に書類が積み上げられているため
そこなわれていた。
「はい、お入りください」
机にも積み上げられた書物の山の向こうから声が発せられる。
ナイトたちは顔を見合わせてから近づいていった。
「皆さんの話はウェッジ老人からの手紙で読ませていただきました。ヘリオスの市長を勤めさせていただいてますアルガです。以後お見知りおきを」
「「「「「「………………」」」」」」
燃えるような紅い髪の男性が丁寧な口調で挨拶をする。
が、その口調とは裏腹に足は机の空いたスペースに置かれ、椅子の背もたれを倒して横になり、さらに娯楽小説を顔の上に載せている。
「さて、王都への許可証の件ですね」
「「「「「「………………」」」」」」
アルガはそのまま話を続ける。
「申し訳ないのですがウェッジ老人からの頼みとはいえ簡単に発行すわけにh……」
「「「「「「いい加減に起きろぉぉっ!!!」」」」」」
「あー、耳いてぇ」
アルガが耳を押さえながら文句をたれる。
今度は椅子に普通に座っている。
見たところ30代後半~40代前半くらいの市長。
やはり燃えるような紅い髪が目立つ。
「で、許可証が欲しいんだったな?」
「そうよ、早くいただけるかしら」
シトロンが1人まだイライラしながら言う。
アルガは先ほどの口調と違ってずいぶんと砕けている。
「爺さんからの紹介なら良いが……」
「あ、良いんだ」
ベルが口を挟み、アルガが横を見る。
積み上げられたおびただしい枚数の書類の山、山、山。
「はっはっは、どっこにあるかわっかんねーwwww」
「「シトロン、落ち着け(いてください)」」
“フィオーレ”を取り出して斬りかかろうとするシトロンをナイトとリーフが止める。
「レイピアじゃ斬れないから」
エアは呆れ顔で突っ込む。
アルガはそんなシトロンを見て、他人事のように笑い転げていた。
「と、とにかく!僕たち王都に行きたいんです。なんとかしていただけませんか?」
サクが椅子から転がり落ちている笑い崩れるアルガに訊く。
アルガは笑いをこらえて椅子に座り直し、真面目な顔をして言う。
「あー、そうだな。ならば自分たちで書類を探してくれ。ついでに部屋を片付けてくれると助かるな」
「それは市長が面倒くさいだけなのでは?」
「体よく押し付けたな」
「やっぱり斬るわっ!」
「だから斬れないって」
「はっはっはっは」
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「サク、これそっち」
「はい、ナイトさん」
「エア、それはこちらです」
「ん、リーフのはこっちだね」
結局、市長の部屋で片付けをする羽目になる。
4人は手分けして資料や書物を分類ごとに分ける。。
片付け始めて30分経つがそれすら一向に終わる気配はしない。
「やっぱり私も手伝うわ」
「私も片付けるー」
「「「気持ちだけ受け取ります!」」」
部屋の入り口にいたシトロンとベルの申し出をサク以外の3人が即座に断る。
終わる気配がしないのは、片付けを開始した途端に2人が書類の山を崩したのが原因の1つだからだ。
4人はコツコツと終わりの見えない作業を続ける。
「……終わらないな」
ナイトがげんなりした顔で呟く。
窓の外はすっかり暗くなり、明かりが煌々と部屋を照らしている。
こういった明かりは電気ではなく、天井についた石が輝いていた。
アルガが言うには輝石と呼ばれるらしい。
本来なら“カルシウム、鉄、マグネシウムなどを含む珪酸塩鉱物”を意味する言葉だが、ここでは違った。
「終わりませんね」
リーフもまだ半分も片付いていない部屋を見てぼやく。
「もう8時ですね」
サクが部屋の壁時計を見る。
片付けを始めた時間が一時過ぎである。
許可証も当然見つかっていない。
“なんで僕がこんな事を”
DC内の細かい設定は適当に決めたのを後悔するエア。
頭の上のゲージを見上げる。
「地味に減ってるし」
4人が疲れきっていると部屋にアルガが入ってくる。
「なんだ、まだ片付いてないのか……4人とも睨むなって」
アルガは4人の表情を見て楽しげに笑う。
「ま、その調子じゃまだまだ掛かるだろうな。夕食の準備が出来てるぜ。ついてきな」
アルガは部屋を出て行く。
「ご馳走していただけるようですね」
「そうみたいだな。ご厚意に甘えようか」
4人はアルガを追って食事の席に向かった。
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「ほう、学校か。それは良い施設だな。是非とも開設したいものだ」
長いテーブルの端に座るアルガが話す。
そして三人ずつ両側に座り豪華な食事をいただくナイトたち。
シトロンが誰と誰の間に座っているかは言うまでもない。
ナイトたちの世界について訊いていたアルガは学校に強い関心を持っていた。
「それで学校とは子供しか入れないのか?大人ではいけないのか?」
「い、いやそういうわけではないですけど、普通は子供の内から通うものです」
先ほどまでのいい加減な市長とは違って、真剣な眼をして質問するアルガに、ナイトは戸惑いながら答える。
「……ヘリオスの子供に算術や経営のなんたるやを教えれば、10年、20年先の経済は良い方向にいくかもしれないな、うん。それに子供たち同士将来の良いパイプになりうるかもしれん」
アルガはナイフとフォークを持つ手を止めブツブツと呟く。
(……あれ誰だ?)
(まぁ、伊達に市長を務めてないということでしょうね)
「施設はとりあえず手頃な建物を利用するとして、問題は誰が教育するのか、子供が集まるかだな。どうしていくべきか……」
アルガはブツブツといい続けながら考え込む。
「まず普段から部屋を片付けなよ」
エアが疲れきった顔で文句を言う。
「市長は忙しいんだよ。まぁあれだ、まだ時間が掛かりそうだし泊まっていくといい。俺も聞きたいことはたくさんあることだしな」
「良いんですか?」
突然の申し出にサクは聞き返す。
「珍しい客人だからな。丁重にもてなしさせてもらおうか。はっはっは」
そういって高笑いするアルガ。
「その客人に片付けなんかさせてるじゃないの」
「はっはっはっはっは」
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夕食に腹を満たし、ゆっくりしたところで部屋に案内される6人。
振り分けは3人部屋に女子3人が、2人部屋にサクとエアが、そしてナイトが1人部屋である。
そうなった経緯は言うまでもない。
それぞれがシャワーで体をスッキリさせ、用意されたゆったりした服に身を包み、再び食事をした場所に集まって談話する。
「それにしても凄いよね」
エアがすでにあきらめたようにおとなしくシトロンにドライヤーで髪を乾かされながら言う。
「本当にですね」
当然サクの頭はすでに乾いている。
エアが何の話をしているかというと、このドライヤーのことである。
取っ手に噴出孔、そして先ほどの輝石のような緑色と赤色の石。
この石が動力源になって動いている。
「さっきのシャワーと一緒だな」
狭い個室の天井に青色と赤色の石が組み合わさったものがついただけの浴室。
ナイトが不思議がっていると突然それからお湯が出てきたのだ。
「何だ、お前ら伍石も知らないのか?」
アルガが驚いたように言いながら入る。
どうやらDCでは普通らしい。
ベルが聞き返す。
「ごせき?」
「ああ、それは風石と炎石を利用したもので、お湯の出てくるのは水石と炎石を応用したものだな。輝石もその内の1つで後は冷石がある」
アルガが説明し始める。
もともとは魔法を応用したもので、下級属性の火、水、風、氷、雷、土の6つに、上級属性の光、闇、時、理の4つ、計10種類の属性魔法がある。
使用者の素質が問われるに加え、“魔石”という特殊な石があって使えるものである。
そして一般人向けに作られたのが“五石”である。
火をおこし、熱を加える“炎石”
水を生み、癒しを与える“水石”
風をおこし、涼を与える“風石”
光を放ち、闇夜を照らす“輝石”
凍らすも冷やすも良しの“冷石”
効果や寿命は物のよって変わり、半永久的に使えるものから使い捨てのものまであるらしい。
「それは大変便利なものですね」
話を聞いてリーフが感嘆の声をあげる。
アルガがリーフたちに勧める。
「少々高価だが、道中に役立つからお前らも買っておくことだな」
「明日買いに寄ってみるか。片付けの合間に」
「そうですねナイトさん。休憩がてらに」
「そうしましょう。気分転換に」
「そうだね。当分終わらないだろうし」
後の言葉を強調して言う4人。
アルガは楽しそうに笑って聞き流す。
「その魔石っていうの売ってないのかなぁ」
ベルが独り言のように呟くと、アルガの表情が急変した。
「売ってなんかいない」
何故かアルガは強くそう言い切って出て行った。
残された6人は訳も分からず顔を見合わせた。




