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Dream Circulation  作者: 深雪林檎
一章 春日井莉亜
14/20

13 出現そして老人




=====the 1st day 1日目=====




---らっしゃい、らっしゃい!


---ウズリルから良い魚が揚がってるよー


---サーダル名産のリンゴ!本日大入荷だよ!


---ヒヒヒ、そこのマダム。ガンジバレから採掘された大粒のダイヤモンドがあるよ



街の喧騒が6人の耳に突然入り込む。

気が付くと露天の並ぶ通りから伸びた袋小路に立っていた。


「着いたみたいね」


シトロンが一番に声を上げて辺りを見回す。

白く塗られた壁に茶色の屋根の着いた建物が多い。

足元は不規則な形をしたレンガのようなもので固められている。


「わぁ、すごい」


サクは感嘆の声を上げて、笑顔でキョロキョロする。


「とりあえずここにいてもなんだし、少し街を回ってみようか」


「さんせーい」


「同意します」


ナイトを先頭に6人は露天の並ぶ通りに入っていく。

しかし、『始まりの場所』以上に人が混み合っていて、結局通り抜けるのが精一杯だった。






--------------------------------------





「「あー疲れたー」」


ベルとエアがテーブルに突っ伏す。

途中にあった街の地図を見ると、6人のいた場所は露店区という所だった。

人が多すぎて情報を集めるどころではない、とナイトとリーフの意見で隣の商店区に行き、昼頃になったらしくお腹がすいてきたため近くにある飲食店に入った。


6人は円形の大きなテーブルに座ってメニュー表を開く。

ちなみに、時計周りにエア・シトロン・サク・ナイト・ベル・リーフと座り、シトロンはちゃっかりとエアとサクの間に座っている。


「文字は日本語なんですね」


サクがメニュー表を眺めながら言う。


「そうだな。それにしてもこのLPと名前は気になるな」


ナイトは頭の上にある赤いゲージを見上げる。

お腹がすいているために若干減ったゲージと自分の名前は常に頭の上にある。

ナイトたちにはあるが街の人にはなく、誰も気にしてないことから街の人には見えないようだった。


「そんな事より何か注文しよーよ」


ベルが机に突っ伏してメニュー表を眺めたまま文句を言う。


「そうですね。しかしメニューの横に書いてある数字とchip(チップ)と言うのは値段でしょうか」


リーフはメニュー表を見て疑問を口にする。

それに対してシトロンは金貨を手にして答える。


「そうね。良く見たら金貨に100cと書いてあるわ」


「あ、本当ですね」


「どれどれ、サク見してくr……」


---シュッ


---パシッ


「……シトロン、ナイフは投げる物じゃないぞ」


ナイトは掴んだナイフをテーブルに戻しながら言う。


「ナイトの言う通りです。ナイフは……切るものです」


「そうね。次から気を付けるわっ」


「……いや、リーフの言ってる事も若干危ないからな?」


「おーなーかーすーいーたー!」






--------------------------------------





「ごちそうさまでした」


サクが行儀良く手をあわせる、が、そのワンアクションで逃げ遅れたサクはシトロンに口を無理やり拭かれる。

エアは経験上真っ先に席を立っていた。


「けっこうおいしかったな」


「そうですね。是非とも作り方を伝授させていただきたいものです」


「お腹いっぱいー」


残る3人も満足そうに食器を置く。

1人当たり約10cなため、とりあえずナイトが立て替えて払い、お釣りとして銀貨(10c)と銅貨(1c)を数枚受け取り店を出た。


「さて、これからどうしようか」


ナイトはお金の入った巾着袋をポーチにしまいながら自分を含めた6人に言葉を投げかける。


「そうですね、『終点の地』について情報を集めなければなりませんが、その前にこの世界観について知っていた方が良いかもしれません」


リーフが辺りを見回しながら言う。

エアもリーフに同意する。


「そうだね。ここがイクシリル王国のどの辺りで他の都市が何処にあるのかも分かってないし」


「地図とか売ってないかなー?」


「それならあの雑貨屋さんに売ってませんかね」


サクが向かい側にある数軒離れた雑貨店を指差す。


「とりあえず行ってみるか。他にもいろいろあるかもしれないし」


ナイトは雑貨店に向かって歩き出す。


「……みんな下がれ」


「え?」


---ガシャーン


「わっ!?」


ナイトの言葉に5人が戸惑っていると、雑貨店から何かが飛び出す。

頭の上に【フィグラー】と表示された真っ黒な人型のモンスター。

それが屋根の上に登って逃げようとする。


「ちっ、セロ!」


ナイトは純白の“一心”を出して建物に走り、建物の出っ張りを足場にして二飛びで屋根に登った。


「ピキィー!」


追いつかれたフィグラーは興奮したようにナイトに向かって襲いかかる。


---シャ


鞘から刀が抜ける音がして、フィグラーの胴から上が飛ぶ。

そのままフィグラーは光となって消え、銀貨を数枚落としていった。


「ふぅ」


ナイトは“一心”をしまい、銀貨を拾って屋根から降りる。


「ナイトさん大丈夫ですかっ?」


サクは真っ先に駆け寄り、ナイフを心配する。


「大丈夫だよサク」


ナイトはサクの頭をポンと優しく叩いて、雑貨店を見る。

すでにリーフとシトロンが様子を見に行っていて、店主も無事であった。


「ナイト君良く分かったね」


「なんとなく雑貨店に近付いたら心臓がざわついてね」


ナイトはエアの問いに笑って返す。


「ああ、君。アイツを倒してくれてありがとうな」


ナイトは声をかけられてそっちを向く。

そこには雑貨店から出てくる老人がいた。

老人にしては真っ黒な髪のせいで瞬時に老人とは分からない。


「いえ、お怪我は無かったですか?」


「ワシなら大丈夫じゃ。ったくアイツらと来たら何処でも構わず出て来よって」


老人は忌々しそうに顔を歪める。


「ここには良く出るんですか?」


まるで日常茶飯事のような老人の口振りにベルが訊く。


「そうじゃが……あんたら旅のもんかね?ま、とりあえず立ち話もなんじゃからウチに入るといい。中の方は無事じゃから礼と言っちゃなんじゃがお茶くらい出させてもらうよ」


「ありがとうございます」


ナイトたちは老人に招かれて、外壁の無い雑貨店の奥に入っていった。






--------------------------------------





「ほうほう、気が付いたらこの街にいたと」


老人は椅子に座って目を丸くして話を聞く。

6人もまた椅子やソファに座っている。

とりあえずここに来る以前の事は黙っておくことにした6人は、ここに来てからの事をナイトを中心にいきさつを説明した。


「ええ、ですからここが何処なのか良く分からないのです」


リーフは困った顔で老人に言う。


「そうじゃのう……ちょっと待っておれ」


そう言って店の方に行った老人は、何やら折り畳まれた丈夫そうな紙を持ってすぐに戻ってきた。


「これじゃこれじゃ」


老人はテーブルの上にその紙を広げ始める。


「おじいちゃん、これ何?」


ベルが訊く。


「これはイクシリル王国、この国の地図じゃよ。そしてここヘリオスはここじゃ」


老人は地図の中心あたりを指差す。

老人の説明と地図によると丸みをおびた形のイクシリル王国のほぼ中心地にヘリオスはあるらしい。

そして北に真っ直ぐの場所に王都イクシル、東北東の方角に樹海都市サーダル、南南東に港湾都市ウズリル、西南西に炭鉱都市ガンジバレがある。


「さっきのじゃが、フィグラーと呼ばれておっての、ヘリオスではここの商店区にたまに突然に出てくるんじゃ。運が悪いと店が吹き飛ぶが……まぁ壁だけで済んだのならマシなほうじゃろう」


老人は先程とは違い笑って言う。


「おじいさん、『終点の地』って知らない?」


エアが尋ねる。


「……『終点の地』……どこかで聞いたことがあるような気がするのう」


老人は顎髭を手で触り、思い出そうと考え込む。


「たしか……おお、そうじゃそうじゃ。古い物語にそんな話があったのう」


「本当ですか!?」


その言葉にサクが喜ぶ。


「しかし、なんでそんな事を聞くんじゃ?」


「えっと、何故かみんなその言葉が頭に浮かんだんですよ。不思議な事ですが」


静夜は苦し紛れに嘘を言う。

あながち嘘でもないことだが。


「そうか。たしか物語も主人公が突然見知らぬ地にいる話で、旅の終点を探す話じゃったのう」


「それでそれは何処にあるのかしら?」


「うむ、たしか北の地と書いてあったような気がするのう。イクシリル城が建ってもいないくらい昔の頃の物語じゃが」


「では王都でしょうか」


リーフは地図を確認する。

王都イクシルは山の麓に広がるようにあり、その山も老人によると厳しい山岳のため人が踏み入れる場所ではないらしい。


「よし、じゃあそこを目指そうか」


「はいっナイトさん」


6人は良い情報が早速入り活気付く。


「それは無理じゃの」


が、老人が一言でそれを削いだ。

6人が怪訝な顔で老人を見ると、老人は深く息を吐いて口を開く。


「今、王都は厳戒体制になっているため入れんのじゃ」


「何でなの?」


「王位継承の日が近づいておるからじゃ。そうじゃのう、後ひと月程の辛抱じゃ」


「「「「「「ひと月!?」」」」」」


全員が老人の言葉に耳を疑う。

期限までは21日しかない。


「なんじゃ?そんな待てないのかのう」


老人は6人の反応に驚いて目を丸くする。


「そうじゃのう……じゃったら市長から許可証をもらわんとのう」


「市長さんですか?」


サクが聞き返す。


「そうじゃ。少し待っていなさい」


老人はそう言うとまた店の方に向かっていった。

今度は中々戻って来ないため6人は話し始める。


「許可証もらえますかね?ナイトさん」


「ああ、だと良いな」


「とは言え思ったより早くことが済みそうですね」


「リーフの言うとおりね。ちょっとつまらないわ」


シトロンが退屈そうに言う。


「いや、つまるつまらないの問題じゃないと思うが」


ナイトは苦笑する。


「えー、楽しい方が良いよー」


「ベルは楽しければ何でも良いだけじゃん」


「えへへ、エアちゃん正解ー」


「……ちゃんを付けるなって」




しばらくして老人が戻ってきた。

手には再び何かを持っている。


「お待たせしたのう。ほれ、これを持っていきなさい」


老人はナイトに手紙のような物を手渡す。


「何ですかこれ?」


「それを市長に渡すといい。多分許可証をくれるじゃろう」


老人は笑いながら椅子に座る。


「ついでにこの地図も持っていくといい。どうそ店の商品じゃしの」


「ありがとうございます」


ナイトは立ち上がってお礼を言う。


「気を付けて行くんじゃぞ」


他の5人もそれぞれ挨拶をして、店を後にした。


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