表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dream Circulation  作者: 深雪林檎
一章 春日井莉亜
11/20

10 報酬そして眠神

震災の被害に遭われた方に心より御冥福お祈りいたします




「そういえばナイトさんの“一心”ってすごい切れ味なんですねっ」


拠点に戻り、残り時間が一時間をきった頃にサクが思い出したように言う。


「ん?」


暇潰しに近くで拾った手頃な木で素振りをしていたナイトは何のことか分からず聞き返す。


「だって僕の“陰陽”じゃベルビディアの手を傷付けるくらいしか出来ませんでしたから。ナイトさんは真っ二つじゃないですか」


「うーん、切れ味はすごいと思ってたけどそんなにすごいのかなコレ」


ナイトは木を一旦置いて“一心”を出して眺める。

刃こぼれ一つ無く、銀の刀身にナイトの顔が映る。


「僕の“陰陽”は木くらいの硬さなら何とか切れるくらいですからね。“一心”と違って短いですし」


サクも“陰陽”を出して眺める。

全長4尺程(約120cm)ある“一心”と違って“陰陽”はそれぞれその半分程しかない。

“一心”より小回りがきくとはいえ急所をを考えなければ、威力や切れ味においてはかなり劣る。


「護身用としては十分なんですけど、さすがにそれだけじゃ駄目ですから……イタッ!」


「こら、サク」


ナイトはサクの額にデコピンをする。


「サクは無理する必要はないんだよ。できないなら俺を頼りなよ。俺たちもう友達だろ?」


「ナイトさん……ありがとうございます」


サクが額をさすって、デコピン痛みのせいかそれとも別のせいかうっすらと涙を浮かべた。


「いいって、気にするなよ。それにしてもこの三日間なんだか長かったなぁ」


ナイトは晴れ渡った空を見上げながら思い起こすように呟く。

サクも同じように空を見上げる。


「ふふ、そうですね。もう三日間ですか。現実世界では何時間かしか経ってないなんて信じれませんね」


「ああ、誰がどんな方法で、何の目的でやってるのか根本的な事が全く分からないしなぁ」


「あ、そう言えばそうですね。そんな大事な事考えてもなかったです」


サクがそういえばと考え込むが、ナイト同様に全く分からない。


「学校の友達の安否も気になるし。まぁ多分大丈夫そうだけどな」


ナイトは笑いながら莉亜と鈴を考える。

莉亜は賢いし運動神経もそこそこ良いから、鈴は本能的に行動するタイプだが抜群の運動神経で大丈夫だとナイトは思う。


「……そうなんですか。無事だと良いですね」


サクは無理に笑顔を作る。

佐々木がDCでアクシデントに遭えば、サクは学校で虐められる事は無いのではないか。そんな事を考えてしまう自分に自己嫌悪していた。


「サクの方は大丈夫かな?」


「えっ!?」


突然ナイトに振られてサクは狼狽する。


「あ、はい。知り合いは多分いないと思いますから」


「そっか。それなら良かった」


ナイトは“一心”をしまって再び木の棒で素振りを始める。


「……セロ」


サクもボソッと呟いて“陰陽”をしまう。

右手に現れる太極図の刻印。

陰があるから陽があり、その逆も然り。

サクにとっては何の皮肉か、はたまた因果なのか、まだ誰も分からない。






--------------------------------------






「あと1分だ」


ナイトが看板を確認してサクに告げる。


「また『始まりの場所』とかいう所にに戻るんですかね?」


「かもしれないな。これで終わりってことはないだろうし」


機械音の声の主は生き残ったら報酬を与えると言っていたから、報酬についての何らかの説明があるはずだとナイトは思う。

それに、ナイトには訊きたいことが幾つかあった。


看板の時計が30秒をきる。


「サク、これからどうなるかまたさっぱり分からないけど、いつでも俺を頼ってくれ」


「はい、ありがとうございますナイトさん」


二人は時計を黙って見つめる。

看板に0の数字が並んだ瞬間、二人の視界は真っ白になった。







--------------------------------------







「あ……」


ナイトが気が付くとやはり『始まりの場所』に立っていた。

しかし周りの高校生たちが少ない。

多分生き残れなかった人たちはいないのだと思い、ナイトは握り拳をつくる。

高校生たちは安堵からすぐにざわつきはしゃぎ始める。


『やあ、お疲れ様。楽しかったかい?』


「「「っ!?」」」


相変わらず突然に機械音の声が響き、高校生たちの動きが止まり静かになる。

ナイトにとっては予想していたことだったので驚かない。

それよりもサクや莉亜に鈴などが近くにいないかと、やや視界の良くなった周りを見回すが見当たらなかった。


『まぁ、いろいろあるだろうけどまずはベルビディア討伐の報酬から渡そうかな?といっても10人しかいないけどね。討伐者はさっき選んだ数字を頭に思い浮かべて【carved】(カルバー)って唱えようか』


「……カルバー」


ナイトが言われた通り呟くと“一心”の時と同じように光が収束し出すが、それはナイトの目の前で5つ現れる。

向かって左から紅、橙、黄、翠、蒼の色をした長さ2尺弱の小太刀が五本が、ナイトの前に浮いている。

ナイトはまた驚かさせられながら紅色の小太刀を手に取り、引き抜いてみる。


「あ……」


ナイトは思わず声を上げた。

刀身も同じように紅色だが、薄く透き通って向こう側が見える。

まるでガラス細工や飴細工のような小太刀に見惚れつつ鍔元に目をやる。

“仁”とそこの銘だけ黒く存在感を誇っている。

ナイトは“仁”を鞘に納め、手を離してみると再び元の場所に戻って浮く。

ナイトは残りの4本も確かめてみた。

橙には“義”、黄には“礼”、翠には“智”、蒼には“信”と銘がうってあり、“仁”と同じく綺麗な刀身だった。


「五常……か」


“仁義礼智信”とは儒教における“人が常に守るべきもの”である。

そしてそれを総称して“五常”と呼ばれる。

ナイトが“五常”を見ている間に機械音が、再び言えば消えると説明していたので、ナイトは一通り見たあとまた呟く。


「カルバー」


光となって消える“五常”は左手に刻印を刻んだ。

“一心”の刻印を囲むようにして“五常”が五角形を描いている。

そこでナイトは周囲の高校生から羨望の眼で見られているのに気が付く。

近くにベルビディアを討伐した他の高校生がいなかったようで、ナイトは注目を集めていた。


『よし、じゃあ次は生存報酬だね。ここにいる人にはコレをあげよう』


機械音がそう言うと、高校生たちの目の前に巾着袋が現れる。

ナイトはそれを手に取って開けてみると、中に金貨らしきものがたくさんはいっていた。

普段見慣れない金貨にあちらこちらから歓声があがる。


『全部で100枚ある。明日からのゲームで使うからポーチに忘れないように入れておくと良いよ』


ナイトは袋の口をしっかりと縛ってポーチに入れる。


『じゃあみんなが聞きたいことを説明しようかな。まずここにいない人たちは、まぁ平たく言えば死んだね』


途端に高校生たちがざわつく。


『と言ってもDC内でだけどね。死んだ感覚とかはしっかりあるけど、現実世界にはなんの影響も無いから心配しなくていい。……まぁDCで死にすぎて発狂しないとは言い切れないけどね。ははは』


機械音が心の底から楽しそうに笑いながら話すのを、ナイトは苛立ちながらも大人しく聞いていく。


『大半はもう分かってると思うけど、DCで今日死んでも明日には生き返るよ。生命は世界が続く限り半永久的に循環する。DCはその周期が速く、パターン化しているだけだからね。

で、今日の3日間は実はチュートリアルみたいなものだったんだけど、明日から本番に入ってもらうよ。詳しくは明日みんながいる時にまた話すけど、まあ本格的にRPGが始まると思ってて良いよ。

とりあえず僕の方から言いたい事はこのくらいだけど、みんなから訊きたいことは無いかい?』


機械音は質問が無いか高校生たちに訊く。

ナイトは大きく声を上げる。


「幾つか質問がある!」


『はい、どうぞナイトくん』


「何の目的でこんな事をやっているんだ?」


『んー目的かー。暇潰し?』


「なっ!?」


あっけらかんと答える機械音。


『長年生きてると人生に退屈してくるんだよね。だからたまには盛大なゲームをしてみるわけだよ』


「そんな喋り方でも年はくっているわけだ」


『そうだね。ご想像にお任せするけど?』


機械音が笑い耳障りな音が響く。

ナイトは続けて訊く。


「じゃあどうやってこんな事をしてるんだ?」


『ああ、魔術さ』


「…………」


『本当だって。そんな顔しないでよ』


ナイトを含める高校生たちが一様に黙りこくって怪訝な顔をしたため、機械音が慌てたような楽しんでいるような声を出す。


「じゃあ最後に、あんたの正体は?……と聞きたいところだけど言わないだろうから……あんたの事を何て呼べばいい?」


『ははは、その通りだよ。そうだね……じゃあ【hypnos】(ヒュプノス)とでも名乗っておこうかな』


「ヒュプノス……ね。“眠りの神”とはずいぶんと良い名前じゃないか」


ナイトも笑って返す。

夜の女神ニュクスの息子で、死の神タナトスの弟。

「夢」を司る神々の父親でもある。

眠りを誘う強大な力を持ち、その能力は神々に利用された。

主女神ヘラの願いで、トロイア戦争の際に全能の神ゼウスを眠らせている。


『へぇ、ずいぶん博識だね。まぁいいや。それじゃ今日はこれでお終い。また明日をお楽しみに』



ヒュプノスの言葉が終わると同時に高校生たちは強い眠気に襲われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ