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35話。魔王軍でヘレナの兵団をボコボコにする

【ヘレナ視点】


 私は廃城の玉座に、女王のごとく腰掛けていた。


 手にしたワインを揺らしながら、眼前のモニターに映る盤石の布陣に笑みを漏らす。この王座と繋がったモニターは、錬金術によって作られたゴーレム兵団制御装置よ。


 赤い光点で示された5000体ものゴーレム兵団が、この森の廃城を守護していた。


「ふふふっ、これで【水の聖女】と勇者王レオンがやってきたら、飛んで火に入る夏の虫というわけね」


 私は勝利を確信し、前祝とばかりにワインをあおった。

 この城は、元々、魔族の侵攻を食い止めるために建築された防衛施設だった。


 城壁の堅牢さは健在であり、敵に大軍で攻めかかられても、持ち堪えることできるわ。


 しかも、城を守るゴーレム兵団は、毒ガスを撒く対人兵器だった。


 人間を殺すのに、大地を割るような斬撃も、海を蒸発させるような劫火も必要ないわ。毒を吸い込めば、人間は呆気なく死ぬ。少なくとも、その戦闘力を激減させるわ。


「……あなたは仮にも聖女であるのに、勇者であるレオン様まで討とうというのですか?」


 鎖で縛って吊るした大地の聖女ユリシアが、私を睨みつけてくる。その無様な姿が、私の優越感を満たす。

 この娘にも、苦汁を飲まされたからね。


「ええっ。勇者も聖女も、しょせんはこの世界を維持するためのシステムに過ぎないわ。システムなら、その原理を解明して、自分たちに都合の良いように利用することが可能。ただそれだけのことでしょう? お前も仮にも錬金術師なら、理解できるのではなくて?」


 私はせせら笑った。

 水の聖女アンジェラは十中八九間違いなく、勇者王レオンと聖騎士団を引き連れてやってくるわ。一人ではこの私に勝てないことは、さっきの戦闘で思い知ったでしょうからね。


 その対策は万全よ。

 ユリシアを人質にして時間を稼いでいる間に、毒ガスによって、奴らを殲滅すれば良い。

 

 【水の聖女】には毒は通用しなかったけど、勇者王レオンと聖騎士団は、これで倒せる。あとは、1人になったアンジェラをなぶってお終いという訳ね。


 もっとも、死者が出ることを恐れて、アンジェラが本当に一人でやって来るようなら、それはそれで好都合だけど。


「真理の探求。この世の真実を解き明かしたいという気持ちは、わたくしにもあります。でも、それを私利私欲のために悪用し、大勢の人を傷つけようとは、思いませんわ」

「はぁっ、公女として生まれ、苦労も挫折も経験したことの無いお前は、頭がお花畑なようね。いいこと? この世には、支配する側とされる側の二種類の人間しかいないのよ。私は、支配する側に居続ける。どんな手を使ってもね」


 その時、敵襲を知らせる警報が鳴り響いた。

 制御モニターの味方ゴーレムの位置を知らせる赤い光が、急激にその数を減らしていく。


「なっ、何? 何が起こっているの……!?」


 慌ててモニターの映像を、城外の様子を映したものに切り替える。そこで繰り広げられている事態に、私は愕然とした。


 ゴーレム兵団が空を埋め尽くした飛竜の群れによって、上空から岩石を落とされて、潰されていた。

 次々に、まるで廃棄処分されるオモチャのごとく……!


「飛竜ですって!? な、なぜ魔物が私のゴーレム兵団を攻撃しているの!?」


 訳がわからない。

 魔物は、人間か敵と見做した相手を攻撃する。その習性上、ただ待機しているだけのゴーレムに攻撃してくるなんて、あり得ない。


 反撃を指示しようにも、毒ガスでは、あんな上空にいる飛竜を攻撃できないわ。


「とにかく、落下物から身を守れる位置……大木の陰に移動しなさい!」


 慌ててゴーレム兵団に命令した。でも、ゴーレムたちの動きが不自然に鈍い。

 モニター映像を拡大すると、大量のスライムが、ゴーレムたちの足に絡みついていた。


「なんてこと!? 蹴散らすのよ!」


 ゴーレムたちは、毒ガスを発射し、拳でスライムを殴りつける。しかし、いずれも粘液状の身体であるスライムには、効果が薄かった。


「そ、そうだったわ。スライムは毒と打撃に耐性がある……!」


 この毒ガスゴーレムでは、対処のしようがない。


「グランド・マスターから賜った戦力が!?」

 

 まさに悪夢としか言いようが無かった。

 上空からの質量攻撃と、地上での足止めという完璧な連携で、私のゴーレムが次々に撃破されていく。


 それで、理解した。敵は統率された軍団。

 今、起こっているのは、こちらの陣容を把握した上での魔王軍の攻撃であると。


「どうして魔王軍が、突然、この城を!?」


 聖王国への侵攻が、タイミング悪く、今、始まったということなの!?


 でも、兵が駐屯していないこの廃城を、大軍で攻略するなんて、意味がわからないわ。


「……もしかすると、聖女であるユリシアとこの私が狙い? でも、私たちが、ここにいるという情報を、どうやって手に入れたというの!?」

「うぉおおおおッ!」


 私の思索は、野太い鬨の声によって破られた。

 なんと、2000人近いオーガが、廃城に向かって突撃してきたのよ。


「我こそは、魔王様が四天王の1人、【城砕き】のゴルドなり!」


 先頭に立つ巨漢のオーガ族が、巨大な戦斧を振りかざして、城門に叩きつけた。

 地震のような振動がここまで響き、城門が粉砕される。


「魔王様に楯突いた愚か者を殺せぇえええ!」


 奴らが、廃城に雪崩れ込んでくる。

 さらに怒涛のように現れたゴブリンやオークの大軍が、この城を包囲してきた。

 奴らは武器を振り上げて野蛮な叫び声を上げる。


「魔王……!? この私が魔王に楯突いたですって!?」


 その時、轟音と共に、天井がぶち破られた。

 降り注ぐ瓦礫と月光を背に、一人の少女が舞い降りる。


「……水の聖女アンジェラ!?」


 銀髪をなびかせ、絶対零度の氷剣を携えるその姿は、紛れもなく憎き水の聖女。だが、その目だけが違った。 

 奴の瞳は、炎のような赤色だった。


「い、いや、お前は、まさか!?」


 驚愕に声が震えた。


「火の聖女ヘレナ、この魔王アンジェラが叩き潰してやるわ!」

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