25話 人間たちの抗い2
25
毒を喰らったところ危機に陥っていた私は、唖然としてその光景を目の当たりにした。
飛び込んできたふたりの人間の少女。
そのひとり、頭から狼のものと思しい毛皮をかぶったマリナさんは詠唱を叫ぶ。
「――忘れじの神。彼岸の君。与えられし権能をここに!」
はるか格上の相手に立ち向かう勇気は、さすが国内有数の冒険者。
とはいえ、真に目をみはるべきは、その勇気を蛮勇にしない実力だ。
「――ッ! ガアァアアアアアアアアアッ!」
詠唱を終えた彼女が、壮絶な叫び声をあげる。
途端、地を蹴って疾走する速度が倍加した。
「これは……!?」
驚いた。
ぎりぎりではあるものの、速度が私やフード女についていける域に向上している。
なにより、明らかに普段とは違う異様なまでの戦意をまき散らしていた。
あれは確か狂戦士化魔法。
とても珍しい魔法だ。
滅びの獣ではないが、魔王としての主様に仕えていた有能な配下のひとりに使える者がいたので、見たことがある。
効力は身体能力の劇的向上。
ただし、燃費が最悪なうえに肉体への負担が激重だったはずなので、文字通りの切り札だ。
腕をぶった切られた直後の体で使うようなものではない。
歯を食いしばってここで使ってみせたのは、人間とはいえさすがは上級冒険者というほかなかった。
とはいえ、その切り札ですら、フード女の攻撃をとめるには足りていない。
狂戦士化魔法は全能力値を引き上げるが、それはつまり、元の能力値がそのまま底上げされるということだ。
戦闘能力の水準自体は上がっても、軽戦士である彼女の攻撃は鋭いが軽く、防御がもろいのはそのままだ。
フード女相手に、私をかばって正面から対抗すればもろともにつぶされる。
だから、彼女は強烈な一撃をぶち込むための『武器』を携えていたのだ。
主様の宝石を。
「――我が手に宿り、数多束ねて狂え、風の刃!」
狂戦士化したマリナさんに抱きかかえられて戦場に割り込んだエステルさんが、詠唱とともに両手を突き出す。
至近距離で放たれたのは、自爆覚悟の過剰魔法。
魔法専門でもない主様が過剰魔法を使いこなせていたのは、当人の死に物狂いの努力もあるのは大前提として、本職であるエステルさんの献身的な協力があったことは想像にかたくない。
なら、エステルさん本人も過剰魔法を使えて当然だ。
本職の魔法使いが魔力を暴走させた一撃であれば、確かに最下層クラスの怪物にも通じるだろう。
とはいえ、しょせん、エステルさんは銀級冒険者レベルだ。
後衛の距離からでは回避されてしまう。
そう判断して、飛び込んで放つという選択をした。
……なんてことを。
その決断は狂気的というほかない。
同時に、彼女が戦場に割り込んでこようとするなら唯一の正解でもある。
「ああああああああ!」
「――ッ、ギャッ!?」
フード女がとてつもない勢いで後方に吹っ飛び、反動でその逆方向にエステルさんとマリナさんが吹っ飛んだ。




