20話 従者の戦い4
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クリーン・ヒット。
首の骨をへしおりかねない一撃だが、これですませるつもりはない。
このまま一刀両断にしてやる――そう思ったところで、私は足をとめた。
「これは……っ!?」
危機感。
ただし、それは自分自身だけのものではなく。
一撃を放つのを中断し、即座に飛びすさる。
直後のことだった。
「世界ニ、秩序ヲ。反逆者ニ、絶望ヲ――オオ! 神ハ大イナル慈悲ヲ与エン!」
「!」
絶叫したフード女の体から、真っ白いなにかが吹き上がった。
吹きすさぶさまは、まるで吹雪のように。
けれど、そのような穏当なものではありえない。
近くに落ちていたバリケードの残骸の木片が、巻き込まれた途端に黒ずんだ色に変わる。
その正体を直感し、私は血の気がひいた。
「毒!? 小癪なまねを……!」
全周囲に向けて放たれた白い毒は、なにもかもを巻き込んで蝕んでいく。
どう見ても猛毒。
逆鉾様はともかくとして、人間たちに耐えられるものではない。
このままでは、主様を含めた全員が巻き込まれる……!
「――禍つの風よ!」
とっさに簡易詠唱で風を呼び出した。
毒を吹き払うだけならこれで十分なはずだ。
呪いを帯びた風が、白い毒を押しのける。
さいわい、対応は間に合った。
……人間たちに関しては、だが。
「が……っ!?」
全身に走る激痛に、思わず私はうめき声をあげた。
手足が痙攣する。
カクリとひざが折れて、両手を地面に突いた。
「ぐ。少し……吸いましたか」
もともと直接フード女と戦っていて一番近くにいたうえ、あまりさがるとみんなを戦いに巻き込んでしまうために、距離を取りきれなかったせいだった。
「ぐふ……っ」
込み上げてきた赤いモノを吐き出す。
大した毒性だった。
獣たるこの身に大概の毒は通じない。
通じたとしてもとっさに魔力で抵抗力もあげていたのでダメージは抑えられるはず。
なのに、抵抗力を貫通してきた。
いや。それだけではない。
「ただの、毒ではありませんね……」
肉のなかで毒性が増している。
毒はむしろ副産物で、実体は別にあるのかもしれない。
無論、敵がこのすきを見逃してくれるはずもない。
「反逆者ニ、絶望ヲ!」
フードをひるがえして飛び込んできた女が、片手から木の槍を突き出してこちらに振るってきて――。
「なめるな!」
その一撃を、私は薙刀の一振りでへし折った。




